日本に外国人が入国する場合、就労ビザなど何らかの在留資格を得て入国することになります。
しかし、中には正当に手続きを進めず、虚偽の書類を提出して入国する外国人も存在していますし、日本での在留状況に問題がある外国人もいます。
もし、自社で働いている外国人材が上記の例に該当した場合、外国人の在留資格が取り消されてしまうおそれがあります。
この記事では、在留資格の取り消し制度や、取り消された場合の企業の対応について解説します。
在留資格の取り消しについて
外国人材の就労ビザについて、いったん在留資格を付与されたら、
「その在留期間の有効期限までは有効なまま」
と考えている人は多いかもしれません。
実際のところ、特段問題を起こさずに過ごしている人材に関してはその通りなのですが、日本にとって問題のある外国人材については、そのようなルールは適用されません。
在留資格取り消しとは何か
在留資格取り消しとは、入国時に一度認められた在留資格が、その後何らかの事情によって取り消されてしまうことをいいます。
具体的には、外国人が不正な手段で在留資格を得た場合や、取得した在留期間に応じた活動を行わないでいた場合などに、その外国人の在留資格を取り消すというものです。
2016年の入管法改正までは、在留活動に応じた活動を「3ヶ月以上行っていない場合」に初めて、在留資格の取り消しが可能とされていました。
しかし、改正後は3ヶ月が経過していなくても、在留資格に応じた活動を行っておらず、かつ他の活動を行い・または行おうとしている場合、在留資格を取り消すことが可能となりました。
入管法改正の背景としては、
こういった外国人の存在が問題となった点があげられます。
罰則も厳しくなっており、偽りその他の手段によって、
上記の許可を得た外国人は、
の刑に処される可能性があります。
在留資格が取り消しになるケース
外国人の在留資格が取り消しになる原因は様々ですが、出入国在留管理局では具体的な理由を公開しています。
厳密にお伝えすると、取消事由は10件あるのですが、大まかにまとめると以下の4つに大別されます。※(入管法第22条の4)
なお、取消事由に該当した外国人の帰国のタイミングですが、在留資格が取り消されてから、
上記の2ケースに分類されます。
「正当な理由」があれば取り消しの対象とならない
入国時に定められた活動を行わないで在留していた場合は、いかなる理由でも在留資格が取り消されるわけではなく、正当な理由がある場合は取り消し対象となりません。
就労ビザを持っている外国人が、再就職先を探すために就職活動を行っているにもかかわらず、就職先が見つからない場合などが該当します。
新型コロナウイルスや社会情勢などの事情により、再就職先が見つからないケースが生じることは、誰にでも十分考えられることです。
日本人または永住者の配偶者に関しても似たようなケースがあり、離婚調停中などの事情から在留している場合なども、在留資格取り消しに該当しない正当な理由と判断されるでしょう。
ただし、離婚調停中などの理由なく、離婚後に配偶者としての活動を6ヶ月以上行っていない場合は、在留資格取り消しの対象となる可能性があります。
その他、留学生が資格外活動に集中して、学校の出席率が悪い場合も問題となります。
在留資格取り消しにともなう企業のリスク
自社で働いている外国人労働者が、在留資格取り消しによってこうむるダメージは、決して小さいものではありません。
以下、在留資格取り消しにともなう、企業のリスクをいくつかご紹介します。
罰則に該当するリスク
自社で外国人労働者を雇用する際は、自力で雇用にまでこぎつける場合、登録支援機関や人材紹介会社などを頼って雇用する場合など、いくつかのケースが考えられます。
ただ、自社がどこまで入国・雇用に関わっているのかによっては、自社が罰則の対象となる可能性も十分考えられます。
例えば、営利目的で不正な入国を手助けした人は、
といった刑に処されるおそれがあります。
自社がまったく入国に関与していなかったとしても、当該外国人に採用して働いてもらったことは事実なので、何らかの形で入管側から事情を聴かれる可能性は十分考えられます。
まして、各種支援機関に頼らず、自社で外国人を一から雇用したのであれば、罰則が適用されることも十分考えられる話です。
仮に刑に処されなかったとしても、自社のブランドイメージに傷がついてしまうことは、かんたんに想像できます。
入国・在留資格取得手続きのミスは、やがて大きな問題となって返ってくるものと考えておきましょう。
ペナルティはなくともダメージはある
外国人の在留資格取り消しについて、自社にまったく落ち度がなかったとしても、業務上のダメージは避けられません。
これから働いてもらおうと考えていた人材が、急にいなくなってしまう(働けなくなってしまう)わけですから、たちまち労働力不足におちいってしまうでしょう。
退去強制ではなく、出国にあたり30日の猶予が設けられたとしても、その期間内に別の労働者を確保するのは難しいはずです。
また、ある程度職場になじんでいる人材の場合、高度な業務を任せていることも十分考えられるため、残ったスタッフは短時間でいきなり引継ぎを要求されることになります。
当然、現場としても引継ぎを想定していないので、大混乱となる可能性があります。
能力の高い人材であればあるほど、在留資格が取り消されてしまうと、企業・現場にとって痛手となるものと考えておきましょう。
いったん出国してからすぐに戻ることも難しい
日本から、退去強制または出国命令によって出国した外国人は、いったん母国に戻ってからすぐ入国というわけにはいきません。
なぜなら、出国したそれぞれの理由に応じて「上陸拒否期間」というものが設けられているからです。
上陸拒否期間とは、入管法の規定にもとづき、一定期間外国人が日本に上陸できなくなる期間のことです。
具体的には、以下の事由に該当する外国人は、所定の期間、日本に上陸することはできません。
退去強制に至った外国人に関しては、企業側としても再度採用する意向はないものと思われます。
問題は、出国命令により出国した外国人で、正当な理由があったのに誤解によって出国させられてしまった人材がいた場合、将来を考えてケアすべきかどうか判断が分かれるところです。
仮に、人材の出国後に消極的な態度をとった場合、母国で自社のイメージダウンになるリークが発生しないとも限りません。
人権問題・国際問題にまで発展し、メディアをにぎわせる状況になれば、当人が日本にいない分だけ不利になることが予想されます。
まして、自社の発展に貢献してくれている人材ならば、なおさらサポートを惜しまないようにしたいところです。
自社と外国人労働者にとって、マイナスにならない方法を模索することが、企業の責務と言えるでしょう。
在留資格取り消しを迎えた企業がとるべき対応
法務大臣が外国人の在留資格取り消しに向けて動いた場合、入管法にもとづく手続きの流れとしては、
「入国審査官が、在留資格取り消し対象の外国人から意見を聴取しなければならない」
というルールがあります。
そのため、入国審査官が意見聴取通知書を対象の外国人宛に送付したところから、本格的に手続きが進んでいくものと考えてよいでしょう。
意見聴取通知書が届いたら
意見聴取通知書とは、入国審査官が在留資格取り消しについて意見を聴取する旨を記載した書類のことです。
書面には、以下の内容が記載されています。
意見聴取通知書が届いたら、当該外国人は指定された期日に、指定された場所へ出頭し、意見聴取を受けなければなりません。
万一、指定された日時に出頭できない場合、あらかじめ管轄の地方出入国在留管理局へ連絡し、日程を調整する必要があります。
陳述・証拠提出のための準備をする
意見聴取通知書が届いた段階で企業ができることは、当該外国人のサポートを行うことです。
真面目に働いているはずの外国人が意見聴取通知書を受け取った場合、どうして自分が疑われているのかと不安に思うことが予想されますから、まずは外国人から事情をよく聞くことが大切です。
意見聴取通知書には、在留資格取り消しの原因となる事実が記されているので、まずはそういった事実があったのかどうかを確認していきましょう。
そこで、事実はあるものの正当な理由があった、または活動を誤解されていたなどの事情が見受けられた場合、入国審査官に分かるような説明が必要です。
ここで問題になるのは、基本的に本人が意見聴取の場に出なければならないことです。
代理人になれるのは、後見人、未成年の親権者などの法定代理人、在留資格取り消しの対象者が指定した弁護士に限られているのです。
外国人のすべてが流ちょうに日本語を話せるとは限らないため、中途半端なやりとりがさらなる誤解を招き、出国の悲劇につながるおそれもあります。
そこで企業としては、以下のようなサポートを試みたいところです。
懇切丁寧な対応を心がけることで、外国人労働者の意識も変わり、自社に対する信頼感を醸成することにもつながります。
ピンチはチャンスであることを意識して、積極的なサポートを進めましょう。
結果を受け入れる
正当な理由を証明するために、準備を進め賢明な対応ができれば、入国審査官は公正な対応をしてくれるものと考えてよいでしょう。
しかし、弁明のための準備が思うようにできず、残念ながら在留資格取消通知書が届いてしまうこともあります。
取消事由によっては、入国管理局側に収容される可能性もありますが、出国まで猶予期間が与えられた場合は、当該外国人と今後のことについて話し合っておく必要があります。
出国命令の場合、出国した日から1年間は日本に入国できないため、その間の就労・母国での生活についてなど、諸々のことを話し合う時間を設けたいところです。
実際のところ、出国命令が出た段階で、よほど自社にとって重要な人材でない限り、次回の採用は期待できないものと考えておいた方がよいでしょう。
ただし、出国をごねる、あるいは不法に残留していることが分かった場合などは、地方出入国在留管理局への出頭を促し、手続きのサポートを進めましょう。
まとめ
在留資格取り消しは、外国人労働者を雇用している企業にとってはショッキングな出来事です。
しかし、起こってしまった以上は、企業のダメージを最小限にできるよう、対応を進めていきたいところです。
問題に毅然と対応することで、外国人労働者の自社に対するイメージを良いものに変えられる可能性があり、次回外国人を雇用する際の参考情報にもなります。
後ろ向きに考えず、前向きに対処することが、企業の採用活動の財産となるでしょう。