在留資格「特定技能」には、最長在留期間が設定されている特定技能1号のほか、定期的に更新すれば在留期間の上限がない特定技能2号があります。
令和5年6月9日の閣議決定により、特定技能2号の対象分野が拡大したことを受けて、今後本格的に日本に生活の拠点を移そうと考える特定技能人材も増えることが予想されます。
そのような状況においては、日本で妊娠・出産を経験する特定技能人材の増加も見込まれます。
この記事では、多くの企業が備えるべき「特定技能外国人が妊娠した際の対応」について解説します。
特定技能外国人の産休・妊娠・出産について
まずは、そもそも特定技能外国人が妊娠した場合、産休を取って日本での出産が認められるのかについて、大まかに解説します。
特定技能人材の国内での産休取得・出産はOK
大前提として、特定技能外国人の妊娠が日本国内で発覚した場合、産休を取得して日本国内で出産することは問題ありません。
また、各種給付金等の制度に関しても、日本人同様にその恩恵を受けられます。
根拠の一つとして、男女雇用機会均等法では、次の通り「婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱い」を禁止しています。
※出典元:e-Gov|雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
特定技能外国人受入れに関する運用要綱の中でも、外国人が妊娠したことを理由に解雇することは労働関係法令違反であると明記されています。
よって、自社で働く特定技能人材が妊娠した場合、企業は日本人労働者と同じように取り扱うことが大切です。
特定技能人材が母国で出産したいかも確認
特定技能人材の妊娠・出産に関しては、本人が日本ではなく母国で出産したいと考えているケースもあるため、そちらも確認しておきましょう。
過去には、技能実習生を中心に妊娠した外国人に対して不利益な扱いをする企業が増加したため、この点に関しては法務省も目を光らせています。
実際、特定技能外国人のサポート対応を行う登録支援機関においても、人材側に妊娠を控えるよう指導するほか、勤務先が人材側の妊娠を理由に雇止めにするケースなどが明るみに出たことがあります。
もっとも不安を感じているのは妊娠している特定技能人材本人ですから、丁寧に意向を確認して、帰国するか母国に戻るか話し合う時間を設けましょう。
特定技能人材の産休・育休中の在留期間
特定技能人材を含む外国人材は、日本人と同じく産休・育休を取得できますが、産休・育休中も在留期間に含まれる点に注意が必要です。
特に、特定技能1号に関しては、在留期間が通算5年と定められているため、産休・育休中に在留期間満了となってしまうおそれがあります。
この点に関しては、2025年1月、政府が特定技能人材の妊娠・出産期間を在留期限から除外する措置を検討していることが分かっています。
なお、技能実習生に関しては、実習の中断や一時帰国など、個々の実習生の意向次第で複数の選択肢・手続きが存在しており、今回の除外措置は技能実習制度と足並みを揃えた形と言えます。
産前産後休業・育児休業の取得も可能
産前産後休業・育児休業に関しても、労働者の権利として認められています。
それぞれの休業のあらましは次の通りです。
ちなみに、両親ともに育休を取得する場合は、子供が1歳2ヶ月に達するまで取得可能期間が延長される「パパ・ママ育休プラス」の利用も可能です。
特定技能外国人の産休・育休に関する説明事項
自社で働く特定技能外国人の妊娠が発覚したら、企業側が一方的に自社の都合による説明を試みたり、本人が不本意にもかかわらず帰国に向けて手続きを進めたりすることは控えましょう。
特定技能人材に対しては、次のような順序で各種制度の説明・意思確認・諸手当などについて説明すると、人材側も安心して出産の準備を進められるはずです。
妊娠した特定技能人材を安心させる
妊娠したことについて不安を感じさせないよう、企業は特定技能人材側が不安に感じていることを把握し、今後も安心して働き続けられるようケアを試みましょう。
まずは、日本国内で引き続き働き、出産することを想定している人材に対して、次の内容を説明して安心させることが大切です。
妊娠を理由に帰国しなくてもよいと伝える
おそらく、特定技能人材が最初に不安を感じる点としては、妊娠したことで「強制的に帰国しなければならないのかどうか」でしょう。
この点に関しては、人材側が悪い意味で勘違いをしないよう、特定技能制度において外国人材の妊娠・出産は認められていることを説明するとともに、あくまでも在国・帰国の判断は外国人材自身にある旨を伝えましょう。
働く環境が変わる可能性があると伝える
妊娠中は、一時的に働く環境が変わる可能性があることも、特定技能人材に伝えておかないと混乱を招くおそれがあります。
具体的には、次にあげる業務、または環境での勤務はNGとなります。
- 重量物の取り扱いが求められる業務
- 有害物を発散する場所において行われる業務
- 削岩機など、身体に激しい振動を与える機械器具を用いる業務
出産を終えた場合であっても、人材側が申し出た場合、企業は他の軽易な業務に転換させなければならない点につき注意が必要です。
自社として、ルールを正しく理解することはもちろん、人材側が不安を感じないよう説明する時間を設けましょう。
定期健診・保健指導が受けられると伝える
一般的に、日本では妊娠中に定期健診や保健指導を行うことが多く、平日に通院することになります。
比較的回数が多く、突発的な状況では急な検診となる可能性もあるため、その点を不安視する人材もいるはずです。
よって、特定技能人材には「検診を受けたからといって業務上支障が出るわけではない」ことを伝えつつ、実際にそのような体制を構築することが大切です。
なお、通院時の休みが有給・無給のいずれになるのかは受入企業によって異なるため、自社のルールを人材側に説明しておくことも忘れずに行いましょう。
妊娠・出産の各種支援制度を紹介する
日本における妊娠・出産の支援制度は、妊娠している人の国籍や、出産する場所に関係なく利用できます。
一時金等が支給される制度が複数存在しているため、それらの情報についても漏れなく説明するようにしましょう。
出産育児一時金
出産育児一時金とは、健康保険に加入している被保険者及びその被扶養者が出産した際、申請することで得られる一時金のことをいいます。
金額は、出産のタイミングや医療機関の種類によって、次のように分かれています。
※参照元:全国健康保険協会|出産育児一時金について
支給要件は、被保険者または家族(被扶養者)が「妊娠4ヶ月(85日)」以上で出産をした場合で、早産や死産、流産、人工妊娠中絶も支給対象となります。
また、双子など「多胎児」のケースでは、胎児の人数分だけ一時金が支給されます。
出産手当金
出産手当金とは、健康保険の被保険者が出産のため会社を休み、その間に給与が支払われなかった場合に支給されるものです。
対象期間は「出産日以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から、出産日の翌日以降56日まで」の範囲内で、会社を休んで給与の支払いがなかった期間が対象になります。
1日あたりの支給額は、次の公式で計算されます。
また、支給開始日以前における健康保険加入期間が12ヶ月未満の場合は、以下のいずれかの低い額を上記公式の【】に代入する形で計算します。
保険料免除(健康保険・厚生年金保険)
産前産後休業期間中・育児休業等期間中は、健康保険・厚生年金保険の保険料が免除されます。
対象となる従業員の休業期間中に、事業主が年金事務所に申し出ることにより、被保険者・事業主双方の負担が免除される仕組みです。
産前産後休業・育児休業等それぞれの「休業期間」に含まれる範囲は以下の通りです。
ポイントとして、健康保険・厚生年金保険の保険料免除は、特定技能人材のほか受入企業側の負担も対象となります。
保険料免除(国民年金)
国民年金を支払っている人材に関しても、産前産後期間中の保険料免除が認められています。
原則として、出産予定日、または出産日が属する月の前月から4ヶ月間が対象となります。
ただし、双子など多胎妊娠の場合、出産予定日または出産日が属する月の3ヶ月前から6ヶ月間の国民年金保険料が免除されます。
なお、ここでの出産とは「妊娠85日(4ヶ月)」以上の出産をいい、死産や流産、早産といった事情も含まれます。
特定技能外国人の産休・育休での配慮
妊娠中や産後の外国人材が働ける環境には一定の制限が設けられていますが、それ以外にも配慮すべき点が存在します。
以下、受入企業側が配慮すべき点について解説します。
業務面での配慮
妊娠中や産後(妊産婦)の外国人材は、労働基準法における就業制限の対象となりますが、それ以外にも業務面では「労働時間」に注意しましょう。
妊産婦となった外国人材が希望する場合、企業は本人に次の労働をさせてはいけません。
健康状態への配慮
男女雇用機会均等法に基づき、企業は妊産婦の特定技能人材に対して、保健指導・健康診査に要する時間を確保しなければなりません。
健康診査等に必要な時間としては、次の時間を考慮しつつ、十分な時間を確保することが求められます。
- 健康診査の受診時間
- 保健指導を直接受けている時間
- 待ち時間や医療機関移動時の往復時間
また、保健指導・健康診査の回数に関しては、妊娠中・出産後でそれぞれ以下の通りです。
<妊娠中>
<出産後>
※(原則として、医師等が健康診査等を受けるよう指示した場合、その指示に基づいて必要な時間を確保しなければならない)
まとめ
特定技能制度の改正にともない、特定技能人材が日本で長期にわたり働くことが一般化すれば、妊娠・出産の問題はより身近なものとなるでしょう。
特定技能人材が安心して産休を取得し、新しい命を産み育てるためには、受入企業がしっかりサポートすることが不可欠です。
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