将来的に外国人材の雇用を増やすため、英語を現場でも公用語的に使用できたらと考える経営者は少なくありません。
しかし、英語公用語化に向けた対応は、日本の中小企業にとっては非常にハードルが高い施策の一つです。
実は、現場やプライベートで英語ではなく「やさしい日本語」を使って外国人材とコミュニケーションをとり、人材が定着したケースもあることをご存じでしょうか。
この記事では、製造業で必要な「やさしい日本語」力について、外国人雇用における英語公用語化の必要性・ハードルの高さにも触れつつ解説します。
製造業でも求められている「やさしい日本語」とは?
一口にやさしい日本語といっても、日本人が想定するレベル感は人それぞれなので、具体的なイメージがわかない人も多いかもしれません。
まずは、やさしい日本語とはどのようなものなのか、概要をご紹介します。
「やさしい日本語」に込められた2つの意味
やさしい日本語とは、外国人が日本語を理解しやすいよう何らかの工夫がされた上での、日本語でのコミュニケーションをいいいます。「やさしい日本語」には、漢字で「易しい」・「優しい」の2つの意味が込められています。
やさしい日本語への取り組みは、1995年1月に起きた阪神・淡路大震災をきっかけとして取り組みが始まったとされます。震災では、日本人だけでなく、日本にいた多くの外国人も被害を受けたのです。
日本語・英語が十分に理解できず、必要な情報を受け取れない人も多かったようです。そこで、そのような人たちが災害発生時に適切な行動をとれるように考えられたのが、やさしい日本語の始まりといわれています。
具体的には、一般的な日本語と比べて、次のような点で違いが見られます。
○書くとき:文章を分かりやすく書いたり、漢字にルビ(フリガナ用の小文字)を振ったりする
○話すとき:ゆっくり分かりやすい言葉で話したり、丁寧語で話したりする
より詳細に特徴を述べると、やさしい日本語は「日本語の語彙を絞って、漢字を減らし、文のパターンを30種類程度に抑えている」日本語表現です。
実は意外と外国人に使われている日本語
外国人、特にアルファベット等を使用する地域の人にとって、ひらがな・カタカナ・漢字を使い分けなければならない日本語は難解だとされています。そのため、日本人の中には、外国人と話すときは「日本語よりも英語で話した方が親切」だと思っている人もいるかもしれません。
しかし、日本で暮らしている外国人のすべてが、母国語でアルファベットを使っているとは限りません。例をあげると、韓国ではハングル、中国では漢字が用いられます。
意外かもしれませんが、(独)国立国語研究所の「生活のための日本語:全国調査」によると、調査対象の外国人が日本での日常生活に困らない言語として回答した言語は、日本語が最も多いのです。
アンケートでは複数回答可としているにもかかわらず、日本語と回答した人数は1,026人、割合は61.7%でトップとなっています。
しかも、この調査でアンケートに回答した外国人の滞日期間は、1~5年未満が43.2%・次いで1年未満が22.7%となっています。
つまり、日本に滞在して比較的日が浅い層でも、日本語でのコミュニケーションのとりやすさを感じていることが分かります。
実際、日本で比較的マイナーな言語の場合、自動翻訳ですべて対応するのは難しいでしょう。
企業が外国人材を雇用する場合、本格的に日本語教育の機会を設けるのは、日本語の言語としての難易度や日本独特の文化にも配慮する必要があり大変なことなのです 。
▲参考記事:外国人労働者の日本語教育は大変?企業は現実を知って対策を練ろう
内容を正確に伝えるためには、母語話者によるチェックも必要になることから、やはり外国人が日本で生活していくためには、少しでも日本語に慣れてもらった方がよいものと推察されます。
外国人の中には、言語的な問題も含め、日本の生活に馴染めず失踪してしまうケースもあることから、自社ではできるだけ外国人に対してフレンドリーなコミュニケーション方法を模索したいところです。
やさしい日本語の具体例
やさしい日本語は、日本語学習者が初期の段階で学ぶ約2,000の語彙と、単文を主とした単純な構造からできています。
そのため、ネイティブの日本語話者が読むと違和感を覚える表現もありますが、日本語に不慣れな外国人にとっては理解しやすいものです。
例えば、地震があったことを伝えるラジオ放送については、次のように書き換えられます。
一見簡単そうに見えますが、実はやさしい日本語には、作成する際のルールが存在しています。
例えば、使用する語彙に関しては「日本語能力試験3~4級程度」を用いるなど、できるだけ簡単な言葉で、分かりやすく伝えられるようにしなければなりません。
書き言葉・読み言葉それぞれに作成ルールがあり、使える単語が限られていることから、一般的な文章を作るよりも労力を要する一面があります。
しかし、やさしい日本語を扱えるようになると、外国人が理解しやすい日本語を選んで会話できるようになるため、外国人とのコミュニケーションが円滑になるものと推察されます。
製造業の職場で「やさしい日本語」を導入するには?
やさしい日本語のメリットが理解できたところで、次は製造業の現場でやさしい日本語を導入するためのポイントをご紹介します。
製造業の現場では、外国人のみならず、日本人にとっても聞き馴染みが薄い言葉が飛び交うこともあるため、導入にあたっては十分に注意が必要です。
まずは日常生活から
どのような外国人材を雇用するにせよ、いきなり現場で働いている社員と同じ仕事を任せることはできませんよね。
少しずつコミュニケーションをとり、周囲と溶け込めるよう配慮することが大切なので、日本人スタッフは日常生活の段階からやさしい日本語で話しかけてみましょう。
以下、具体的な場面に応じた言い換えをいくつかご紹介します。
【自己紹介の場面】
ネイティブ日本語話者の場合、自己紹介の場面では、ついつい日本人同士で話をするように丁寧な言葉を選んでしまう傾向にあります。
丁寧な言葉は、外国人にとって意味を推測するのが難しいため、意味が分かりやすい単純な意味を持つ表現に言い換えましょう。
【ゴミ出しの場面】
分別という言葉は、外国人にとって読みにくいので、意味だけを端的に「分けて」と伝えましょう。
また「夜出さずに、朝出すようにしてください。」という文は、だめなケース・良いケースを2文に分けて伝えた方が理解しやすくなります。
文の構造が複雑になると意味を理解しにくくなるので、一文をより単純な形に分解できるなら、その方が外国人材にとっては分かりやすいはずです。
なお、ゴミの分別に関しては、分け方が書かれているチラシやインターネットサイトを教えておくと、外国人材の理解が深まるでしょう。
【市役所(役場)で手続きをする場面】
このケースでは、一文が長くならないよう留意することが大切です。
上記の例では「明日どこに行くのか」・「そこで何をするのか」につき、文を分けて説明しています。
「出勤する際」という表現は、少し崩すと「明日会社に来るとき」とも言い換えられますが、外国人材が明日も会社に出勤することを理解しているのであれば、単純に「明日」で通じるはずです。
現場での言い換えは「あいまいにしないこと」がポイント
外国人との日常生活でのやり取りに関しては、多少あいまいにしても通じることがありますから、あえて簡単な表現に言い換えることもあるでしょう。
しかし、現場でのやさしい日本語への言い換えは、万一外国人材が誤解してしまうと重大な事故を起こす可能性もあるため、大事な部分は決してあいまいにしないことが重要です。
以下、具体的な場面に応じた言い換えをいくつかご紹介します。
【作業の指示】
全体を通して、あいまいな表現は外国人材の混乱を招くため、一つひとつ具体的に説明します、
一口に部品と説明してしまうと、外国人材がたくさんの部品の中からどれを確認すべきか迷うおそれがあるため、ネジならネジ、ナットならナットと分かるように説明が必要です。
マニュアルを使って説明する場合は、ページを具体的に指示しつつ、何をして欲しいか作業を具体的に伝えましょう。作業内容は、業務に合わせて言い換えが必要ですが、どんな場合でも意味が分かりやすい表現を意識したいところです。
また、分からないことが生じた際は、外国人材が「誰に聞けばよいのか」を明確にすることが大切です。担当者がいるなら、担当者を指して名前を言うのもよいが、できれば話し手がそのまま対応できると親切かもしれません。
【進捗報告】
例における進捗状況という言葉は、外国人材にとっては難しい表現にあたるため、分かりやすいシンプルな表現に直した方がよいでしょう。業務日誌に関しては、どのような目的で書くものなのか、どんな情報を書く必要があるのか、丁寧に説明します。
ただ、日本語力に不安がある外国人材の場合、業務日誌を書いたとしても、中身が毎日同じものになってしまう可能性があります。よって、外国人材を雇用する場合、業務日誌の必要性そのものを疑ってみてもよいでしょう。
【作業工程の説明】
作業工程と説明するより、仕事と説明した方が、外国人材にとっては分かりやすいはずです。危険な点については、どこから何が出て危険なのか、実際に機械がある場所で指し示しながら伝えることが大切です。
注意してくださいという表現も、具体的に何に注意すればよいのかあいまいなので、具体的に「何をしてはいけないのか」行動を説明するようにしましょう。また、どうすれば安全に作業できるのかを考えて、仕事中に外国人材がとるべき行動も一緒に説明しましょう。
先にあげた内容のほか、外国人の定着率向上という観点から具体的な施策を知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
▲参考記事:外国人の定着率向上について|技能実習生など人材ごとのポイントも解説
外国人材のために英語を公用化するリスク
企業によっては、やさしい日本語の導入ではなく、外国人材にフォーカスして英語を公用化しようとするケースも考えられるでしょう。
しかし、外国人材のために英語を公用語化する場合、次にお伝えするリスクを覚悟しなければなりません。
母国語以外のコミュニケーションでは誤解が生じやすい
英語圏の人材以外、基本的に英語は母国語でないため、第二言語同士での会話となることが予想されます。
その場合、議論する内容の質が下がったり、ニュアンスを上手く汲み取れず誤解が生じたりするおそれがあります。
仕組みを抜本的に変えなければならない
英語を自社の公用語にするということは、これまで利用してきたシステム・デバイス・書面に関しても、一通り変更をかけなければなりません。
社員教育も含め、これまでの仕組みを抜本的に変えなければならず、それだけコストもかかるでしょう。
日本人の英語アレルギー
技術的な観点からは優秀な能力を持つ人材でも、日本での英語教育方針に馴染まず、英語アレルギーになってしまった人は少なくありません。
自社で英語公用語化を進めた結果、優秀な日本人が離れてしまうのは本末転倒ですから、たとえ一定数の離職を覚悟してもメリットがないのであれば、英語公用語化は進めるべきではないでしょう。
まとめ
日本で暮らす外国人は、英語よりも「やさしい日本語」で会話した方が、意味が伝わりやすい場合があります。企業として外国人材を雇用する場合、英語または外国人材の母国語に堪能な人材も一緒に探したくなるところですが、まずはやさしい日本語を意識してコミュニケーションをとることが大切です。
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