日本人の多くは、海外で見られるような「市民の生活を脅かすほどの激しい差別はない」と考えているかもしれません。
しかし、外国人の目線で見ると、嫌悪や暴力といった激しいものではないにせよ、無自覚な差別は数多く存在しているのが現実です。
自社で外国人労働者を雇用する場合、無自覚な差別も含め、外国人労働者が不快感を覚えたり、不安を感じたりしないよう、社内体制を再構築する必要があります。
この記事では、企業・組織等で起こり得る外国人の差別について解説しつつ、具体例・解決策もご紹介します。
外国人差別の現状と具体例
外国人が「これは差別だ」と感じる場面は、職場だけでなく日常生活でも数多く存在しているものと考えられます。
まずは、外国人差別の現状と、具体例について解説します。
日本における外国人差別の現状
やや古いデータですが、公益財団法人 人権教育啓発推進センターが平成29年(2017年)に公開した「外国人住民調査報告書―訂正版―」を見る限り、日本で暮らす外国人は様々な点において差別を受けていることが分かります。
以下、調査報告書の内容をもとに、日本社会における外国人差別の現状について解説します。
外国人の住居に関する差別と具体例
調査報告書によると、過去5年間に日本で住居を探した経験のある人のうち、何らかの理由により入居を断られていることが分かっています。
具体的な理由と、それぞれの理由に「ある」と回答した人の割合は、次のようになっています。
また、調査報告書に記載されている差別・偏見を感じたエピソード(具体例)は、要約すると以下の通りです。
このように、主に不動産業者・大家が「外国人だと分かると態度を変える」ケースが多く見られます。
外国人の採用・就労に関する差別の具体例
調査報告書によると、過去5年間に日本で仕事を探したり、働いたりした経験のある人のうち、「何らかの差別を経験した」と回答した人は全体の65.6%となっています。
具体的な差別の経験と、それぞれの経験に「ある」と回答した人の割合は、次のようになっています。
また、調査報告書に記載されている差別・偏見を感じたエピソード(具体例)は、要約すると以下の通りです。
エピソードを見る限り、そもそも採用段階で外国人を除外する企業が多く見られますが、昇進に関することも含め、社内で働く中でも差別を経験した人は一定数存在しているものと考えられます。
外国人差別が職場等で起こってしまう原因
言葉だけで「差別をなくそう」とスローガンを掲げても、具体的になぜ「差別が起こってしまうのか」を知らなければ、企業としても対策を立てるのは難しいでしょう。
以下、外国人差別が職場等で起こってしまう主な原因についてまとめました。
言葉の壁によるコミュニケーション不足
日本人は、例えば「特定の人種にカテゴライズされる外国人を強烈に憎み嫌う」というよりは、どちらかというと「日本語が通じない」人に対して強い拒絶感を抱きがちです。
逆に、日本語が通じる外国人に対して、寛容なスタンスを見せる日本人は一定数存在しています。
オーバーツーリズムが問題となっている京都では、ある飲食店の貼り紙に「この日本語が読める方はご入店ください」と記載されていた点が物議をかもしましたが、一定の理解を見せる日本人は決して少なくありません。
大多数の日本人にとって、日本語能力はコミュニケーションをとる上で根幹となるスキルであることから、日本語が不得手な外国人はそれだけ日本での生活や仕事で不利になってしまうのです。
訪日外国人の多くは、日本の文化や料理・交通機関等を高く評価する一方、言語に関しては「大都市なのに英語が話せない人が多い」など厳しい評価を下す人も見られます。
このような点を踏まえ、外国人と同じ職場で働くためには、企業として言語面でのフォローをどうすべきか真剣に考える必要があるでしょう。
文化や習慣の違いによる誤解や偏見
日本で暮らしていると当たり前に思えることでも、世界各国の常識に照らし合わせて考えると、独特に感じられることはたくさんあるはずです。
例えば、日本では「信教の自由」や「政教分離」に関する条文が日本国憲法に含まれていますが、国によっては政府が公式な宗教を定めているケースもあります。
また、イスラム教を信仰している人(ムスリム)は、仕事以上に家庭・宗教に対する優先度が高いケースも多く、就業時間中にお祈りをする人も一定数存在しています。
彼らはそれぞれの人生に対して宗教を通じて真摯に向き合っているのであり、そんな彼らにとって祈りの時間はとても大切なものです。
日本の企業や組織が外国人を雇用する場合、こういった「外国人の事情」を正しく理解した上で、日本人にも負担が生じないようまた自社の就業規則と照らし合わせ適切な働き方ができる環境づくりが求められます。
日本独特のルールの説明不足
かつての日本では「年功序列」や「退職金制度」といった、従業員の生活を手厚く保護する制度が十分に機能していました。
これらの機能は、2025年現在の日本において少しずつ存在感を失いつつあるものの、未だに似たような仕組みが残っている企業も少なくありません。
また、源泉徴収のように給料から一定額が天引きされるシステムは、現代においても機能しています。
しかし、これらのルールを外国人が見聞きした場合、次のように解釈される可能性があります。
- 実績を出しても適正に評価されない職場
- 給与が中抜きされる職場 など
日本人と同様のマネジメントで対応しようとすると、外国人材側のモチベーション低下、ひどい場合はSNSでの炎上等に発展しかねないため、日本人社員を雇用する際同様に自社で外国人に対する丁寧な入社説明の機会を設けることが大切です。
外国人差別の解決策とは
企業レベルで実施できる外国人差別の解決策としては、次のようなものがあげられます。
支援体制の構築
職場での外国人差別をなくすためには、日本人を採用する場合とは異なる支援体制を構築することが、重要な解決策の一つになるでしょう。
労働時間・安全基準・給与など、日本人と同じ労働環境での勤務になるよう調整するのは当然として、そのことが「外国人本人にも分かるように」説明しなければなりません。
雇用する外国人材の国籍や、使用する言語が分かっている場合は、雇用契約書・業務用マニュアル等を母国語で用意すると、人材側の理解を深めることにつながります。
可能であれば、外国人採用の専任担当者を設けたり、生活面も含めサポートできる体制を整えたりすると、定着率向上が期待できます。
また、外国人材のキャリアプランに寄り添い、これまでの評価制度を改善することも、自社で末永く働いてくれる外国人材を増やすことに貢献するでしょう。
外国人材の場合、基本的に「一つの会社で長く勤め上げる」という価値観を持っていない人が多いことから、それぞれの人材の将来を切り開くようなキャリアパスを提案できるのが理想です。
自社での対応が難しい場合、外国人に対し母国語で支援を行う登録支援機関や外国人社員雇用後のサポートがある人材紹介会社に委託することも一つの選択肢です。
参考記事:外国人の定着率向上について|技能実習生など人材ごとのポイントも解説
「やさしい日本語」を使う
日本語にはややこしい・難しい言い回しが多く、日常会話においても意図をつかみにくい表現は少なくありません。
例えばお客様に「こちらにおかけください」と声を掛けた場合、日本人なら「ここに座ってよいのだ」と理解できるかもしれませんが、外国人が聞くと「上着をかけろということだろうか」などと誤解してしまうおそれがあります。
こういった誤解を職場で防ぐには、外国人が日本語を理解しやすいように工夫された「やさしい日本語」を使い、外国人材とコミュニケーションをとるのがよいとされます。
先の例であれば、「こちらにおかけください」を『ここに、座ってください』と簡潔に伝えるイメージです。
職場でやさしい日本語を用いるようになると、これまであいまいな表現で説明していたことも、一つひとつ具体的に説明しなければなりません。
その結果、日本人同士でも誤解が少なくなることが予想され、製造業などでは作業効率化も期待できるでしょう。
参考記事:製造業で必要な「やさしい日本語」力|外国人材のための英語公用語化は必要ない?
全社員を教育する機会を設ける
外国人材を雇用する場合、外国人採用・サポートの担当者だけでなく、基本的には「職場で働く全社員」を教育する機会を設けたいところです。
日本は仏教国として知られていますが、神様にお願いごとをする際は神社に行きますし、結婚式をチャペルで挙げるカップルも珍しくありません。
「無宗教」だと自認する日本人も少なくなく、それゆえに他国の宗教的タブーに無頓着な人も一定数存在しています。
言語の違いだけでなく、宗教や生活習慣に関する違いなどについても、同じ環境で働く社員が正しく理解していないと、そこからトラブルが生じてしまう可能性があります。
特に、戒律が厳しい国からやって来た労働者に関しては、礼拝や食習慣など注意すべき点が多々あります。
個人的な信条から動物の肉を食べない人もいるため、社員食堂がある場合は、個々の人材の事情に配慮した上でメニューを考案することも検討しましょう。
参考記事:外国人雇用の最重要課題「宗教」への配慮|トラブル例や解決方法も解説
まとめ
本記事でお伝えしてきた通り、日本にも外国人差別は大なり小なり存在しています。
自社で外国人材を雇いたいと考えている企業は、日本における外国人差別の現状を踏まえた上で、外国人材の採用・雇用に向けて準備を進める必要があります。
しかし、これまで外国人材を雇用したことがない企業が、自力で完璧に差別対策を講じることは、決して簡単なことではありません。
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