世界から見て、日本人の宗教観は独特なものがあるかもしれません。
例えば、お正月には神社へ初詣に行き、結婚式は教会で挙げ、お葬式はお寺で行うといったように、幅広い宗教に見られる儀式を生活の中に取り入れています。
しかし、外国人材を自社で雇用する場合、日本のことわざ「郷に入っては郷に従え」が通用しないものと考えておいた方が賢明です。
企業側の対応によっては、人権問題のみならず国際問題にまで発展してしまうおそれもあるのです。
この記事では、日本企業の外国人雇用における最重要課題である「宗教」への配慮について、トラブル例とその解決策も含め、様々な観点から解説します。
外国人雇用で押さえておきたい「世界宗教」の種類
世界宗教とは、人種・民族・国籍・性別・階級といった様々な違いを超え、広く世界的に信仰されている宗教のことをいいます。
海外で暮らす人の中には、それぞれの信仰する宗教を中心に生活が成り立っている人も珍しくありません。
これから新たに外国人材を雇用するのであれば、最低限、次にあげる世界宗教の種類・概要については把握しておきたいところです。
イスラム教
イスラム教は他の世界宗教と比較して、特に厳しいとされるのが戒律であり、有名なものの一つに「1日5回メッカの方向に向かって礼拝する」というものがあります。
また、日中に水も食事も摂らない「断食月(ラマザン)」も、イスラム教を信仰する人(ムスリム)にとって重要なものです。
礼拝や断食は、コーランに示された義務の一つであり、ムスリムが同じ試練を・同じタイミングで共有することで、より信仰を深めるために行われます。
富める者も貧しい者も、等しくつらさを味わうことで、欲望・悪を遠ざけ周囲の人と一体感を持つことができると考えられているのです。
イスラム教は、多くの日本人にとって、見えないベールに覆われている印象がある宗教の一つかもしれません。
NHK放送文化研究所が参加している国際比較調査グループのISSP(International Social Survey Programme)が2018年に行った全国調査では、イスラム教徒についてやや否定的な意見を持つ人や、そもそもイスラム教という宗教がよく分からないと回答した人が多く見られます。
しかし、世界に目を向ければ、中東・アジア地域を中心に各国でイスラム教が信仰されており、日本で働く外国人材が多いインドネシア人については、国民の約9割がイスラム教を信仰しているとされます。
そのため、イスラム圏で暮らす外国人材を雇用するためには、企業としてもイスラム教に対する理解を深める必要があるでしょう。
その一方で、世代や出身地によっては、さほど戒律を気にしないケースもあります。
インドネシア人材の雇用に興味がある方は、以下もご覧ください。
【インタビュー】インドネシア人を雇用する際に知っておいていただきたい!大学講師がインドネシアの日本語教育・採用の注意点・就職トレンドについて解説!
キリスト教
キリスト教は、神の子「イエス・キリスト」と、キリストが伝えた教えを信仰する宗教です。
ヨーロッパ・アメリカ大陸で広く信仰されている宗教で、アジアではフィリピンなどでキリスト教が信仰されています。
キリスト教に関しては、日中韓でも信仰の土壌があり、日本でも教会を見ることができます。
また、キリスト教に関連するイベントも行われているため、日本でも比較的理解しやすい世界宗教の一つといえるかもしれません。
日曜日は「安息日」とされ、敬虔なクリスチャンの中には、教会に行って礼拝したり、牧師・神父から説教を聞いたりする習慣を持つ人もいます。
食事に関するタブーはほとんどないものと考えられていますが、こちらは宗派によってルールが多少異なり、厳格な宗派では肉類・アルコール・コーヒー・紅茶・たばこなどを禁じているケースも見られます。
仏教
日本では身近な宗教の一つに数えられ、仏教は中国から朝鮮半島を経て日本に伝わったという歴史があります。
そのため、日中韓には一定数の信者が存在しています。
海外に目を向けると、タイ・カンボジア・ミャンマー・スリランカなど、色々な国で仏教が信仰されています。
しかし、東南アジア方面で信仰されているのは「上座部仏教」とされ、釈迦の教えを忠実に守る伝統的な仏教であることから、日本とはルール・習慣など諸々の事情が異なります。
例えばタイでは、僧侶に敬意を払い、寺院に入る際も服装・写真撮影などのルールを守らなければ、処罰の対象となるおそれがあります。
習慣面では、頭は神聖なものが宿ると考えられていることから、親しい間柄でも頭を触るのは非常に失礼とされます。
このように、日本人と同じ宗教を信仰している国であっても、習慣面でのタブーが存在している可能性があります。
よって、仏教国出身の外国人材だからといって、日本人と同列に扱わないよう注意が必要です。
以下の記事は、タイ人エンジニアに関する内容ですが、タイ人の国民性について知る上で参考になるはずです。
その他の重要な宗教(ヒンドゥー教・ユダヤ教など)
先にあげた宗教以外で、外国人材を雇用する上で特に重要な宗教としては、ヒンドゥー教・ユダヤ教などがあげられます。
ヒンドゥー教は、古代インド・バラモン教と民間信仰が融合して形成された宗教で、インド圏でイスラム勢力が強さを誇っていた時期も信仰が失われなかったことから、信者の信仰は非常に強いものと考えられます。
日本企業が特に配慮すべきなのが、「カースト」と呼ばれる身分制度や、食事等に関する戒律です。
カーストは、職業・結婚・食事を規制するルールとなるため、多くの場面において人々の選択肢が制限されます。
また、牛は神聖な動物であるとの認識のため食べられず、厳格なヒンドゥー教徒の中には肉類・魚介類・卵を食べない人もいます。
食事を渡す際は“不浄の手ではない”右手を使うなど、テーブルマナーの面でも日本と大きく異なるものがあるため、ヒンドゥー教徒を自社で採用した場合は社員教育の重要性がより高まるでしょう。
ユダヤ教は世界各国に信者が存在する宗教で、こちらも食事や生活習慣に関する戒律が厳格な傾向にあります。
安息日における一切の労働の禁止、肉や魚介類の適切な処理など、事前に知っておかなければ問題となるルールが多いことから注意が必要です。
外国人雇用における宗教上のトラブル例と解決方法
外国人雇用においては、多様なバックボーンを持つ人材を採用することになるため、必然的に社内でトラブルが生じるリスクも高くなります。
以下、トラブルの具体例と、主な解決方法について解説します。
外国人雇用の宗教上のトラブル①:食事
食事に関しては、日本人と外国人でマナーや考え方が異なります。
日本のルールに合わせられるケースもありますが、信仰する宗教や母国の食習慣によっては、様々な場面で外国人労働者が不安を覚える可能性があります。
もっともトラブルに発展しやすいケースの一つには、外国人にとって「宗教上のタブー」となる食材を口に入れることがあげられます。
例えば、イスラム教徒であれば豚肉が、ヒンドゥー教徒であれば牛肉がNGとなりますが、豚・牛それぞれの肉そのものだけが禁忌というわけではありません。
動物の骨から抽出したゼラチン・出汁はもちろん、豚や牛の油が使われていても、宗教上認められません。
この点を解決するためには、イスラム教であれば「ハラルフード」というイスラムの教えに沿って処理された食べ物が売っているお店の情報を、イスラム教徒の労働者に教える方法が有効です。
ヒンドゥー教徒の労働者に対しては、普段の食生活で何が食べられないのか、具体的に聞いておきましょう。
その上で、日本で日常的に手に入る食材・調味料のうち何を摂取できるのか、労働者に事前に教えておくと親切です。
意外なところでは、中国で暮らしている人は「温かい食事」を好む傾向にあり、冷たい弁当を嫌う人もいます。
弁当のおかずによっては、確かに温めた方が美味しいものも少なくありませんから、休憩室に電子レンジを設置して弁当を温められるようにするとよいでしょう。
外国人雇用の宗教上のトラブル②:礼拝
礼拝の問題も、企業側と外国人労働者との間でトラブルに発展しやすい問題の一つです。
特にイスラム教の場合、礼拝の回数は1日5回と多いため、礼拝できる十分な環境が整っていないことが離職の一因になる可能性は十分考えられます。
5回の礼拝時間は、概ね以下のようなタイムスケジュールとなっています。
- 日の出前
- 正午ころ
- 午後3時前後
- 日没後夕方5時前後
- 夜7時前後
一般的な企業の就労時間帯において、仕事中の礼拝が必要と考えられる時間は、上記②~④となり社内に礼拝室を設けるなどの配慮は喜ばれますが、日本で就労している方の場合は、日本では就業時間中にお祈りが難しいことを理解しており帰宅後にまとめてお祈りをする方が多くいます。
外国人雇用の宗教上のトラブル③:服装・髪型
日本人のビジネスシーンにおける服装としては、身だしなみが整った髪型にスーツスタイルを合わせるのが一般的ですよね。
しかし、外国人材を雇用した場合、宗教上の理由から一般的な服装・髪型が難しいケースがあります。
まず、イスラム教徒の女性は、肌を露出させないために「ヒジャブ(頭に巻くための布)」や「ブルカ(全身を覆うベール)」といった服装を選ばなければなりません。
和を重んじる日本人にとっては個性的な格好に見えるかもしれませんが、イスラム世界ではむしろ一般的であり、個人の選択として尊ばれるべき服装でもあります。
ただし、イスラム教もユダヤ教も、その他の宗教においても、信仰する宗派・信仰の度合いは個人によって変わってきます。
外国人雇用の宗教上のトラブル④:病気・ケガ・体調不良
外国人材を雇用する上で注意しなければならない点としては、病気・ケガ・体調不良に関することがあげられます。
外国人材が信仰している宗教によっては、次のような場面に遭遇する可能性があるからです。
- 家族の男性以外に肌を見せられず、男性医師・看護師の診察が受けられない
- 輸血を受けることが認められない
- 断食のため、食べ物や水を日中に摂取できない
これらの問題のうち、いくつかは日本国内でも対処可能な例があります。
例えば、宗教上の理由から異性に肌を見せられない場合は、日本には女性医師の診療を受けられるレディースクリニックがあるため、そちらを外国人材に紹介するとよいでしょう。
輸血の必要性に関しては、個人の意思が尊重されるべき問題ではあるものの、緊急の状況では有無を言わさず治療しなければならないケースもあります。
もし、そのような信条を持つ人材に面接で出会った場合、会社として社員の命を見捨てるわけにはいかないことを説明した上で、輸血の可能性を示唆しつつ、就職するかどうかを人材側に委ねる形になるでしょう。
断食について心配なのは「水が飲めない」という点で、夏の暑い時期は熱中症や脱水症状に陥るリスクがどうしても高くなります。
この点に関しては、断食の時期に夜間勤務へのシフトへと変更したり、在宅でできる勤務を任せたりするのがよいでしょう。また断食も信仰度合いにより、週末だけ行うといった方もいるようです。
その他、外国人材が日本で生活する上で困ることについては、以下の記事をご覧ください。
外国人材が生活する上で困ること|意外なポイントについても解説
まとめ~日本の受入企業が配慮すべきこと~
ここまでお伝えしてきた通り、外国人材を日本企業が受け入れる際は、日常生活・食習慣など、幅広い分野でカスタマイズが求められます。
自社のリソース上、すべての宗教・人材に配慮するのは現実的でないケースも十分考えられるため、企業としては「自社で配慮できる範囲」で雇用できる人材を探すのが最適解となるでしょう。
社員食堂で宗教に配慮したメニューが提供できるのであれば、取り組むことで多くの外国人材を採用できるようになるはずです。
懇親会や忘年会など、社内イベントにおいてタブーとなる食材を使用しないことも、外国人材との連帯感を築く上で非常に有効です。
しかし、自社の環境にマッチする外国人材を探すのは、決して簡単なことではありません。
Factory labでは、比較的宗教面での制限が少ない外国人材をご紹介することも可能ですから、お気軽にご相談ください。