建設業で特定技能人材を雇用している企業は、もれなく「JAC」または「JACの正会員である建設業者団体」に加入しなければなりません。
しかし、そもそもJACとはどのような組織で、建設業の特定技能人材や雇用企業に対して何をしてくれるのか、よく分からない方も多いのではないでしょうか。
実は、JACは建設業における特定技能制度において、非常に重要な役割を担っています。
この記事では、JACが創設された目的や背景に触れつつ、役割や加入方法など様々な観点から解説します。
建設業分野におけるJAC(一般社団法人建設技能機構)とは
JACとは、英語「Japan Association forConstruction Human Resources」を略したもので、日本語では「一般社団法人建設技能機構」と訳されます。
特定技能人材を受入れるにあたり、元請けゼネコン・受入対象職種の専門工事業団体が発起人となって設立された組織です。
公式サイトで紹介されている事業内容は、以下の7つとなっています。
※出典元:一般社団法人建設技能人材機構「(一社)建設技能人材機構概要」[u2]
上記の通り、建設分野における特定技能人材の確保において、JACは多様な役割を担っている組織といえます。
建設業分野におけるJAC設立の目的
JACは、人材不足が深刻化している日本の建設業界(建設分野)において、特定技能人材を適正・円滑に受入れるために設置された組織です。
建設技能者を確保すべく技能評価等の事業を行い、日本の建設業が健全な形で発展できるよう、特定技能人材・受入企業を総合的にサポートするのが主な目的です。
具体的な事業内容としては、次のようなものがあげられます。
なお、上記におけるFITSとは、外国人建設就労者受入事業において3,000社以上にわたる巡回指導等の豊富な経験があり、かつ、JACが定めている業界共通行動規範によって「巡回指導等の委託先」と定められている組織です。
建設業分野においてJACが設立された背景
JACが設立された背景には、建設業分野で見られた、技能実習生関連の次のような問題があります。
- 他分野よりも高い技能実習生の失踪率
- 建設業における技能実習実施企業の労働法令違反(約8割で発覚)
技能実習生の失踪は、日本における社会問題の一つとなっています。
平成30年度における全分野の技能実習生における失踪率は、建設分野で約7.9%となっており、全分野における約2.1%と比較して3倍以上の数値です。
建設分野の失踪者数が、全体の失踪者数の約40%にあたるというデータもあり、これは不名誉と言わざるを得ない結果です。
また、失踪の直接の原因と考えられている労働法令違反に関しては、主な違反事項が賃金台帳未整備・割増賃金不払い・賃金の未払いと、賃金関連の違反が多く見られます。
建設業における技能実習生は、慣れない環境で、労働者ではない「研修生」というあいまいな立ち位置で仕事をすることになり、実習期間が終わるまで同じ職場を離れることはできません。
賃金の未払いが続くだけでなく、過酷な労働状況が改善されなければ、もはや技能実習生も失踪するしか手がなかったものと考えられます。
※参考記事:外国人が失踪するならどこ?技能実習生など人材をつなぎとめる方法
このような事情を抱えていた建設分野では、特定技能人材を受入れるにあたり、独自に適正な就労環境の確保に向けた仕組みを設ける必要がありました。
こうして生まれたのが、建設業分野独自の基準となる「建設特定技能受入計画」で、次のような内容となっています。
上記の通り、建設特定技能受入計画の中には、JACへの加入及び行動規範の遵守が基準として設けられています。
このことから、建設業分野で特定技能人材を受入れるためには、事実上JACへの加入は避けられないものと考えてよいでしょう。
建設業の特定技能について、より詳しく知りたい方は、以下の記事もおすすめです。
※参考記事:建設業の特定技能 | 受入要件や従事する業務・雇用の流れなどを解説
建設業分野におけるJACの役割
JACに求められている役割は、一言でまとめると「特定技能人材の受入れを適切な形で行う」ことです。
建設特定技能受入計画にもある通り、賃金や昇給に関するルールを正しく適用し、日本で働く特定技能人材(外国人)の処遇を改善することが求められています。
同時に、かつての技能実習制度で見られたような問題を起こさないよう、いわゆるアウトサイダー・ブラック企業の排除に向けた対応も進める必要があります。
これらの課題解決に向けて、JACは「建設業における共通行動指針」を定めており、受入企業は次のような内容を守らなければなりません。
上記内容を守っていない受入企業に対して、JACは注意・指導を実施する立場になります。
もし、注意・指導を無視するようなことがあれば、その企業は特定技能人材の受入れができなくなるものと考えてよいでしょう。
特定技能人材の雇用につき、建設業が抱える課題を企業単独で解決するのは、決して簡単なことではなりません。
課題解決のためには、建設業分野において特定技能人材を受入れる事業者全体で協力する必要があり、そのためにJACが存在するという捉え方もできます。
建設業に属する企業がJACに加入するには
新しくJACに加入するためには、大きく分けて次の2つのルートが存在します。
- JACの賛助会員として入会(直接加入)
- JAC正会員である団体の傘下に入る(間接加入)
以下、それぞれのルートについて解説します。
JACの賛助会員として入会(直接加入)
JACに直接加入する場合、次のような流れで賛助会員になるための入会手続きを行い、所定の審査が通ってから加入となります。
JACに直接加入しなければならないケースとしては、次のような状況が考えられます。
- 正会員の建設業者団体に属していない、または参加できない場合
- 属している団体がJACの正会員でない場合 など
また、賛助会員としては、企業のほか個人も想定されています。
JAC正会員である団体の傘下に入る(間接加入)
JACに直接加入する以外の方法としては、すでにJACの正会員である建設業者団体のうち、いずれかの会員になる方法があげられます。
令和6年7月1日現在、受入企業を傘下に有する正会員団体は「52建設業者団体」にのぼり、専門工事業団体や元請けゼネコンなどが正会員団体となっています。
これらの団体は全国規模の団体が多いことから、直接JACに加入する選択肢を選ぶよりは、正会員団体の傘下に入った方が手続きを効率的に進められるかもしれません。
JACに加入する際は「費用」も重要
直接加入と間接加入は、加入方法の違いだけでなく、加入時の費用負担にも違いが見られます。
以下、それぞれのケースで発生する費用について解説します。
JACの賛助会員として入会(直接加入)する際の費用
JACに直接加入した場合、年会費に加えて、特定技能人材1名あたりの受入負担金が発生します。
入会金は発生しませんが、年会費は240,000円となっており、特定技能人材を採用するためだけにこのコストを支払うのは、現実的でないと判断する企業も多いものと推察されます。
加えて、1号特定技能外国人を受入れた場合は、月額12,500円(年額150,000円)の支払負担が生じます。
ちなみに、令和6年6月以前までは、次のように受入負担金が分かれていました。
JACに直接加入した場合、自社で本当に直接加入するメリットがあるのかについては慎重に判断した方がよいでしょう。
なお、会費・受入負担金の支払方法は、入会時に登録した銀行からの口座引落となり、引落前の段階で口座振替の案内が届きます。
JAC正会員である団体の傘下に入る(間接加入)場合の費用
JAC正会員である団体の傘下に入る場合、入会に際しての費用負担は、その団体によって金額が異なります。
また、会費や受入負担金の支払いに関しても、正会員団体への問い合わせが必要です。
JAC正会員団体の傘下に入る場合、直接加入するケースに比べると、比較的年会費等は抑えられている傾向にあります。
ただし、会員の種別によって金額が詳細に分かれているケースもあるため、加入前に自社が加入した場合の支払額を事前に確認しておくことをおすすめします。
まとめ~将来を見据えてJACへの加入を検討しよう~
慢性的に人材不足が続く中、日本人を採用することに限界を感じている企業にとって、特定技能人材を雇用するメリットは大きいでしょう。
日本国内の建設需要も高まりを見せている中で、チャンスをつかむためには人材の確保が最重要課題となります。
※参考記事:建設業で外国人を採用するメリット|人材不足の背景を知って対策を立てよう
しかし、ここまでお伝えしてきた通り、建設業において特定技能人材を雇用するためには「JACへの加入」が避けて通れません。
建設業に従事する企業においては、優秀な外国人労働者を採用するため、将来を見据えてJACへの加入を真剣に検討することが求められています。
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