少子高齢化による労働者不足から、外国人労働者を日本社会が本格的に受け入れようとしています。
しかし、諸外国は日本に比べて犯罪率が高い傾向にあることから、外国人が増加することにより犯罪が増加し、治安の悪化につながるという声も聞かれます。
せっかく雇用した外国人材が強制送還されてしまったり、心ないデマで体調を崩してしまったりしたら、企業としてはどう対処すればよいのでしょうか。
この記事では、日本における外国人犯罪の現状と、雇用にあたり企業が取れる対策について解説します。
日本における外国人犯罪の概況
法務省の発表によると、令和4年末の在留外国人数は3,075,213人で、前年末と比べて314,578人の増加となり、過去最高を記録しました。
在留外国人数が増えた分、犯罪率も高くなりそうな気がしますが、果たして実際のところはどうなのでしょうか。
来日外国人の犯罪検挙状況は横ばい
警視庁の「令和3年版警察白書」によると、来日外国人犯罪の検挙状況は、平成23年から令和2年までの間で14,000~17,000件台で推移しています。
総検挙人員も含めた各年度の数字は、以下の通りです。
表を見る限り、確かに最近の令和2年次が件数・人員ともに最多ではあるものの、他年度と比べて爆発的に増えているとは言えません。
平成23年にも件数は17,000件を超えているため、一概に令和2年が深刻な数字というわけではないようです。
もちろん、検挙されていない犯罪もあるはずですから、実際にはより多くの犯罪が起きている可能性もあります。
とはいえ、数字を見る限りでは、外国人材の増加が外国人犯罪の増加につながるとは言い切れないでしょう。
国籍・地域別の検挙率についてはどうか
令和3年版警察白書では、外国人犯罪につき、検挙された外国人の国籍・地域についてもまとめています。
具体的な数字は以下の通りです。
検挙人数を見ると、検挙された外国人犯罪者の出身国につき、最も検挙人数が多い国はベトナムとなっています。
次いで中国・フィリピン・ブラジルと続いてはいますが、割合に関してはベトナム・中国だけで半数以上を占めています。
罪種別では、侵入窃盗が中国・韓国・ベトナムの順で、比較的悪質な事件は中国・韓国の一部外国人によって行われていることが分かります。
万引きに関しては、ベトナムが6割を占めており、ベトナム人窃盗団による万引きがこの数字の背景にあると考えられます。
自動車盗はスリランカ・ルワンダ・ブラジル人の割合が高く、特に窃盗ノウハウを持つスリランカ人の存在は脅威と言わざるを得ないでしょう。
駐車中の車に「車を買取します」といった旨の紙が挟まっていた場合、自動車窃盗団の下見の可能性もあり、指示役・実行役・保管役といった役割分担が決まっている窃盗グループが、日本のどこかで犯行を企てているものと考えられます。
日本人と外国人の検挙割合はどうか
警視庁の資料「来日外国人犯罪の検挙状況」によると、刑法犯検挙件数・人員に占める来日外国人犯罪・来日外国人の割合は、以下の通りです。
青色の折れ線グラフは、刑法犯で検挙された件数のうち、外国人による犯罪の件数の割合です。
これに対して赤色の折れ線グラフは、検挙された人数のうち、外国人が占める割合です。
件数の割合は、平成17年をピークに減少しているものの、在日外国人の割合は微増傾向にあります。
この傾向は、「日本国内の外国人労働者が増えるにつれ、犯罪の検挙件数や検挙人数も比例して増える」という解釈もできますし、逆に「全体の割合としては少数だから、日本全体で考えればごくわずか」と解釈することもできます。
外国人の採用を検討している企業としては、外国人犯罪の状況を把握する上で気になるところではありますが、重要なことは「自社の外国人が犯罪に巻き込まれない・犯罪に手を染めない」ことですよね。
よって、企業としては、外国人材を自社の大切な仲間としてフォローするための体制を整えた方が建設的です。
外国人材は、日本という慣れない環境で生活するにあたり、多くの困りごとを抱えています。
自社の外国人材を犯罪の加害者・被害者にしないために、密なコミュニケーションをとりたいものです。
なぜ外国人は日本で犯罪に手を染めるのか
外国人は、本来日本に「出稼ぎ」や「ビジネスチャンス」を求めてやって来たはずですよね。にもかかわらず、犯罪に手を染めてしまうのはなぜなのでしょうか。
以下、外国人が日本で罪を犯してしまう、主な理由についてご紹介します。
外国人が犯罪に手を染める動機
法務省の「外国人犯罪に関する研究|第3章 外国人犯罪者の実態」によると、平成23年における外国籍等の入所受刑者671を調査した結果、次のような動機で犯行に及んだことが分かっています。
最も多かったのが職業的犯罪で、住宅に侵入して盗みを働いたり、万引きをしたりする際に、組織的に犯罪を行うケースが該当します。
次いで生活困窮という回答が多く、こちらは調査の中で国籍・在留資格・犯行手口との関連性は見いだせていませんが、来日者数が多いベトナム人に関しては、独特の事情も鑑みることができます。
ベトナム人特有のリスクとは?
技能実習生として来日する外国人としては、ベトナム人の数が多い傾向にありますが、同時に失踪のリスクも高いとされます。
企業側の不正や職場環境の悪さを問題視する人は多いものの、来日したベトナム人側の事情もあるため、一概に原因を特定することはできません。
ベトナム人の中には、自国の送り出し機関に借金してまでお金を支払い、なんとか日本にやって来た人もいます。
そのような状況で、働いても思っていたような給与がもらえないとなれば、別の働き方を考えるのは日本人でも同じですよね。
しかし、技能実習生は自由に転職できる立場ではないため、現状に我慢ならない一部の外国人が職場を離れ、犯罪に手を染めてしまうものと推察されます。
文化・習慣の違いによって職場の同僚との間に摩擦が起こってしまうと、無理解な日本人との間で衝突が起こることは避けられず、間を取り持つ存在がいなければ、たちまち外国人材は孤独な状態になってしまいます。
そこへ同胞であるベトナム人が救いの手を差し伸べ、犯罪組織とは知らず仕事を手伝った結果、検挙されてしまうという悲劇が生まれるのです。
もちろん、すべてのベトナム人に当てはまる話ではありませんが、企業としては技能実習という在留資格も含め、検討すべき点と言えるでしょう。
◎参考記事:外国人が失踪するならどこ?技能実習生など人材をつなぎとめる方法
外国人は総じて不利な立場に置かれがち
外国人は日本人と違い、就労・転職ともに在留資格に縛られやすく、日本語能力についても重視されます。
基本的に、外国人は「入国時に得られた在留資格の範囲」でしか働くことができません。
例えば、ビルクリーニング分野の特定技能人材を例にとると、その分野に関係ない仕事に就くことは認められないので、外食業への転職はNGとなります。
つまり、原則として「ビルクリーニング分野への転職のみ」が認められるわけですが、転職時は転職先の受入企業に協力してもらい、在留資格変更許可申請を再度行わなければなりません。
また、在留資格変更許可の申請中は、例えば他社でのアルバイトが認められず、当座の生活費を確保するにも大変です。
万一、審査の結果不許可となってしまった場合、帰国しなければならないリスクもあります。
技術・人文知識・国際業務など、高度な要件を求められる在留資格であれば、まだ比較的転職はしやすいものの、求められる日本語能力の水準は高めになるでしょう。
新卒者につき日本語能力試験N2レベル、中途採用者につきN1レベルを要求する企業も少なくありません。
その他の注意点として、仕事をしていない空白期間がある人材は、転職時に仕事に対する意欲を疑われることがあります。
ただでさえ日本人に比べて面倒なルールが多い中、求められる要件も厳しくなりますから、ストレスを感じて楽に流れようとする外国人がいても不思議ではないでしょう。
犯罪者となった外国人は例外なく強制送還される?
自社で働いている外国人が、日本国内で罪を犯してしまった場合に気になるのは、いかなる罪でも「例外なく強制送還されてしまうのかどうか」ですよね。
以下、日本で罪を犯した外国人が、強制送還に至るケースについて解説します。
在留資格を持つ外国人すべてに該当する強制送還理由
すべての在留資格を持つ外国人に当てはまる、強制送還となる理由としては、以下のようなものがあげられます。
- 有効となるパスポートを持たないまま入国した場合
- 上陸許可を得ないまま入国した場合
- 人身取引、売春(周旋、勧誘)等に関与した場合
- 在留許可を取り消された場合、もしくは在留許可期間を過ぎて滞在した(オーバーステイ)場合 など
基本的に、入国条件を満たしていない、在留許可がない状態で日本国内に滞在している外国人は、強制送還の対象となるものと考えてよいでしょう。
人身取引や売春は犯罪であるから、こちらも当然強制送還の対象となります。
「身分系以外」の在留資格を持つ外国人に該当する強制退去理由
特定技能や技人国など、技術・学歴等の要件を満たして得る在留資格を持つ外国人については、以下の罪で有罪判決を受けた場合、執行猶予が付されても強制送還となります。
- 薬物事件(大麻、覚せい剤など)
- 入管法第24条4号の2に該当する罪を犯した場合
なお、入管法第24条4号の2に該当する罪としては、住居侵入、文書偽造等、賭博、強盗、殺人、傷害、監禁、誘拐、窃盗、恐喝、横領などといった罪が該当します。
「身分系」の在留資格を持つ外国人に該当する強制退去理由
上記以外の罪を犯した場合で、実刑および猶予されない部分の刑が「無期」または「1年を超える懲役・禁固」に処せられた際、その事実が退去強制事由にあたる外国人は強制送還となります。
身分系以外の在留資格と比較すると、やや甘い判定にはなるものの、それでも厳しいルールには変わりありません。
「強制送還される」というデマにも注意
あまり日本で見られる例ではありませんが、過去には「在日韓国人が在留資格を失い不法滞在者となるので、通報すれば強制送還される」といったデマが広がったことがあります。
SNSユーザーが増えたことにより、誤った情報の拡散も早くなってきているため、万一自社で雇用している人材に関連するデマが流布した場合、入管に確認して正誤をしっかりチェックし、外国人材を安心させることが大切です。
企業が外国人材の強制送還を防ぐための対策
外国人材の雇用につき、企業側に過失があると認められた場合、処罰を受ける可能性があります。
特に、外国人材を不法就労させてしまうと、企業も不法就労助長罪に問われてしまうため、外国人材の採用には慎重な判断が必要です。
身分確認の徹底
外国人材の採用にあたり、自社で就労可能な人材かどうか確認することは、強制送還のリスクを避ける第一歩です。
在留カードを見る際は、名前と写真が本人のものか、在留期限内か、就労不可の人材ではないか、丁寧に確認しましょう。
仮に、文化活動・短期滞在・留学・研修・家族滞在などの在留資格だった場合、正社員としての就労は望めません。また、コピーでの確認ではなく、在留カードの現物を確認する点にも注意しましょう。
在留カード自体が本物かどうかチェック
在留カード自体が偽造されているおそれもあるため、万一を考えて在留カードそのもののチェックも忘れずに行いましょう。
カードを上下方向へ傾けることで、絵柄の色の変化、所定の箇所の文字反転などから「MOJ」という文字が見えるはずです。
また、暗い場所でカードに表側から強い光を当てると、MOJの透かし文字が見えます。
出入国在留管理庁が提供する「在留カード等読取アプリケーション」を使えば、在留カードのICチップを読み取ることで、偽造・改ざんされたものでないことが確認できます。
信頼できる人材紹介会社を頼る
外国人材を自力で探す場合、信頼できる情報を集めることも、外国人にとって魅力的な求人情報を作成することも、決して簡単ではありません。
特定技能人材のように、採用・入社にあたり受入機関の企業が支援すべき内容が義務付けられているケースもあるため、安心して働いてもらえる人材を探すなら、信頼できる外国人材紹介会社を頼るのが近道です。
Factory labは、例えばタイ人材のように、アジア諸国の中でも比較的成熟した文化を持つ国々から、優秀な人材を紹介することが可能です。
自力での採用に不安を感じている場合は、Factory labの人材紹介をご検討ください。
まとめ
日本において、今後外国人材が増えることはほぼ確実であり、企業としても受け入れ態勢を整えておかなければ、他社に差をつけられてしまうでしょう。
しかし、日本人と比べて採用のハードルは高くなる傾向にあり、職場に馴染めず犯罪に加担するようなことがあると、強制送還になる可能性は十分あります。
雇用段階で、身元が確かな人材を雇用することが、トラブルを未然に防ぐ上で大切です。
その上で、雇用する外国人の事情に寄り添い、社全体で協力体制を構築することが、外国人材の有効活用につながります。