宿泊業は、新型コロナ禍によって受難の時期を迎えましたが、WHOが緊急事態宣言の終了を発表し、再び多くの旅行者が日本にもやって来るようになりました。
入国制限が緩和されれば、当然ながら外国人観光客の数も増えることから、宿泊業全体でインバウンドに対応できる外国人材を雇用しようとする動きが活発化しています。
実際に自社で外国人材を採用しようと考える場合、注意しなければならないのは、任せたい仕事によって外国人材の「在留資格」が異なる点です。
この記事では、宿泊業で働ける外国人材の在留資格について、受入れのメリット・注意点も含め解説します。
宿泊業の近況と課題
まずは、宿泊業の近年の状況と、業界全体が抱える課題について解説します。
宿泊業の近況
新型コロナ禍で大きな影響を受けた業種の一つである宿泊業は、国内旅行需要の回復・インバウンド需要の増加に伴い、2023年の景況感は新型コロナ禍以前の状況に戻りつつあります。
観光庁の「旅行・観光消費動向調査2023年年間値(確報)」によると、2023年における日本人国内旅行消費額の推移は21.9兆円となっており、2020年の10兆円、2021年の9.2兆円といった低調な時期を乗り越え、ようやく2019年度と同水準にまで回復しました。
また、観光庁は2030年の訪日外国人旅行者数の目標を6,000万人に設定[u2] しており、インバウンドを見越した対策を講じる必要に迫られています。
少子高齢化により労働者人口が減少する日本において、この目標を達成するためには、より多くの外国人材を宿泊業に呼び込むことが重要になります。
宿泊業における課題
日本の宿泊業では、慢性的な人手不足が課題となっています。
厚生労働省が発表している「一般職業紹介状況(令和6年8月分)について」によると、宿泊業が含まれる「接客・給仕職業従事者」の新規求人倍率は4.91倍、有効求人倍率は2.85倍と高い数値を記録しています。
その背景には、繁閑期の差や社会情勢、景気の影響を受けやすい業界の体質などがあるものと考えられ、特に新型コロナ禍で多くの従業員の解雇・賃金カットを余儀なくされたホテル業界では、人手不足が“自業自得”であるとする厳しい声も聞かれるほどです。
参考記事:ホテルの人手不足は自業自得?本当の原因と解決策について解説
人手不足の主な対策として、業務効率化を図るためのDX化などがあげられますが、全体的にアナログな手段で業務が行われている職場が多い宿泊業は、IT活用がなかなか進まないという現実があります。
そのような現状から、宿泊業が更なる集客・収益性向上を目指すためには、宿泊業で働ける在留資格を持った外国人材を含め、安定した人材確保を実現することが不可欠なのです。
宿泊業で利用可能な在留資格の種類について
労働力確保のため、宿泊業で外国人材を採用するためには、宿泊業で利用可能な在留資格を持つ人材を探す必要があります。
在留資格とは、外国人が日本に滞在するために取得しなければならない資格のことです。
雇用主は「在留資格によって従事できる業務の範囲が異なる」点に注意が必要です。
宿泊業において、外国人材が就労するための代表的な在留資格としては、次のようなものがあげられます。
上記のほか、技能実習の在留資格を取得している人材も、一部業務に従事してもらうことは可能です。
しかし、技能実習制度は近い将来廃止され、新たに「育成就労制度」に変更される予定となっていることから、基本的には上記5つの在留資格を視野に入れて採用活動を進めるのが望ましいでしょう。
以下、宿泊業で利用可能な在留資格の種類について解説します。
技術・人文知識・国際業務
技術・人文知識・国際業務は、主に以下のような条件を備えた人が取得する在留資格です。
- 日本または海外の大学・専門学校を卒業していること
- 宿泊業と関連する学歴があること
- 宿泊業での従事経験(正社員)が10年以上あること
宿泊業において、技術・人文知識・国際業務の在留資格を持つ人材が取り組める仕事内容としては、次のようなものがあげられます。
- 宣伝・広報に関する業務
- インバウンドマーケティング等に関する業務
- 人事労務管理
- フロント・コンシェルジュ
- 通訳・翻訳
- 営業・経理などの実務
- 社内システムのエンジニア など
その上で、単純にこれらの業務に従事していれば問題ないとは言い切れません。
例えば、フロント業務に関しては「外国人対応に従事しているかどうか」という点が問われます。
仮に、宿泊客の多くが日本人であるホテルの場合、外国人対応の必要性が低いと判断されれば、その職場で外国人材は技術・人文知識・国際業務の在留資格で働けないことになります。
また、仕事の一環であったとしても、レストランの配膳・ベッドメイキングといった単純労働は認められません。
技術・人文知識・国際業務について、より詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
参考記事:在留資格「技術・人文知識・国際業務」とは|要件や申請の流れ・注意点も解説
特定技能(宿泊業)
特定技能とは、2019年4月に創設された、比較的新しい在留資格です。
宿泊業を含む「人手不足が懸念される一部の産業・分野」において、一定の専門的知識・技能を持つ外国人材を労働者として受け入れる目的で創設されました。
特定技能は、在留期間に上限のある「1号」と、上限のない「2号」の2種類に分かれています。
特定技能1号は、宿泊業技能測定試験の合格、日本語能力試験(N4以上)の合格が、基本的な在留資格取得の条件となっています。
特定技能1号人材が、特定技能2号へステップアップするためには、宿泊分野特定技能2号評価試験を受験する必要があります。
なお、受験資格は以下の通りです。
- 試験実施当日において年齢が満17歳(インドネシア国籍の人は満18歳)であること
- 試験日前日までに「宿泊施設において複数の従業員を指導しつつ、フロント、企画・広報、接客、レストランサービス等の業務において2年以上の実務経験を積んでいる」こと
※(試験申込時に別添で証明書を提出)
宿泊業の特定技能人材は、先述した技術・人文知識・国際業務の在留資格に比べて、以下のような宿泊業に関する幅広い業務を担当することができます。
ただし、特定技能人材を採用するには、以下の条件を満たす必要があるため注意しましょう。
- 旅館業法による「旅館・ホテル営業」の許可を受けている
- 「簡易宿所営業」・「下宿営業」のほか、風営法に該当する施設でない
※(民宿、キャンプ場、ゲストハウス、カプセルホテル、ユースホステル、ラブホテルなど)
- 宿泊分野特定技能協議会に加入している
その他、宿泊業の特定技能について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
参考記事:宿泊業の特定技能について|ホテル・旅館で働く外国人材は将来性に期待大!
身分系の在留資格
身分系の在留資格とは、その外国人の身分に基づいて取得するタイプの在留資格で、具体的には次の4種類があげられます。
これらの在留資格は、基本的に就労制限が設けられていないため、他の在留資格のように業務範囲が限られることがありません。
単純作業はもちろん、事務や営業といった仕事にも従事できます。
身分系の在留資格を持つ外国人材を雇用する際の注意点は、外国人材が離婚によって在留資格を失ってしまうケースです。
そのため、日本人の配偶者等・永住者の配偶者等の在留資格を保有している外国人材が離婚した場合は、引き続き自社で働いてもらえるよう在留資格の変更をする必要があります。
特定活動(46号)
特定活動という在留資格は、簡単にいうと「イレギュラーケース」を包括する在留資格としての性質を持ち、特定技能などの一般的な在留資格で分類できないケースに当てはめる在留資格といえます。
そのため、一口に特定活動といっても対象となる外国人材は様々で、本記事でご紹介する「特定活動(46号)」とは、留学生をそのまま日本国内で採用するための在留資格です。
「留学生の就職支援」を想定した在留資格という性質から、技術・人文知識・国際業務と似たような性質と考える人も少なくありませんが、こちらは接客・清掃といった単純作業にも従事できる在留資格です。
ただし、メインの職種はフロント・営業・事務などで、あくまでもそちらを兼任する形という条件が付きます。
なお、特定活動(46号)の主な取得要件は以下の通りです。
- 日本の4年制大学・大学院を卒業していること
- 日本語能力検定N1、またはBJT日本語能力テスト480点以上の日本語能力があること
- フルタイムで働くこと
留学・家族滞在(資格外活動許可)
原則として、留学・家族滞在の在留資格は就労が認められません。
しかし、これらの在留資格を取得している外国人が「資格外活動許可」を取得した場合は、1週間に28時間までという条件において就労が可能となります。
よって、フルタイムで勤務してもらうのは難しいですが、単純作業に従事させられるのはメリットになるでしょう。
ただし、風営法に抵触するおそれがあるラブホテル等での営業は認められません。
宿泊業で外国人労働者を受け入れるメリット
人材不足の宿泊業において、外国人労働者を受け入れることは、労働力の確保以外にも組織に利をもたらしてくれるでしょう。
以下、主なメリットをいくつかご紹介します
インバウンド客への対応力向上
観光庁の方針も含め、日本におけるインバウンド需要は、今後も高まることが予想されます。
そのような未来に備えて、日本人労働者が多言語を習得できるよう教育の機会を設けることは、多くの企業にとって難しいでしょう。
しかし、外国人宿泊客が母国で話す言語や、世界中で広く使われている英語を話せる人材を採用できれば、言語教育に時間を割くことなく、インバウンド客との接客が可能になります。
特に、日本と大きく文化・習慣が異なる外国人宿泊客の接客においては、トラブルが発生した際にもスムーズなやり取りが期待できるでしょう。
日本人離れしたアイデアが得られる
長年日本で暮らしてきた日本人スタッフの中には、良くも悪くも日本的発想から離れられない人も少なくありません。
しかし、海外に母国がある人材は、その生まれ育った環境・文化の違いをベースとした「新しいアイデア」を自社に持ち込んでくれる可能性があります。
あるホテルチェーンでは、手書きの日本語の読みにくさがネックだった外国人材が、シフト交代時の引継ぎノートをアプリでデジタル化し、好評だったため運用が継続されています。
このようなアイデアは、日本語が不便な外国人材だからこそ思い付く発想といえるかもしれません。
日本人スタッフの意識向上
自国ではなく、あえて日本で仕事をしようと思って来日する外国人労働者は、日本で働くことの重要性を明確に意識した上で職務に臨んでいます。
家族との絆が深い外国人労働者の中には、母国の実家に仕送りをしている人もいます。
就労意欲が高く、その動機もある外国人労働者を見て、自らの姿勢を正す日本人スタッフも多いでしょう。
外国人労働者を雇用することは、現場で働く日本人スタッフの、仕事に対する意識を向上させてくれる効果も期待できるのです。
宿泊業で外国人労働者を受け入れる際の注意点
宿泊業において外国人労働者を受け入れる際は、次の2点に注意が必要です。
在留資格にもよりますが、実際に外国人材を自社で雇用する場合、出入国在留管理庁(入管)の審査が通らなければ、働くのに必要な在留資格が取得できない可能性があります。
特に、これまで外国人材を雇用したことがなく、ノウハウが不十分な状態で外国人材を雇用することは、非常に難易度が高いものと考えてよいでしょう。
その難関を突破して、無事に外国人材を雇用する運びとなったとしても、次は受入体制の整備が課題となります。
雇用計画、報酬、住居やライフラインのサポート、日本語支援、スタッフとのコミュニケーションなど、課題は多岐にわたります。
それに加えて、在留資格別の注意事項も存在するため、採用活動をスタートさせる時点で「どのような外国人材を採用したいのか」を明確にしなければ、自社で活躍してくれる人材を採用するのは難しいでしょう。
よって、初めて外国人材を採用する場合は、海外人材の派遣やサポートに精通した組織・企業の支援を受けることが大切です。
まとめ
宿泊業は人手不足が深刻化し、外国人材の活用が重要になっています。
そのような中で外国人材を採用することには、多言語対応や新たな視点の獲得などのメリットがある一方、入管の審査や受け入れ体制の整備など、注意すべき点も数多く存在します。
外国人材の採用・定着を確実なものにするためには、採用目的にマッチした在留資格を持つ人材の紹介や、採用後の定着支援などのサポートを受けることが重要です。
海外人材の採用に興味があるものの、採用にあたり十分なリソースが確保できずお悩みの経営者・企業担当者の方は、Factory labをご活用ください。