外国人支援

ファクトリーラボ株式会社の代表

山本 陽平

公開日

October 21, 2022

更新日

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脱退一時金は外国人にいくら支給される?制度の概要・要件・計算式等を解説

目次
表紙

日本の国民年金・厚生年金保険は、加入要件に国籍が含まれていないため、日本で働く外国人も国民年金・厚生年金保険の対象となる場合があります。

しかし、外国人労働者で、母国に帰ることを想定している人の多くは、日本で年金をもらうつもりはないでしょう。

となると、将来受け取る予定のない年金保険料の支払いに対して、難色を示す外国人労働者がいてもおかしくない話ですよね。

そんな外国人労働者のために設けられているのが、すでに納めている年金保険料の一部を返金してもらえる、脱退一時金制度です。

この記事では、脱退一時金制度の概要・要件について触れつつ、いくら支給されるのか算出するための計算式や請求時の注意点などについて解説します。

 外国人のための「脱退一時金制度」とは

脱退一時金制度を一言で説明すると、日本国籍を持たない外国人が、母国に帰ることを想定して設けられた制度のことです。

以下に、脱退一時金制度のあらましをご紹介します。

支払った年金保険料の一部を請求できる

脱退一時金制度とは、日本国籍を有しない方(外国人労働者等)が、国民年金・厚生年金保険(共済組合等を含む)の被保険者・組合員等の資格を喪失して、日本を出国した場合に請求できる一時金のことです。

せっかく納めてきた外国人の保険料が、掛け捨てにならないようにするための救済措置ととらえると、イメージがつかみやすいかもしれません。

脱退一時金を請求できる期間は、一定の条件を満たす外国人が、日本に住所を有しなくなった日から2年以内となっています。

また、国民年金と厚生年金保険で、支給要件等に少し違う部分がありますから、支給要件の確認時は注意しましょう。

国民年金の脱退一時金支給要件

国民年金における、脱退一時金の支給要件は、以下のようになっています。

  1. 日本国籍を有していないこと
  2. 公的年金制度(厚生年金保険または国民年金)の被保険者でないこと
  3. 保険料納付済期間等の月数の合計が6月以上あること ※(国民年金に加入していても、保険料が未納となっている期間は要件に該当しない)
  4. 老齢年金の受給資格期間(厚生年金保険加入期間等を合算して10年間)を満たしていないこと
  5. 障害基礎年金などの年金を受ける権利を有したことがないこと
  6. 日本国内に住所を有していないこと
  7. 最後に公的年金制度の被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していないこと ※(資格喪失日に日本国内に住所を有していた場合は、同日後に初めて、日本国内に住所を有しなくなった日から2年以上経過していない)

※参照元:日本年金機構|脱退一時金の制度

上記の要件の中で注意しておきたいのが、保険料納付済期間等の月数の合計についてです。

こちらを算出する場合、単純に保険料を納付した月だけをカウントするのではなく、以下のようなルールで月数をカウントする点に気を付けましょう。

・請求日の前日において、・請求日の属する月の前月までの、
・第1号被保険者(任意加入被保険者も含む)としての被保険者期間にかかる、
・次の①~④を月数として合算する
 ①保険料納付済期間の月数
 ②保険料1/4免除期間の月数×3/4
 ③保険料半額免除期間の月数×1/2
 ④保険料3/4免除期間の月数×1/4

※参照元:日本年金機構|脱退一時金の制度

保険料を一定額免除されていた月に関しては、単純に1月としてカウントできないため、例えば上記の④の月に関しては、4ヶ月分で1月とカウントすることになります。

後述しますが、この月数が支給額を計算する際の根拠となりますから、人事労務担当者は月数を算出する際のルールを理解しておくことが大切です。

厚生年金保険の脱退一時金支給要件

厚生年金保険における、脱退一時金の支給要件は、以下のようになっています。

  1. 日本国籍を有していないこと
  2. 公的年金制度(厚生年金保険または国民年金)の被保険者でないこと
  3. 厚生年金保険(共済組合等を含む)の加入期間の合計が6月以上あること
  4. 老齢年金の受給資格期間(10年間)を満たしていないこと
  5. 障害厚生年金(障害手当金を含む)などの年金を受ける権利を有したことがないこと
  6. 日本国内に住所を有していないこと
  7. 最後に公的年金制度の被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していないこと※(資格喪失日に日本国内に住所を有していた場合は、同日後に初めて、日本国内に住所を有しなくなった日から2年以上経過していない)

※参照元:日本年金機構|脱退一時金の制度

国民年金が「一部免除がなされていた月」も一定数カウントしているのに対して、厚生年金保険の保険料は給与から差し引かれる仕組みになっていることから、ルールの中で保険料の支払い免除が想定されていません。

それ以外の大まかなルールは、国民年金と変わらないものと考えてよいでしょう。

脱退一時金の計算式

続いて、脱退一時金を計算する際の、詳しい計算式についてご紹介します。

こちらも、国民年金・厚生年金保険で計算式が多少異なりますから、計算式を間違えないよう気を付けましょう。

国民年金の脱退一時金の計算式

国民年金の脱退一時金は、以下の計算式によって算出されます。

【最後に保険料を納付した月が属する年度の保険料額×1/2×支給額計算に用いる数】

計算式における「支給額計算に用いる数」とは、保険料納付済期間等の月数に応じて決まり、具体的には以下のようなルールで数が定められています。

国民年金の脱退一時金の計算式
※参照元:日本年金機構|脱退一時金の制度

計算式の「最後に保険料を納付した月が属する年度の保険料額」に関しては、各年度によって異なるため、年度ごとに金額も変わります。

また、最後に保険料を納付した月によって、上限となる月数に以下のような違いが生じます。

上限となる月数

以下、参考情報として、各年度の支給額についてご紹介します。

※参照元:日本年金機構|脱退一時金の制度国民年金の脱退一時金額

厚生年金保険の脱退一時金の計算式

厚生年金保険の脱退一時金は、以下の計算式によって算出されます。

【被保険者であった期間の平均標準報酬額×支給率(保険料率×1/2×支給率計算に用いる数)】

国民年金と違う点は、計算式の「被保険者であった期間の平均標準報酬額」が、次のようなルールで算出されることです。

<被保険者であった期間の平均標準報酬額>
A 2003年(平成15年)4月より前の被保険者期間の標準報酬月額に1.3を乗じた額
B 2003年(平成15年)4月以後の被保険者期間の標準報酬月額および標準賞与額を合算した額
上記AとBを合算した額を、被保険者期間の月数で割って算出した金額

※参照元:日本年金機構|脱退一時金の制度

また、計算式の「支給率」とは、

・最終月(資格を喪失した日の属する月の前月)の属する年の、
・前年10月の保険料率(最終月が1~8月であれば、前々年10月の保険料率)に1/2を乗じた率に、
・被保険者期間の区分に応じた「支給率計算に用いる数」を乗じたもの 

をいいます。

被保険者であった期間・支給率計算に用いる数・支給率の関係性は、以下のように示すことができます。

<最終月が2022年(令和4年)4月以降の場合>

※参照元:日本年金機構|脱退一時金の制度

なお、計算に用いる月数の上限は、国民年金と同様、最終月のタイミングによって以下のように変わります。

脱退一時金の請求手続きと注意点

実際に脱退一時金を請求する場合、所定の手続きが必要です。

また、社会保障規定の有無によっては、外国人労働者の母国で支払った保険料に通算する可能性がありますから注意しましょう。

請求手続きに必要な書類

脱退一時金の請求に必要な書類としては、以下のようなものがあげられます。

※参照元:日本年金機構|脱退一時金を請求する方の手続き

これらの書類の提出先は、日本年金機構本部、または各共済組合等が対象となります。

郵送・電子申請の両方が認められますが、加入していた制度とその期間によって、提出先が異なる点に注意が必要です。

脱退一時金を請求する際の注意点

実際に脱退一時金を請求する場合、請求先は以下のようなルールで決まります。

① 日本滞在中の年金加入期間が、国民年金または厚生年金保険である場合
→日本年金機構に請求する
② 共済組合等に加入していた期間がある場合
→国民年金の保険料納付済期間等の月数によって変わる

② の場合、共済組合等の加入期間や、国民年金・厚生年金保険に最後に加入していたかどうかで、請求先が変わってきます。

具体的には、以下のようなケースが想定されます。

その他、脱退一時金を請求するにあたっては、以下のような点に注意が必要ですから、対象となる外国人労働者に詳細を説明できるように準備しておきましょう。

・脱退一時金を受け取った場合、脱退一時金を請求する以前のすべての期間が年金加入期間でなくなる
・老齢年金の受給資格期間が10年以上ある場合、日本の老齢年金として受け取る形になり、脱退一時金が受け取れなくなる
・日本年金機構等が請求書を受理した日に、住所がまだ日本にある場合には、脱退一時金は請求できない
※(住んでいる市区町村に転出届を提出した後で、脱退一時金を請求する必要がある)
・国民年金と厚生年金保険の両制度の期間は合算されない
※(例えば、国民年金保険料の納付済期間が3ヶ月・厚生年金保険の被保険者期間が4ケ月の場合、合計で7月となるが、それぞれの期間は合算されないので脱退一時金は請求できない)
など

社会保障協定を結んでいる国の人の場合

自社で働いている外国人労働者が、社会保障協定を結んでいる国の人だった場合、

○将来、加入期間を通算して年金として受給するか

○脱退一時金を受け取るか

いずれか一方を選択することになります。

社会保障協定とは、外国人労働者が以下の2点について悩むことのないよう、日本と他国の間で締結されている協定です。

・保険料の二重負担防止(日本と母国)
・年金加入期間の通算(両国の年金制度への加入期間を通算)

社会保障協定を結んでいる国の労働者であれば、将来的に母国で年金を受け取る形で検討する可能性が高いですから、掛け捨てにならないように取り計らう必要があるでしょう。

逆に、アジア諸国など社会保障協定を結んでいない国の労働者に関しては、脱退一時金という形でお金をもらわないと損をすることを説明しなければなりません

いずれにせよ、選択の余地がある場合は、上記を充分比較検討して判断するよう、外国人労働者に説明する必要があります。

1号特定技能外国人の脱退一時金に関する注意点

特定技能1号が創設されたことにより、期限付きの在留期間の最長期間が5年となりました。

先ほど、国民年金・厚生年金保険の脱退一時金の計算式等についてご紹介した通り、脱退一時金の計算における月数の上限は、3年から5年に変更されています

そのため、年金の加入期間のタイミングによっては、受け取れる脱退一時金の金額が変わってきます。

具体例として、以下の2つのケースをご紹介します。

<ケース1>
Q. 外国人技能実習1号・2号の実習期間(合計3年間)の終了後に一時帰国し、その後日本に再入国して3号の実習期間(合計2年間)を修了した。
再帰国後に1号・2号・3号の合計5年間分について脱退一時金を請求した場合の支払いはどうなるか。
A. 「2021年(令和3年)4月以降」に年金の加入期間がある場合は、技能実習3号終了後の帰国時に請求した際、まとめて5年分の支払いが受けられる。
「2021年(令和3年)3月以前のみ」に年金の加入期間がある場合は、実習期間が5年であっても、3年分の支払いしか受けられない。

<ケース2>
Q. 外国人技能実習1号・2号の実習期間(合計3年間)が終了し、一時帰国後に特定技能1号として日本に再入国後、5年間在留する予定である。
外国人技能実習1号・2号、および特定技能1号の合計8年間分の脱退一時金について、どのように請求すればよいか。
A. 技能実習期間と、特定技能期間の合計8年分を、以下の通り分けて請求する。
①技能実習1号・2号終了後に一時帰国するとき(3年)
②特定技能1号終了後に帰国するとき(5年)

※参照元:日本年金機構|Q&A(短期在留外国人の脱退一時金)

まとめ

自社で外国人労働者に長く働いてもらいたいと考えている場合、脱退一時金の仕組みも含め、各種制度を理解した上で採用活動を行う必要があります。

ただ、制度の理解につき、人事労務担当者に負担をかけることは間違いないため、必要に応じて専門機関に頼ることが大切です。

Factory labは、1号特定技能外国人の登録支援機関としての経験をもとに、御社にフィットしたサポートが可能です。

脱退一時金について、正しいガイダンスができるかどうか不安を感じた場合は、お気軽にご相談ください。

ファクトリーラボ株式会社の代表

代表取締役社長

山本 陽平

1990年東京生まれ。2013年上智大学総合人間科学部卒業後、東証1部上場の資産運用会社に入社しコーポレート部門に配属。2017年、外国人採用支援及び技能実習生の推進をしているスタートアップに参画。事業部長として特定技能、技能実習、技術・人文知識・国際業務の人材紹介や派遣事業の展開及び支援を取り仕切る。人的な課題、採用や定着に大きなペインを抱えた製造業に着目し、一貫したソリューションを提供することを目的として2022年にファクトリーラボを設立し代表に就任。