これまで、自社で外国人を労働者として雇ったことがない場合、ディテールが分かりにくいものの一つに「社会保険手続き」があげられます。
外国人の各種保険の加入について、以下のようなイメージでとらえている人は、意外と多いのではないでしょうか。
外国人を雇用する上で、社会保険に関する知識は必要不可欠なものです。
経営者・人事関係者はもちろんのこと、工場長など人材や労働を管理する役職者は、日本人労働者との違いも踏まえ理解を深めておきたいところです。
この記事では、外国人の社会保険手続きについて、加入条件や各種制度について解説します。
外国人労働者の社会保険加入は必要なのか
社会保険は、日本人だけでなく、日本で働く外国人も加入しなければならない仕組みとなっています。
まずは、外国人労働者の社会保険加入の必要性や、加入する可能性が考えられる保険の種類について解説していきましょう。
条件を満たした労働者は加入しなければならない
日本において、労働者が社会保険に加入する基準を満たすかどうかは、主に労働の有無とその条件によって分かれています。
人事・労務を担当されている方ならご存じだと思いますが、所定の労働日数・労働時間に達する働き方をした場合は雇用保険に加入するなど、各保険によって条件は異なりますよね。
実は、このルールは日本人だけに適用されるものではなく、日本で働く人は平等に社会保険の適用を受けることになっています。
つまり、以下の条件を満たしている労働者は、外国人だろうが日本人だろうが社会保険に加入しなければならないのです。
よって、経営者や人事担当者は、国籍で加入の有無が決まるわけではないことに注意して、人事・労務手続きを進める必要があります。
外国人労働者が加入する可能性のある保険の種類
外国人の就労に関係する保険の中で、加入する可能性があるものは、ほぼ日本人労働者と同様です。
労働者の年齢を問わず加入の可能性がある保険としては、以下の4種類が考えられます。
- 労災保険
- 雇用保険
- 健康保険
- 年金保険
これらの保険に関しては、基本的に加入条件を満たした労働者は、すべて加入しなければなりません。
また、受け入れ先の企業規模・労働者の労働条件によって、加入が必要な保険制度にも違いが見られます。
なお、社会保険の中には「介護保険」も含まれますが、こちらは以下の条件を満たした外国人労働者が加入の対象となります。
- 3ヶ月を超えて日本に在留すること
- 外国人労働者の年齢が40歳以上であること
介護保険に関しては、基本的に自動で手続きが行われるため、この記事では先にご紹介した4つの保険について詳しく解説します。
労災保険について
すべての労働者は、仕事が原因でケガや病気をしたり、通勤中に事故などの災害に遭遇したりするおそれがあります。
外国人労働者も例外ではなく、外国人だからといって、労災保険の加入が拒まれることはありません。
以下、外国人の労災保険加入について解説します。
事業の規模にかかわらず加入させなければならない保険
労災保険は、事業の規模にかかわらず、1人でも労働者を雇用している事業主は「従業員に加入させなければならない」保険となっています。
よって、雇用形態や国籍に関係なく、労災保険が適用されますから、外国人労働者も加入の対象です。
労災保険は、外国人労働者の在留資格にかかわらず適用される保険のため、留学生アルバイト・技能実習生なども労災保険給付の対象です。
給付の種類も豊富ですから、労働者が安心して働ける環境を整える意味で、非常に重要な保険です。
具体的な給付の種類としては、以下のようなものがあげられます。
- 療養補償給付(労災の対象となる、ケガや病気の治療費を補償してくれる)
- 休業補償給付(労災の対象となるケガや病気で、賃金を受け取れない期間に保険給付が行われる)
- 障害補償給付(労災の対象となるケガ・病気が治った後も、障害が残る場合に年金、一時金が支給される)
- 遺族補償給付(労災で家族が亡くなった場合に、遺族に年金、一時金が支給される)
労働者が給付中に帰国した場合はどうなる?
外国人労働者は、母国の家族に何かあった場合など、諸々の事情で一時帰国する場合があります。
もし、労災保険の給付中に外国人労働者が帰国した場合、以下の一部の給付を受けられなくなります。
また、日本以外から請求する場合、保険給付額は「支給決定日における外国為替換算率(売りレート)」で換算した日本円での支給となります。
海外で治療を受けた場合は、診療の内容が妥当なものと認められた場合につき、治療に要した費用が支給されます。
雇用保険について
雇用保険は、必ずしもすべての外国人労働者が加入するとは限らず、対象となる労働者の働き方によって、加入すべきかどうかが決まります。
また、労働者の立場によっては加入できないケースもあることから、採用後の労務手続きには注意が必要です。
加入条件は日本人と変わらず
外国人労働者の加入条件は、基本的に日本人と同様と考えて問題ないでしょう。
技能実習生も含め、以下の要件を満たしていれば、その労働者は加入しなければなりません。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 31日以上の雇用見込みがあること
原則として、1人でも従業員を雇用している場合、雇用保険の加入が義務付けられています。
そのため、短期バイトなど一部のケースを除いては、雇用保険もほぼすべての外国人労働者が加入するものと考えてよいでしょう。
雇用保険に加入できないケース
条件を満たしている労働者は、原則として雇用保険に加入しなければなりませんが、いくつか外国人労働者が加入できないケースもあります。
具体的には、以下のようなケースに当てはまる外国人労働者は、雇用保険に加入できません。
その他、注意すべき点として、外国人労働者が複数の企業で働いていたり、副業などを行っていたりする場合は、複数の企業で加入要件を満たしていることになります。
そのような場合、雇用保険に加入する義務があるのは1社に限られますから、労働者には「他社で雇用保険に加入しているのかどうか」を確認する必要があります。
雇用保険被保険者資格取得届の記載項目について
実際に雇用保険に加入する際は、外国人も日本人と同様に、雇用保険被保険者資格取得届に必要情報を記入して提出します。
外国人の場合、17~23欄への項目も必要となり、具体的な内容は以下の通りです。
上記のうち、在留資格に関しては、在留カードに記載されている内容通りに記載します。
また、在留資格が「特定技能」の場合は分野・「特定活動」の場合は活動類型まで記載します。
健康保険と厚生年金保険について
健康保険・厚生年金保険は、労働者の健康や生活を守るための大切な保険です。
よって、外国人も基本的には加入の対象となるわけですが、加入する保険の種類や条件がやや細かいため注意しましょう。
健康保険と厚生年金保険は両方加入する
外国人労働者は、日本人労働者と同様に、健康保険と厚生年金保険の両方に加入しなければなりません。
雇用主が法人の場合、すべての法人で強制加入となるため、大半の外国人労働者は加入するものと考えてよいでしょう。
ただし、個人事業の場合は、以下の条件を満たした場合に限り加入することになります。
なお、2022年10月1日以降は、上記の16業種に加えて、
○弁護士、税理士等の資格を有する者が行う法律または会計に係る業務を行う事業
が追加されます。
外国人労働者の適用範囲
健康保険の加入対象となる人は「適用対象者」と呼ばれ、所定の条件を満たしている外国人労働者は、健康保険・厚生年金保険に加入しなければなりません。
具体的な条件は以下の通りです。
なお、条件における「所定の事業所」の規模に関しては、以下のスケジュールで要件が変わる予定となっています。
- 現行のルールでは常時500人超
- 2022年10月からは常時100人超
- 2024年10月からは常時50人超
ここまでお伝えしてきた条件を満たさない外国人労働者は「適用除外者」に分類され、健康保険・厚生年金保険への加入ができません。
その他、以下のような条件に当てはまる人は、適用除外者となります。
- 家族の扶養に加入している人
- 役員報酬0円の法人代表者、非常勤役員
適用除外者の場合は国民健康保険・国民年金に加入
健康保険・厚生年金保険に加入できない適用除外者も、保険の加入がないまま働くことにはなりません。
日本の保険制度は非常に優しい仕組みで、すべての国民が公的医療保険に加入することになっており、これを国民皆保険制度といいます。
国民皆保険制度の対象となるのは、日本で働いている外国人労働者も同様です。
よって、外国人労働者自身が健康保険に加入していない場合や、家族の扶養に加入していない場合は、国民健康保険・国民年金への加入が必要です。
外国人労働者を雇用する場合に注意したいこと
ここまでお伝えしてきた通り、外国人労働者が社会保険に加入する際の条件は、日本人労働者と大きく変わるところはありません。
しかし、外国人労働者にのみ適用される制度や、特定技能外国人の雇用時に気を付けるべき点など、以下のような注意点もあります。
社会保障協定
外国人が海外で働く場合、原則として働いている国の社会保障制度に加入する形になります。
しかし、母国にも社会保障制度があり、母国と日本の両方の保険料を支払うような形になると、労働者の金銭的負担は大変なものになってしまいます。
こういった保険料の二重負担を防止する目的で、加入すべき制度を二国間で調整することを目的として締結する協定を「社会保障協定」といいます。
日本ではすでに23ヶ国と協定を署名済みで、そのうち22ヶ国は発行済みとなっています。
脱退一時金
日本国籍を持っていない外国人の多くは、やがては自分の国に帰るタイミングを迎えることになります。
しかし、一定期間は国民年金・厚生年金保険の保険料を支払っているわけですから、将来的に年金をもらう可能性がないのであれば、これまでに支払った分のお金をいくらか戻して欲しいと思うのが人情ですよね。
実は、国民年金・厚生年金保険(共済組合等を含む)の被保険者を止めて日本を出国した場合、日本の住所がなくなった日から2年以内であれば、外国人は一時金を請求することができます。
これを「脱退一時金」といい、脱退一時金をもらった外国人は、その後また日本に戻って働くことがあったとしても、被保険者の期間はリセットされます。
脱退一時金に関する詳細は、以下の記事をご覧ください。
関連記事:脱退一時金は外国人にいくら支給される?制度の概要・要件・計算式等を解説
特定技能外国人の保険料納付状況
日本に在留している留学生等の外国人を、特定技能外国人として雇用したい場合は、以下の点を事前に確認しておきましょう。
- きちんと税金を納税しているか
- 社会保険料の納付が必要な場合、保険料が滞納なく納付されているか
もし、これらの義務がきちんと果たされていない外国人を雇う場合、在留資格変更許可申請の審査に時間を要する可能性があります。
最終的に許可が出ない可能性もありますから、特定技能外国人の採用にあたっては、必ず納税・納付状況を確認しておきましょう。
まとめ
外国人を雇用する場合、基本的には各種保険への加入が必要になるものと考えてよいでしょう。
しかし、外国人労働者に対して、各種保険への加入義務を伝えた上で、外国人特有の制度についても正しく説明するのは、企業にとって少なからず負担となります。
即戦力として特定技能外国人の雇用を進めていきたい場合、自社で体制を整えるよりも、人材紹介・登録支援機関のサービスを活用した方が、採用・雇用の負担を減らすことにつながります。
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