人手不足が懸念される一部の産業・分野で一定の専門的知識や技能を持つ外国人を労働者として受け入れる事を可能にした在留資格「特定技能」が2019年4月に創設されました。
「特定技能」の在留資格は、労働者として受け入れられる外国人と彼らを受け入れる国内企業双方が条件を満たさなければなりません。
ここでは「特定技能」のビザ申請方法及び必要な書類について解説していきます。
特定技能とは?
「特定技能」とは、労働力確保が難しい一部の産業・分野で一定の専門的知識と技能を有する外国人が働くことを可能にする在留資格です。
「特定技能」には1号と2号があります。
「特定技能1号」とは
「特定技能1号」は一定の知識又は経験を必要とする技能を要する業務(特定産業分野)に従事可能な在留資格のことです。
ビザは1年、6カ月あるいは4カ月毎の更新があり、在留期間は通算で上限5年と定められています。
「特定技能2号」とは
特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人に許可される在留資格です。
「特定技能2号」での受け入れは令和5年6月9日の閣議決定によって正式に拡大が決定しました。変更前のルールで、特定技能2号の対象となっていた分野は、建設分野と造船・舶用工業分野(溶接区分のみ)が対象でした。
変更後はこれらに加えて、以下の分野が新たに追加されます。
▶参考記事:特定技能2号が業種拡大へ!事業主が押さえておきたいポイント
「特定技能1号」と「特定技能2号」の違い
大きな違いは3点です。
まずは在留期間の上限です。「特定技能1号」が上限5年の在留期間を設けられているのに対し、「特定技能2号」に上限はありません。
2点目は外国人に対する職場・生活支援です。「特定技能1号」は受入れ企業(特定技能所属機関)又は登録支援機関による支援の対象であるのに対し、「特定技能2号」はその対象外となっています。
最後は家族の帯同です。「特定技能1号」が家族の帯同を認められていないことに対し、「特定技能2号」は配偶者と子どもに関してのみ帯同が認められています。
特定産業分野の種類
在留資格「特定技能」を得た外国人が働くことができる12種の業界を特定産業分野と呼びます。
以下に種類と主な業務内容をまとめていきます。
なお特定技能1号の対象とされる12の分野において、素形材産業・産業機械製造業・電気・電子情報関連産業の3分野を1つにまとめ、全体で12の業種に再編されることが2022年4月閣議決定され、同年8月末に施行されています。今後も、新たな業種の追加や業種の再編等が発生してくると言えるでしょう。
特定技能外国人の数は2023年6月末時点で173,089人。このうち飲食料品製造業が最も人数が多く、全体の30.8%を占めています。
国内の外国人が特定技能ビザを申請する手順
ここからは、日本に在留している外国人が特定技能ビザを申請する際の流れを説明していきます。
①日本語試験及び技能評価試験へ合格するか技能実習2号を修了する
「特定技能」申請する上で前提となるのが特定産業分野と日本語に関する知識や経験を習得していることです。
そのためには試験に合格していることが必須条件となります。
「特定技能」を申請する外国人は「日本語試験(N4相当)」と各分野ごとに実施される「技能評価試験」へ共に合格する必要があります。
日本語試験は生活や業務に支障をきたすことがない程度の日本語能力があるかどうか、技能試験は分野により異なるものの、専門知識が備わっているかどうかが試されます。
なお、技能実習2号を良好に修了している外国人は上記試験が免除となります。この場合は技術実習と同じ分野でのみ移行が可能です。
▶参考記事:在留資格・特定技能1号取得に必要な技能試験・日本語試験について解説
②雇用契約の締結
採用が決まれば企業と雇用契約を締結することになります。
契約を結ぶにあたって、外国人側は日本人と同等の報酬であるかどうか、福利厚生等で日本人と差別的な扱いがなされていないかどうかをチェックする必要があります。
③1号特定技能外国人支援計画の策定
特定技能1号を受け入れる場合、スムーズに活動ができるよう、受け入れる側は1号特定技能外国人支援計画を作成し、出入国在留管理庁へ提出する必要があります。
内容は、支援責任者及び支援担当者の氏名や役職、登録支援機関名(委託する場合のみ)、住所に加えて、以下10項目の支援の実施内容・方法などがあります。
- 事前ガイダンス
- 出入国する際の送迎
- 住居確保・生活に必要な契約支援
- 生活オリエンテーション
- 公的手続等への同行
- 日本語学習の機会の提供
- 相談・苦情への対応
- 日本人との交流促進
- 転職支援(人員整理等の場合)
- 定期的な面談・行政機関への通報
上記のような支援を自社で行うことに不安がある企業は、登録支援機関に委託することが可能となっています
▶参考記事:【特定技能人材の雇用】登録支援機関の役割や選び方のポイント5つを解説!
④在留資格変更許可の申請
次に地方出入国在留管理局かオンラインで在留資格変更許可申請をします。
特定技能外国人が日本に在留している場合、本人または承認を受けた取次者のみ申請ができます。
申請に必要となる書類は以下の通りです。
- 在留資格変更許可申請書
- 健康診断個人票
- 写真(縦4cm×横3cm)1枚(3ヶ月以内に撮影したもの)
- 申請人のパスポート及び在留カードの提示
- 身分を証する文書(申請取次者証明書や戸籍謄本など)
- 技能試験及び日本語試験の合格証明書(有効期限内であること)
- 分野ごとの必要書類
- 受入れ機関の概要
- 特定技能雇用契約書の写し
- 1号特定技能外国人支援計画
- 資格外活動許可書を提示(同許可書の交付を受けている場合)
- 旅券又は在留資格証明書を提示
- (旅券又は在留資格証明書を提示することができないときは理由を記載した理由書)
- 身分を証する文書等の提示(申請取次者が申請を提出する場合)
用意する書類が多いため、余裕をもって準備しましょう。
在留資格変更が許可をされた場合、収入印紙代として4,000円が必要です。
許可が出ると在留資格「特定技能1号」と記載された在留カードとともに指定書が発行されます。
▶参考記事:在留資格オンライン申請が開始!企業のメリットや注意点を解説
⑤就労開始
すべての手続きが完了すると、特定技能外国人として就労可能になります。
ただ、それで終わりではなく、3ヶ月に1度活動状況を出入国在留管理庁に報告しなければなりません。
また、計画内容や雇用条件に変更があった場合、随時関連書類の提出を求められます。
海外在住の外国人が特定技能ビザを申請する手順
次に海外に在住している外国人を雇用し特定技能ビザを申請する流れを説明します。
①試験合格か技能実習2号の修了
国内在留外国人が「特定技能」ビザを申請する流れと同じく、申請の対象となる外国人は国内外で実施している特定産業分野の技能評価試験及び日本語試験に合格しているか、あるいは技能実習2号を良好に修了している必要があります。
前述の通り、技能実習2号の修了後に帰国をしていても、技能実習時と同じ分野へ移行する場合は各種試験が免除されます。
②雇用契約の締結
海外在住の特定技能外国人の採用が決定したら雇用契約を結びます。
その際、報酬や福利厚生、その他の待遇について差別的な扱いをされていないか、通常の労働者の所定労働時間と同等に扱われているかをチェックしましょう。
③1号特定技能外国人支援計画の策定
日常生活と社会生活をサポートするために1号特定技能外国人支援計画を作成・提出する必要があります。
策定時に求められるものは国内在住の特定技能外国人への支援計画と同じです。
④在留資格認定証明書の申請
次は地方出入国在留管理局またはオンラインで在留資格認定証明書の交付を申請します。
主な必要書類は下記のとおりです。
- 在留資格認定証明書交付申請
- 健康診断個人票
- 写真(縦4cm×横3cm)1枚(3ヶ月以内に撮影したもの)
- 返信用封筒(定形封筒に宛名及び宛先を明記して404円分の切手(簡易書留用)を貼付したもの)1通
- 身分を証する文書(身分証明書等)の提示
- 特定技能外国人の在留諸申請に必要な書類(業種により異なる)
- 技能試験及び日本語試験の合格証明書(有効期限内であること)
- 受入れ機関の概要
- 特定技能雇用契約書の写し
- 1号特定技能外国人支援計画
対象となる特定技能外国人はこの場合国外にいるため、受け入れ機関の職員などの代理申請が基本となっています。
▶参考記事:在留資格認定証明書とは|有効期限や不交付リスクについても解説
⑤ビザの申請
在留資格認定証明書を受け取ったら他の必要書類と一緒に在外公館へ提出し、ビザの申請を行います。
⑥入国後に就労開始
ビザが発給されたら、在留資格認定証明書の発行から3ヶ月以内に日本に入国しなければなりません。
入国後に就労が始まりますが、ここで注意したいのは初めから日本に滞在していた外国人と違い、生活基盤が未整備である点です。
従って1号特定技能外国人支援計画に従って口座開設や各種手続きのサポートや日常生活のサポート(住民登録・住居の確保)などを重点的に行います。
参考記事:
少しでも早く日本の生活に慣れて、仕事に励むことができる体制を整えることが大切です。
また、3ヶ月に1度、活動状況を出入国在留管理庁へ報告することも必要です。
支援計画の内容や雇用条件に変更があった際も随時関連書類の提出を求められる点は注意が必要です。
▶参考記事:【特定技能人材の雇用】登録支援機関の役割や選び方のポイント5つを解説!
▶参考記事:特定技能の定期報告について必要書類や書き方・期限も解説
特定技能のビザ申請に必要な書類
「特定技能」ビザの申請に必要な書類は多岐にわたります。
滞りなく揃えた書類を出入国在留管理庁へ提出することでビザの申請を行います。
ここではビザ申請に必要な書類を詳しく説明していきます。
外国人側の必要書類
まずは就労する外国人本人、または申請代理人と認められた人物が用意しなければならない書類をまとめていきましょう。書類の種類が多いため、特に注意が必要なものをピックアップして解説していきます。
なお、申請書類の一覧や様式に関しては、以下の出入国在留管理庁HPをご覧ください。
・雇用契約書類
雇用契約に関する書類は条件や場合によって必要書類が違ってきますが、外国人側が必ず用意しなければならない書類は「特定技能雇用契約書の写し」と「雇用条件書の写し」です。
法律に違反していないか、差別的待遇となっていないか、支払われる給与の金額、そこから控除される社会保険や各種税金については明確にされていなければなりません。
・在留資格申請書
申請書も外国人本人、あるいは申請代理人と認められた人物が記載する必要があります。
主な項目は以下の通りです。
- 外国人本人の氏名、国籍、生年月日など個人情報
- 証明写真(縦4cm×横3cm)1枚(3ヶ月以内に撮影したもの)
- 過去の出入国歴、犯罪歴、違反歴、職歴などの履歴
- その他特定技能の条件に関する事項
- 所属機関(雇用企業)に関する事項
・履歴書や健康診断書などの書類
外国人の日本語能力や健康状態を示す以下の書類です。
- 履歴書
- 各分野の試験管轄機関が発行する技能試験合格書
- 日本語試験合格書(技能実習2号優良修了証明書でも可)
- 健康診断書
なお、健康診断書はひな形が出入国在留管理庁HPからダウンロード可能ですので、病院に渡すことがおすすめです。
・税金や年金などの書類
税金、年金、健康保険の状況を確認するために必要な書類です。書類は過去の所得、雇用形態、社保加入状況により変わってきますので、それぞれ何を用意しなければならないかの注意が必要です。
税金未納や支払い遅延などが認められた場合、ビザ申請が不許可になる可能性が高くなります。必ず納付してから、申請するようにしましょう。
また、国籍によっては、別途大使館等から取り寄せが必要な書類があります。(例えば、ベトナムでは、在日ベトナム大使館から「推薦者表」を取得しなければなりません。)
各国ごとに、申請人が準備しなければいけない書類があるという点は覚えておきましょう。
企業側の必要書類
これからは雇用する側、企業側が用意する書類について見ていきます。
なお、企業側の書類に関しても、同じく出入国在留管理庁HPから一覧表や様式をダウンロード可能ですので、あわせてご覧ください。
・企業情報関連書類
会社概要を説明する書類は以下の通りです。
- 所属機関概要書
- 法務局で取得する登記事項証明書
- 役所で取得する役員住民票の写し
・財務・税務関連書類
会社の財務、社会保険、営業可否を確認するために必要な書類です。
- 2年分の確定申告書・決算書の写し
- 労働局で取得する労働保険料納付証明書
- 年金事務所で取得する社会保険料納入状況照会回答票
- 税務署納税証明書
- 市町村納税証明書
- 営業許可証
上記の営業許可証は、業種によって異なりますので管轄がどこになるのか確認しましょう。
外国人側と同じように税の未申告、未納、遅延などがあれば「特定技能」ビザが許可されない可能性が高まりますので、注意が必要です。
・産業分野別の書類
「特定技能」外国人の受け入れに関する書類や分野ごとに用意すべき書類です。
- 特定技能外国人の受け入れに関する誓約書
- 各分野の協議会が発行する協議会入会証
- 国土交通大臣が発行する受入計画認定証の写し
最後の受入計画認定証の写しに関しては建設業の場合です。
建設業は他の分野に比べ条件が多く、手続きも複雑になっています。
受入計画認定証の写しを取得するにはビザ申請前に外国人就労管理システムに本人・企業情報を入力して申請しなければいけません。
特定技能のビザ申請で注意すべきポイント
特定技能は、他のビザと比較すると用意する書類も多く、手続きも非常に複雑で、受け入れ企業側にコンプライアンスの違反があれば受け入れ停止処分という罰則もあるため慎重かつ丁寧に手続きを進めていかなければなりません。
特に、これから初めて外国人労働者を受け入れようと考えている企業は、独自であれこれ進めるのではなく、適宜専門家に助言を求めた方がスムーズに進むと言えるでしょう。
最後に、特定技能のビザ申請で注意するべき2つのポイントについて整理しておきましょう。
申請書類の作成・許可が降りるまで時間がかかる
特定技能のビザ申請にはとにかく時間がかかります。
必要書類を各種行政機関で準備し、在留資格申請に必要な書類の作成、また、申請後の許可が降りるまでも一定の時間がかかってきます。
採用活動を開始し、実際に外国人が働き始めるまで最短でも3ヶ月、最長6カ月程度の期間が必要だと見積もっておくべきでしょう。
自社のみですべて遂行しても構いませんが、不備やミスがあった場合、余計な時間のロスを招いてしまいます。
外国人採用を決定してからすぐに就労してもらえるわけではないということを常に念頭に置いておかなければなりません。
分野や国籍ごとに、異なる申請書類・条件が課されている
12の分野ごとに、申請に必要となる書類や受け入れ企業の条件が個別に設定されているケースが多々あります。
特に、製造業の場合、出入国在留管理庁へのビザ申請の前に、「経済産業省が管轄する製造業特定技能外国人受け入れ協議・連絡会」へ入会しなければならないなど、注意が必要です。
▶参考記事:【特定技能】製造業の協議会にへの入会手続き等を解説
加えて、受け入れる外国人の国籍によっても、個別に提出を求められる書類があったりします。
そのため、初めて特定技能外国人を受け入れる企業様にとっては、申請自体ハードルが高いと感じられるケースがあるでしょう。
最悪の場合、書類不備を理由とした不許可や受け入れ予定の外国人の在留期限が切れてしまう等、トラブルに発展してしまうケースもあると言えるでしょう。
▶参考記事:製造業の特定技能外国人受入について解説
まとめ
少子高齢化が進み、労働力確保が非常に難しくなっていくであろう日本社会にとって、この「特定技能」ビザによる外国人労働者の受け入れは非常に重要な制度となっていきます。
これまで外国人労働者の受け入れに消極的であった企業も今後、採用せざるを得ない状況になる可能性は大いにあります。
報酬や労働条件の整備といった外国人労働者の受け入れ体制をしっかりと整えていくことが企業の存続に繋がるという時代がもうすぐそこまできていると言っても過言ではありません。
「特定技能」ビザを活用し外国人労働者の皆さんを受け入れることを前向きに検討してみてはいかがでしょうか。
もし、特定技能外国人の雇用を検討しているけど、「なんだか大変そうで不安という方」は、ぜひ当社まで一度お問い合わせください。