自社の人材補充のため、特定技能人材の雇用は有効な選択肢の一つですが、需要に供給が追い付いていない業種も珍しくありません。
なかなか希望通りの人材が見つからない場合、企業によっては派遣形態での受入れを検討するかもしれません。
残念ながら、特定技能人材は直接雇用が原則であり、基本的に派遣形態での雇用は認められません。
しかし、一部の分野に関しては、例外も認められています。
この記事では、特定技能人材の派遣における、原則と例外について解説します。
特定技能と労働者派遣に関する基礎知識
特定技能人材の派遣について具体的に解説する前に、そもそも特定技能制度がどのような事情から生まれたのか、労働者派遣とはどのような雇用形態なのか、大まかなイメージをつかんでおくと理解が早くなります。
まずは、
- 特定技能制度の目的
- 労働者派遣という雇用形態の概要
上記についてかんたんに解説します。
特定技能制度はなぜ生まれたか
もともと、特定技能制度は、国内で人材を確保するのが難しい状況にある産業分野において、一定レベルの専門性・技術を持つ外国人を受入れることが目的で生まれた制度です。
そのため、例えば短期バイトや日雇いのようなニュアンスで人材を確保することは、制度の目的に反しています。
よって、企業が特定技能人材と雇用契約を結ぶ場合は、日本人と差別することなく契約内容を定めなければなりません。
特定技能1号の場合、原則として直接雇用をすることに加えて、企業は外国人労働者を支援する体制を整える必要があります。
労働者派遣という雇用形態
続いて、労働者派遣という雇用形態について触れていきましょう。
労働者派遣事業とは、派遣元の事業主が雇用する労働者を、派遣先の指揮命令を受けて(派遣先のために)労働に従事させる事業のことです。
直接雇用だけで人員を賄おうとすると、例えば繁忙期と閑散期のニーズ差が激しい事業を営んでいる場合、十分な仕事を与えられない人材が一定数存在することになり、売上に対してアンバランスな人件費が閑散期に計上されることになります。
しかし、派遣労働者を利用することで、企業は繁閑差に応じて柔軟に人員を採用できるようになります。
こういった事情から、職務を円滑に遂行できるよう、一定水準の技術を身につけている派遣スタッフも多く見られます。
バックオフィス部門など、自社での本採用を前提に派遣社員を雇用したいというニーズもあり、労働者派遣という雇用形態は事業運営において幅広いメリットが存在します。
特定技能人材は、基本的に派遣の雇用形態で雇えない
必要なタイミングで、必要なスキルを持った人材を、必要なだけ確保できる労働者派遣は、多くの経営者にとって魅力的でしょう。
しかし、特定技能人材は、基本的に派遣の雇用形態で雇うことはできません。
特定技能外国人を受入れる際は「直接雇用」が基本
出入国在留管理庁の「特定技能外国人受入れに関する運用要領」によると、特定技能外国人を派遣労働者として受入れる場合、以下の通り条件が定められています。
※引用元:出入国在留管理庁|特定技能外国人受入れに関する運用要領
この条件を見る限り、派遣労働者の受入れそのものがNGとは書かれていません。
しかし、特定技能外国人受入れに関する運用要領は、分野ごとに基準が異なります。
企業が特定技能外国人を受入れる際は、多くの分野で「直接雇用」という条件がつきます。
一例として、建設分野の基準を見てみましょう。
※引用元:運用要項別冊|特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領-建設分野の基準について
こういった「分野別の基準」で、特定技能外国人を派遣労働者として受入れできるかどうかが決まっています。
そして、建設分野以外でも、直接雇用以外は認められない分野がほとんどなのです。
派遣対象とした場合は罰則もある
もし、ルールに従わず、特定技能外国人を派遣対象とした場合、どのような罰則を受けるリスクがあるのでしょうか。
こちらも、建設分野のケースで見てみましょう。
特定技能外国人受入れに関する運用要領(特定の分野に係るものも含む)
※引用元:運用要項別冊|特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領-建設分野の基準について
ルールを破ると、その後5年間は特定技能外国人の受入れができなくなるため、人材不足がより深刻になり、事業を継続できなくなるリスクが生じます。
自社で特定技能外国人を派遣という形で雇用したいと考えている場合、それが認められる分野なのかどうか、事前に確認が必要になるでしょう。
派遣が例外的に認められる場合もある
多くの分野で認められない特定技能人材の派遣ですが、すべての分野で不可というわけではありません、
例外的に派遣が認められる分野もあるため、続いてはその点について解説します。
特定技能で派遣形態が認められている2分野
特定技能人材の派遣が認められているのは、農業・漁業の2分野です。
以下、それぞれの分野について、従事できる作業をご紹介します。
農業
農業分野で外国人材に働いてもらう場合、以下の業務に従事する必要があります。
- 耕種農業全般の作業(栽培管理、農産物の集出荷、選別等)
- 畜産農業全般の作業(飼養管理、畜産物の集出荷、選別等)
ただし、これらの業務内容の中には、栽培管理または飼養管理の業務が必ず含まれていなければなりません。
また、同じ農業者等の下で作業する日本人が、普段から従事している関連業務にも付随的に従事できます。
具体的には、加工・運搬、販売の作業、冬場の除雪作業等が該当します。
漁業
漁業分野で外国人材に働いてもらう場合、以下の業務に従事する必要があります。
- 漁業(漁具の製作・補修、水産動植物の探索、漁具・漁労機械の操作、水産動植物の採捕、漁獲物の処理・保蔵、安全衛生の確保など)
- 養殖業(養殖資材の製作・補修・管理、養殖水産動植物の育成管理、養殖水産動植物の収獲(穫)・処理、安全衛生の確保など)
また、漁業または養殖業に従事する日本人が通常従事する関連業務であれば、特定技能外国人も付随的に従事できます。
漁業・養殖業は、それぞれ幅広い関連業務が存在しますが、関連業務のみに従事させることはできない点に注意が必要です。
派遣元企業に求められる条件
派遣元企業に求められる条件は、農業・漁業それぞれの分野で、以下の通り定められています。
※参照元:運用要項別冊|特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領-農業分野の基準について
※参照元:運用要項別冊|特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要項-漁業分野の基準について
一般的な派遣会社からの派遣というよりは、例えばJAグループなどの組織と連携できている派遣会社[u8] が対象となるイメージです。
また、雇用管理も含め十分な実績がある組織でなければ、特定技能外国人の派遣は認められないものと考えてよいでしょう。
派遣先企業に求められる条件
次に、派遣先企業に求められる条件について見ていきましょう。
特定技能外国人受入れに関する運用要領・外国人材の受入れ制度に関するQ&Aによると、派遣先企業は以下のいずれの条件も満たしていることが必要です。
- 労働、社会保険及び租税に関する法令の規定を遵守していること
- 過去1年以内に、特定技能外国人が従事することとされている業務と同種の業務に従事していた労働者を離職させていないこと
- 過去1年以内に,当該機関の責めに帰すべき事由により行方不明の外国人を発生させていないこと
- 刑罰法令違反による罰則を受けていないことなどの欠格事由に該当しないこと
2.に関しては、定年退職・労働者自身の責めに帰すべき重大な理由による解雇・有期労働契約の満了・自発的な離職を除きます。
また、4.に関しては、以下のいずれにも該当しないことをいいます。
不法就労に該当するケースには注意が必要
自社で特定技能人材を雇用するにあたっては、派遣元だけでなく派遣先企業も不法就労に加担しないよう気をつけたいところです。
日本国内で不法就労をあっせんした事業者だけでなく、働くことが認められていない外国人を雇用した事業者も、不法就労助長罪に問われるリスクがあるからです。
外国人の雇用時に、当該外国人が不法就労者であることを知らなくても、在留カードの確認をしていない等の過失がある場合は処罰の対象とります。
行為者を罰するだけではなく、行為者が属する法人・雇用主等に対しても罰金刑が科せられるため、雇用時の手続きは十分注意してください。
不法就労助長罪の罰則は、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはその併科となっています。
罪は重く、自社のイメージダウンにもつながる問題ですから、決して軽視しないようにしましょう。
不法就労の3ケース
外国人労働者につき不法就労と認定されるケースとしては、主に以下の3つが該当します。
日本人同士の感覚だと、残業について細かく考えない職場も少なくありませんが、こと外国人労働者を雇用する場合は重要な問題になります。
許可の種類も含め、これから働いてもらう人材の素性は入念に確認することが大切です。
まとめ
特定技能外国人を派遣という形で雇用することは、原則として禁止されていますが、農業・漁業の分野でのみ派遣が認められています。
逆に言えば、それ以外の分野においては、人材派遣が認められていないことになります。
派遣での雇用ができない分野・かつ繁閑差が激しい職場の場合、人材不足を解決するため、幅広い人材の紹介が可能なFactory labの利用をご検討ください。