医療・マーケティング・クリエイティブなど、さまざまな分野で導入が進むAI。
製造業も例外ではなく、労働力不足やサプライチェーン問題の解消など、諸々の課題を解消するためにAIを導入する企業が増えてきています。
実際にAIを自社で導入する場合、どのような方向性を目指して導入すべきなのか、具体的なメリットはどのようなものなのか、イメージできない経営者の方・企業担当者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、製造業でAIを活用するための考え方や導入メリット、事例などをご紹介します。
製造業の課題とAI導入の現状
日本の製造業は、高度経済成長をけん引した業種であり、今なお日本の経済を支えています。
しかし、近年は国際競争力が低下しており、2010年には名目GDPが中国に抜かれて3位に転落し、このままではドイツにも抜かれる可能性が生じてきました。
そんな日本における製造業の課題解決において、AIは強力な武器になる可能性があるものの、導入の進捗状況は決してスムーズとは言えません。
以下、製造業の課題とAI導入の現状について解説します。
日本の製造業が抱えている課題とは
日本の製造業が成長を続ける上で抱えている課題は、主に以下の3点に絞られます。
それぞれの課題について、一つひとつ詳しく見ていきましょう。
・慢性的な労働力不足
製造業に限った話ではありませんが、日本の生産人口は、少子高齢化によって減少傾向にあります。
総務省統計局の労働力調査によると、2021年平均で労働力人口は6860万人となっており、前年に比べて8万人の減少となりました。
パーソル総合研究所の推計では、2030年に644万人の人手が不足するものと予想されており、需要に対して供給が追い付かない状況が指摘されています。
将来的にはさらに減少が見込まれることから、海外から人材を雇うなど、労働力確保のための対策が国全体で求められています。
・サプライチェーンのリスク拡大
日本は災害大国であり、東日本大震災では、日本と世界のサプライチェーンに甚大な影響をもたらしました。
国内で効率と機動性を重視した結果、集中生産体制が一気に崩れ、深刻な爪痕を残しています。
その後数ヶ月で復旧が進んだものの、同様の問題が発生した際の対策として、代替先の確保や生産工場の分散化などを余儀なくされました。
2020年以降は、新型コロナウイルスの感染拡大やロシア情勢など、部品調達や価格の面で新たな問題に直面しています。
・国際競争力の低下
日本の国際競争力は年々低下しており、日本はIMD(国際経営開発研究所)の国際競争力ランキングで、2022年は34位と過去最低を更新しています。
国内市場が縮小していくことが予想される日本において、海外に市場を求めなければならないのは必然であるものの、それ以前の問題として「変化に対応する能力」が不足しているという意見もあります。
例えば、FAXがまだビジネスシーンで用いられている状況は、海外と日本のスピード感を示す一例です。
AI導入に関しても同様ですが、ビジネス面での決断が総じて遅いことから、他国に追い抜かれているものと推察されます。
製造業におけるAI導入の現状
ITおよび通信分野に関する調査・分析、アドバイザリーサービス、イベントを提供するIDC Japan株式会社は、2021年の国内AIシステム市場につき、市場規模が2,771億9,000万円、前年比成長率は26.3%になったことを明らかにしています。
しかし、Google Cloudによる2020年の調査によると、日本を含めた7ヶ国の製造業において、日本のAIの導入率は50%となっており、韓国を除いた5ヶ国よりもパーセンテージが低い結果となりました。
新型コロナウイルスの影響から、AI導入が加速化したという声も聞かれます。
しかし、それをどこまで活用できているのかと問われれば、具体的な効果が出ているケースは少ないのかもしれません。
製造業においてAIを活用できる分野
実際のところ、製造業の現場でAIを導入する場合、どんな場面で活用が期待できるのでしょうか。
以下、AIの活用ケースについて、いくつか具体例をご紹介します。
・生産ラインにおける不良品選別
不良品の選別は、人の目視で行う場合、柔軟に選別が行えるメリットがあります。
しかし、検出にムラがあったり、検査速度が遅くなったりすることがあるため、AI導入までは人海戦術が求められる分野でした。
AI技術を導入すれば、不良品・良品の大量のデータをもとにAIが特徴について学習し、不良品選別ができるようになります。
AIによる不良品選別は、目視の精度・柔軟性と高速処理を両立させる武器になるでしょう。
・作業の自動化
AIは、これまで人力で行っていた作業につき、自動化を実現できるツールです。
これまでの産業ロボットと違い、人手が必要な業務を協業で進められる「協働ロボット」が活用され始めたことで、以下のような作業が自動化できるようになりました。
文字通り、これまで人とロボットの間にあった“柵”を取り払い、ロボットと一緒に仕事を進められるようになるのです。
・需要の予測
将来的に見込まれる販売数や使用数の予測を行う「需要予測」は、AIの活用が期待される分野の一つです。
過去の売り上げ実績・天候・政治情勢といった、数多くのデータを分析することで、確度の高い予測が可能になります。
・予知保全
製造設備を継続的に監視し、データを収集・解析することで、機器や設備の劣化・不具合を予見する「予知保全」も、AIの得意分野です。
過去の故障についてAIに学習させ、機械の故障を事前に予測できれば、生産ラインを安定的に稼働できます。
製造業でAIを導入した際のメリット・ビジョン
製造業の現場でAIを導入すると、職場の未来はどのように変化することが予想されるのでしょうか。
続いては、AI導入のメリットや、将来のビジョンについて解説します。
労働力不足の解消
人手不足に悩む製造業の企業の多くは、一人あたりの労働量や労働時間がどうしても多くなりがちです。
そのため、社員が別の職場を探して離職してしまうケースも珍しくなく、人が集まらないという悪循環におちいりやすい傾向が見られます。
現場の人手が足りない中で、何とかして人員を確保しようと試みても、労働人口が減っている日本では限界があるでしょう。
しかし、業務の自動化・効率化のためAIを導入することにより、少人数でも仕事を回せるような体制の構築が実現できます。
これまで人力で行ってきた作業の一部でも、機械に任せることができれば、従業員の負担を減らすことにつながります。
導入するAI次第で、危険度の高い業務に従事させることも可能なため、従業員の働き方にも良い影響を与えられるはずです。
品質・安全性の向上
人間の目視によるチェックでは、不良品発生・異物混入のリスクは避けられません。
しかし、AIの運用によって定型業務を任せられるようになれば、品質の安定につながります。
また、製造業の現場では、機械に巻き込まれたり挟まれたりすることで、亡くなってしまう人も一定数存在しています。
安全性が十分でない工場では、従業員も働きたいと思わないため、離職率アップ・定着率ダウンのリスクも高まります。
そこで、工場内にカメラを設置し、AIと組み合わせて従業員・ロボットの位置を連続して把握することができれば、ロボットのルート逸脱・障害物や作業員との衝突危険性などを早期に検知が可能です。
トラブルの発生を予期して、工場の動きを完全に停止させることなく、事故を回避できるのがAIのメリットの一つです。
ロボットと一緒に働いて業務効率化
生産現場にAIを導入することで、これまで稼働させてきた生産設備とロボットの協働が実現します。
協働ロボットには、安全センサーなどが組み込まれており、人と同じ空間で作業ができるよう設計されています。
協働ロボットを広範囲に普及させるためには、ロボットに動作を教え込む「ティーチング」というプロセスが必要です。
しかし、作業目的を指定するだけでティーチングができる新しいロボットも登場しているので、今後も進化は続くものと推察されます。
将来的には製造工場の完全無人化も
自社工場におけるAIの運用が軌道に乗れば、製造工場の省人化だけでなく、将来的には完全無人化も現実となるでしょう。
工場稼働が完全に無人化された場合、従業員はより付加価値の高い仕事に従事できる上、危険な作業に従事する必要がなくなります。
その一方で、生産ラインをストップさせてしまわないよう、管理担当者には設備やAIに関する高度な知識・経験が求められます。
導入コストも決して安くはないため、費用対効果を検討した上で判断したいところです。
製造業でAIの活用を進める企業の事例
すでに自社でAIを導入し、何らかの形で活用を進めている企業は増えてきています。
代表的な企業事例としては、以下のようなケースがあげられます。
アイリスオーヤマ
生活用品の企画・製造・販売に携わるアイリスオーヤマ株式会社は、LED照明の生産ラインを無人化することに成功しました。
工場はつくば工場で、LED基盤の実装・一体型ベースライト・シーリングライト生産の3ラインがすべて自動化されています。
スタッフは、システム監視のため1ラインに1人だけ配置されており、3ラインで3人という少人数で稼働しています。
床は無人搬送車が走り回っていて、部品のピッキング・組み立て・実負荷試験・梱包までロボットが行う体制が整っている状況です。
また、中国からの建築内装部品の物流倉庫も自動化しており、巨大な倉庫をコンピューター制御された台車が動いて、商品の入出荷を自動管理。
コストを抑えながら大量生産・安定供給が図れる体制を整えています。
ダイセル
化学品メーカーの株式会社ダイセルでは、日立製作所と共同開発した、工場内の異常を検知する画像解析システムを導入しています。
複数のカメラから取得した画像データを分析し、監督者が手首などに装着するウェアラブル端末にアラートを通知する仕組みです。
作業者や機械の動きはAI解析され、異常があれば監督者に通知が行くので、対応がスピーディーに行えます。
人・設備・材料の状態を連続的に監視できるようになったことで、製品の工程内保証率が格段に向上しています。
オムロン
大手電機機器メーカーのオムロン株式会社は、AIの活用によって、熟練検査員の技術を再現することに成功しました。
草津工場では、人の感覚に頼った検査を自動化することで、不良流出ゼロに向けた取り組みを実施しています。
具体的には、検査員が人力で行っていた、部品の有無・マーキング印字・部品の取付状態などの外観検査を、画像処理システム・ロボットを活用して自動化。
多品種少量生産対応に求められていた「熟練したスキル」を要せずとも、安定した品質を担保できるようになっています。
コネクタ内部の端子曲がりにつき、正常判定率を80%から100%に引き上げたり、2時間以上かかっていた調整作業時間を10分に短縮したりと、その違いは明確です。
AIは、検査時間を短縮しつつ、品質の安定化に貢献しているのです。
製造業で実際にAIを導入する際に気を付けたいこと
AIを自社の現場に導入する場合、導入そのものが目的にならないよう気を付けましょう。
一口にAIを導入するといっても、企業や現場によって、以下の通り課題は異なるからです。
AIは確かに有能ですが、人間の方が得意な作業もあるため、決して万能ではありません。
また、AIの精度を高めていくためには、学習データの質も重要になるため、データ収集のノウハウがある人材のレクチャーを受けながら運用を進めていく必要があります。
効果を計測するためには、具体的な数値目標の設定が求められます。
AI導入にあたり、現場で働く社員の意識についても統一しなければなりません。
一つひとつのプロセスを確実に進めていきたいなら、すべてを自力で行うのは限界があります。
自社で実現できそうなこと・難しいことを洗い出し、理想的なAIの設計・導入をサポートしてくれるソリューションを探すことが重要です。
まとめ
製造業に従事する企業の多くは、各社が自力で対応できる状況を超えて、さまざまな課題に直面しています。
状況を改善するためには、AIの導入・運用を積極的に検討することが求められるでしょう。
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