製造業に限らず、日本人や外国人を自社で雇用する際、どの程度の年収を提示するかは重要なポイントです。
やりがい・働きやすさなど、求職者が職場を評価するポイントはたくさんあるものの、年収は低くてもよいと考える人はそれほど多くないはずです。
そこで、外国人の雇用を検討する企業も少なくありませんが、基本的には日本人と同等の給料水準で雇用しなければならないため、外国人を招き入れたからといって安い給与で働いてもらうことはできません。
この記事では、製造業の人材確保に悩んでいる経営者の方・企業担当者の方向けに、製造業の平均的な年収に触れつつ、外国人労働者の適正な年収を決めるためのポイントについても解説します。
製造業全体の年収について
製造業全体を見渡してみると、平均年収が400~500万円にもなると言われている期間工など、一般的には給料が高めの働き方ができるものと考えられています。
しかし、本当のところはどうなのか、気になる方も多いですよね。
まずは、製造業全体の年収について、統計の情報を紐解きつつ、外国人材のケースについてもご紹介します。
統計から紐解く年収
国税庁の「令和3年 民間給与実態統計調査結果」によると、製造業の平均年収は男性が592.8万円、女性が317.1万円、男女合計516.3万円となっています。
給与所得者全体の平均年収は、男性545万円、女性302万円、男女合計443万円なので、平均よりも年収は高めと言えるでしょう。
また、業種別及び給与階級別の総括表を見てみると、製造業の給与の金額帯は幅広いものの、その多くは300~600万円台に集中しています。
具体的には、300万円以下が13.7%、400万円以下が16.8%、500万円以下が16.1%、600万円以下が12.4%と、半数以上を占めている状況です。
なお、日本人労働者の年収を分けるファクターとしては、次のようなものがあげられます。
もちろん一概には言えませんが、
上記の条件を満たす人材は、それだけ年収も高くなるというのが基本的な構図になるでしょう。
外国人労働者の平均月収
厚生労働省の「令和3年賃金構造基本統計調査」によると、日本で働く外国人労働者の平均賃金は22万8,100円となっています。
12ヶ月分を単純計算しても273万円ほどなので、日本人の給与所得者全体の平均給与に比べて低めの水準です。
しかし、専門的・技術的分野(特定技能を除く)の平均賃金は32万6,500円なので、技術・人文知識・国際業務人材に関しては、賃金も高めに設定されているものと考えてよいでしょう。
12ヶ月分では392万円ほどの金額になるため、日本人労働者の年収を超えるケースも出てくるはずです。
ちなみに、特定技能の平均賃金は19万4,900円、技能実習の平均賃金は16万4,100円となっています。
数字だけを見れば、どうやら日本人よりも外国人を雇った方が人的コストは安くなりそうですが、実際の理由は「外国人だから」という理由で片付けられるほど単純ではありません。
製造業も含め、日本人と外国人の年収に差がある理由
先ほど確認した数字上の情報だけを見る限り、経営者の立場としては、
「外国人の方が安い賃金で働いてもらえそうだ」
と期待してしまうかもしれませんね。
しかし、そのイメージには誤解があります。
外国人労働者が日本で働くにあたっては、就労が可能な在留資格を取得しなければなりません。
取得要件は在留資格によって異なりますが、給料に関しては基本的に、
「同等の業務に従事している日本人社員と同等以上の給料を支払う必要がある」
ものと定められています。
よって、外国人であることを理由に、低い給料を設定することはできないのです。
それでは、どうして外国人の年収は、日本人の年収に比べて低いのでしょうか。
以下、その理由について、在留区分別に解説していきます。
技術・人文知識・国際業務(専門的・技術的分野)
在留資格の多くを占める技術・人文知識・国際業務を含んだ、専門的・技術的分野の在留資格は、他の在留資格に比べれば年収は高めの水準にあります。
特に、システムエンジニア・プログラマー・外資系の金融業など、高度なスキル・知識を必要とする業種の給与水準は高くなっています。
ヒューマンリソシアが行った、世界のIT技術者の給与に関する調査によると、IT技術者の年収がもっとも高かった国はスイス、2位はアメリカ合衆国、3位はイスラエルという結果が出ています。
世界ではそれだけ「稼げる仕事」であるという認識があるため、能力の高いIT技術者を自社で雇いたいなら、適切な給与を支払わなければなりません。
ちなみに、日本は世界各国に比べてIT技術者の年収が少ない傾向にあります。
そして、日本は勤労年数に応じて給料が変動する傾向にあり、転職経験に重きを置く外国人材が給料をアップさせるのは、なかなか難しいのが現実です。
特定技能
特定技能制度は、国内人材を確保するのが難しい状況にある産業分野(12分野)において、一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れるための制度です。
制度がスタートしたのが2019年4月であることから、サンプルの数が少なく、働いている年齢層も若いため、年収の低さが目立つ形となっています。
それに加えて、特定技能ビザで働ける年数が、特定技能1号の場合は最高で5年と定められています。
こういった就労制限がかかっていることも、特定技能人材の年収を下げている一因と考えられます。
技能実習
技能実習生の年収は、技術・人文知識・国際業務人材や特定技能人材に比べて低い傾向にあります。
各種報道で、技能実習生がいわゆる「企業の搾取の対象」という形で報道されることもあって、ネガティブなイメージを持っている人も少なくありません。
ただ、母国で働くよりも、日本で働いた方が年収を増やせる国は一定数存在しています。
一例として、ベトナムからやって来る技能実習生は、日本で働いた方がベトナムで働くよりも高い給料がもらえるケースもあります。
そのため、技能実習生の賃金が低いことにつき、一概に悪いものと断じることはできません。
とはいえ、技能実習生を長期的な労働力として見込むのは難しいため、技能実習生に依存した経営は将来に不安を抱える結果を招くでしょう。
製造業求職者に年収面でアピールするポイント
製造業で働きたいと考える求職者に対して、求人情報の中で年収の観点からアピールを試みるには、どのような点に注意すればよいのでしょうか。
以下、年収の設定に関するポイントについてご紹介します。
「年代ごとに設定すべき年収」の相場観を知る
日本人労働者を雇用したい場合は、能力に応じて年収を決めることはもちろんですが、年収(給与)の年代差にも着目して求人の金額を設定するとよいでしょう。
例えば「令和3年賃金構造基本統計調査」の中では、20代前半の賃金は20万円に届いていない状況で、もっとも賃金が高い50代後半でも36万円台です。
もちろん、これはあくまでも統計上の数値なので、企業規模や産業によって年収は変動するはずです。
しかし、年収という観点から差別化を図るのであれば、それぞれの年代の平均的な賃金にプラスアルファした金額を設定することで、他の企業に採用活動で差をつけられるでしょう。
職種別の給与相場を知る
外国人労働者を雇用したい場合は、職種別の給与相場を知っておくと、人材に興味を持ってもらえる年収を提示しやすくなります。
例えば、ソフトウェアエンジニアを雇いたい場合、1年未満の経験者は400万円弱ですが、10年以上の経験者は600万円台後半と、かなり年収に開きがあります。
求人サイト等では、能力に応じて給与を判断する目的で、年収に幅を持たせている求人を見かけます。
しかし、そのようなスタンスだと、逆に求職者に怪しまれる可能性があります。
きちんと相場観を理解した上で、経験に応じた金額を最初から提示できた方が、求職者に対して好印象を与えられるはずです。
語学力も評価する
まだ外国人労働者を雇用していない企業・現場であっても、少子高齢化が進む日本において、外国人労働者を雇う未来は現実のものとなるでしょう。
そこで、語学力を備えた人材のニーズは高まるものと予想されます。
日本人を雇用する上では、英語をはじめとする語学力にフォーカスして、別途評価基準を設けるのがよいでしょう。
逆に、外国人労働者に関しては、日本語能力(N2以上)を持つ人材を優先的に採用できるよう、給与体系や求人情報を見直す必要がありそうです。
外国人労働者の採用において重要な「給料交渉」
外国人労働者は、日本人労働者以上に、給料の根拠や業務内容にこだわる人材が多い傾向にあります。
自社の一辺倒な給与体系を押し付けるだけでは、人は集まらないため、給与交渉にも対応できるようにしておきたいところです。
ジョブ型雇用に対応する
欧米圏をはじめとする海外では、職務内容があらかじめ明確に定義されている「ジョブ型雇用」が一般的です。
職務内容は詳細に定められ、勤務地に関しても具体的に定義される上、業務成果による評価・昇給が基本となります。
企業側としては、業務内容と支払う給与の根拠について明確にしておき、求める役割についても説明できるようにしておくと安心です。
基本的に外国人は、自分のキャリアを自分でマネジメントする意識が高いので、自社に合わせてもらおうと考えて面接に臨むと、失敗する確率が上昇します。
製造業に限らず、日本の総合職の場合、状況に応じて職務が変わることが多く見られます。
しかし、外国人労働者を雇用する際は、そのような働き方は基本的に認められていないものと考えましょう。
例えば、技術・人文知識・国際業務ビザは、取得にあたり勤務上のルールが細かく定められています。
詳しいルールについて知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
⇒在留資格「技術・人文知識・国際業務」とは|要件や申請の流れ・注意点も解説
将来のビジョンを提案する
先に述べたように、自分のキャリアを自分でマネジメントする意識が強い外国人は、いわゆる「この会社で働けば将来安泰」という未来を想像して会社で働くことはありません。
給料も含めた待遇について、かなりシビアに判断することが予想されるので、自社が「働き続ける価値のない会社」だと判断されてしまうと、転職される可能性が高いでしょう。
そこで、外国人労働者を雇用する際は、将来のビジョンを明確にすることが大切です。
自社で働くことにより、その労働者がどんなメリットを得られるのか、キャリアアップの例を説明できるようにしましょう。
具体的には、昇進のモデルケース・昇給のタイミングについて、実際の例を交えつつ説明するのがベターです。
外国人労働者が、自社で働き続ける未来を具体的にイメージできれば、定着率の向上にもつながります。
転職エージェントや人材紹介会社など、外部のサービスも活用する
忙しい企業経営の中で、採用活動にだけ注力するのは、中小企業を中心として現実的な選択肢とは言えません。
製造業全体の年収に配慮しつつ、魅力的な給与設定を考えているなら、企業としては転職エージェント・人材紹介会社を活用する選択肢があります。
外国人労働者に特化した人材紹介会社は、給与の相場観や労働者側の希望を把握しているため、実態に即した金額を提案してくれるでしょう。
また、そもそも人材を自力で集めるのが難しい場合にも、頼れる存在となってくれるはずです。
まとめ
日本における製造業の平均年収は、全体の平均年収よりも高い傾向があります。
具体的には、年代によって300~600万円台に固まっており、学歴や企業規模・就いている役職などによって年収にも違いが見られます。
外国人の場合は、在留資格によって年収にも違いが見られ、特に専門的・技術的分野の人材の年収が高くなっています。
その一方で、日本での就労期間が限られる特定技能ビザ・技能実習ビザに関しては、それほど年収は高くありません。
ただ、どんな人材であっても、年収は転職を決める重要なファクターなので、相場観を理解した上で求人情報に反映させたいところです。
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