新型コロナ感染拡大・生産拠点である新興国の所得上昇など、様々な事情から日本と海外の労働コストは逆転している状況です。
このような事情を受けて、海外の工場を国内に戻す「国内回帰」が進んでいます。
しかし、国内回帰を進めていくうえで、製造業にはいくつかの課題があります。
この記事では、製造業における国内回帰の背景や問題・解決策について解説します。
製造業の「国内回帰」とその背景
いわゆる「製造業の国内回帰」とは、生産の国内回帰のことをいいます。
これまで海外にあった自社の工場を、国内に戻す(回帰する)ことが該当します。
国内回帰が進む背景には、海外に工場等を展開するメリット・デメリットを天秤にかけた結果、デメリットが大きくなったことがあげられます。
以下、製造業が国内回帰を進める背景について解説します。
海外展開のメリットとデメリット
海外展開する日本企業は、主に人件費の問題から、タイや中国などの海外に工場を建てているケースが多く見られました。
同じ人数を雇用するなら、人件費が安い国で生産した方が、費用を安く抑えられるからです。
また、土地代も海外の方が総じて安く、新しい工場を建てやすくなります。
製品の輸送費の観点から考えると、地元生産の方が輸送費は安くなるので、海外に工場を建設した方がいろいろとメリットが大きいわけですね。
海外に生産拠点を置くメリットが大きいうちは、工場等が海外にあった方が有利です。
しかし、海外には日本で考えにくいリスクが数多く存在します。
代表的なリスクの一つがストライキで、海外では日本と比べて頻繁にストライキが行われており、ストライキが「労働者の権利」という意識が強い傾向にあります。
ところが、赤軍など過激派の事件や、公務員のストライキの禁止が法律で定められたことなどが影響して、日本ではストライキに対して強烈な反社会的イメージが刷り込まれてしまいました。
よって、日本では考えられないレベルで、海外はストライキが起こるリスクが高くなっています。
さらに、国政が日本に比べて安定していない国々では、国民の暴動が起こるリスクも考えなければなりません。
冒頭でもお伝えした通り、今なお世界が立ち直り切れているとは言えない「新型コロナウイルス」などの感染症も、工場の稼働を止める大きな理由の一つです。
そのような状況が続けば、海外の工場に任せていた部品・製品の製造が滞り、現地はもちろん日本でも部品・製品の動きが止まり、最終的に生産が進まなくなってしまいます。
このように、海外展開にはリスクもあり、企業はそのメリットだけを享受できるわけではありません。
海外展開を成功させるためには、リスクを十分に理解して、それをマネジメントする必要があります。
海外展開の「うまみ」は減少傾向にある
海外展開は、リスクマネジメントが可能なら継続する、といったように、単純に考えられるものではありません。
日本と海外の情勢を勘案し、海外展開をする意味が失われてしまうなら、国内回帰を検討した方がよいからです。
日本企業が海外展開を進めてきた理由の一つ「人件費の安さ」は、過去の話となりつつあります。
海外各国の所得は上昇傾向にあり、国内生産と国外生産のコストは、大きな差がなくなってきています。
アジアを中心とする新興国では、賃金の上昇とともに購買意欲の向上が期待されています。
つまり、日本人向けの高品質な商品が、アジアで売れる可能性が出てきたわけです。
これまで生産拠点として認識していた新興国が、所得の上昇とともに日本製品を消費してくれるとなれば、海外に拠点を構えるよりも日本で製造した方が、結果的にコストを安くできます。
海外展開のうまみが少なくなった状況では、国内回帰した方が、日本企業にとって利益につながりやすいのです。
日本の所得が変わらないことも背景に
単純に海外各国の所得が上昇するだけなら、日本の所得が同じ水準で上昇していれば、海外展開のメリットは守られるでしょう。
しかし現実を見れば、日本人の所得は大きな上昇傾向を見せることなく推移し続け、そこに円安も追い打ちをかけています。
円安は、日本から海外へ商品を売る上で有利に働くとされますが、海外から部品等を輸入する際の仕入額は高くなります。
日本は自前で原料やエネルギーを調達するのが難しい国のため、材料・エネルギーコストの上昇は避けられません。
ただ、それは同時に海外各国にとってのメリットへとつながっていきます。
海外のバイヤーにとっては、高品質のメイドインジャパン製品を、安く購入できるチャンスが生まれるからです。
この状況が変わらない限り、日本企業は、国内に拠点を移すことで、海外に拠点を持つよりも低リスクで経営改善を試みることができます。
一方で、国内から海外へ売り込みをかけることが求められるので、自社HPの英文対応など、新しい対応に注力することも必要です。
製造業の国内回帰における課題
世界情勢や日本の状況を考慮すると、製造業の国内回帰には十分なメリットがあるものと考えられます。
しかし、実際にそれを実現できるかどうかは別の問題であり、どんな企業でもかんたんに実施できるというわけではありません。
以下、製造業に従事する企業が、工場・拠点を国内回帰する際の課題について解説します。
従業員の確保
これまで海外の工場で働いていた人材に、そのまま日本で働いてもらうのは、法的な問題や従業員の事情を鑑みると現実的ではありません。
となると、日本国内で労働力を確保する必要があります。
しかし、日本国内で製造業従事者を集めるのは、決してかんたんなことではありません。
海外諸国と比較して、日本の少子高齢化は深刻度を増しており、労働人口が減る中で人材を確保するのは非常に大変なことだからです。
エンジニア確保の観点からは、工場の製造ラインの設計技術者(生産技術エンジニア)の不足も問題視されます。
これは、工場の新設が少ない時期、生産技術者が過剰に存在していたことが一因です。
コスト削減のため人員を圧縮した結果、30~40代の生産技術者は、海外工場を転々とするなど日本を離れてしまいました。
日本に見切りをつけて世界各国へ移ったエンジニアを、再び日本に呼び寄せるのは、どんな企業にとっても難しいミッションであると推察されます。
日本で手に入る土地に限りがある
海外で工場を建設するのに比べて、日本で新たに工場を建設するのは大変です。
日本の国土は限られているので、工場用地を探すのは難しいのです。
土地が確保できない状況だと、既存の工場で生産増を目指すことになります。
しかし、先にお伝えした生産技術エンジニア不足などの事情もあり、すぐさま生産ラインを増やすのは厳しいはずです。
仮に、日本で工場を新しく建設できるようになったとしても、時間的・金銭的なコストは大きくなります。
そのため、長いスパンで生産体制を強化することが求められます。
実際に工場の産業用地を開発する場合、
といった形で、数年をかけて開発を進めていかなければなりません。
また、用地そのもののニーズは地域によって異なり、条件が良い用地は人気が高く、なかなか希望通りの用地が手に入らないことも珍しくありません。
逆に、条件面で劣る地域に関しては、用地の余りが出ることになるでしょう。
こういったミスマッチを調整しつつ、自社の都合の良い用地を探して建設するというのは、なかなか骨が折れる仕事です。
工場そのものの「質的向上」の実現
人材不足や用地の問題に加えて、工場を効率的に稼働させる観点からも、課題が山積している企業は多いはずです。
製造業を含むかつての日本企業は、中央集権型の組織において、トップダウンかつ人海戦術によって仕事を進めてきました。
そのため、大規模なビジネスを手掛けるにあたり、多くの人材をマネジメントする能力が、管理職や経営幹部に求められていました。
しかし、AI・IoT技術の進化にともない、工場の内部にも進化が要求されるようになりました。
デジタル技術の進展によって、自動化できるところは機械に任せた方が効率的だというケースが、はっきりと示されるようになってきたのです。
例えば、人間がPC上で日常的に行っている作業を、人間が実行するのと同じ形で自動化するRPA(Robotic Process Automation)など、新しい技術はこれまで人間が取り組んできた仕事をカバーしてくれるようになりました。
他社の工場では新技術を導入できているのに、自社では導入できない状況が続くと、当然ながら作業効率や売上等に差が生じてきます。
工場そのものの質的向上も、新しい工場を立ち上げるにあたり、無視できないファクターとなっているのです。
ただ、本格的に新技術を導入することになると、予算や導入プロセスの面でノウハウを要します。
対策を講じたいが、どこから手をつけてよいのか分からない、というのが、多くの中小企業の経営者の本音ではないでしょうか。
国内回帰を実現するための解決策
国内回帰に向けた動きは、大手企業を中心に進んでいるものの、中小企業が海外の拠点を手放すことは重要な決断です。
いきなり全面的に国内回帰を進めるのは厳しくなるため、順次課題解決に向けた取り組みを進めていく必要があります。
まずは「現時点」でできることを始める
国内回帰を進めるにあたっては、日本が労働力不足である現実を受け入れた上で、対策を講じなければなりません。
特に、人員不足の課題を解消することは、国内回帰後の安定した生産体制を構築する上で欠かせません。
とはいえ、いきなり優秀な人材がやってくることはないものと考えて、まずは今いる人員でやれることに取り組むのが基本戦略となるでしょう。
例えば、現在は2人で行っている作業につき、1人の人員で仕事を回せるようになったら、それだけでも業務の効率性はより高まります。
新しい設備の導入を前提とせずに、社内・工場内の業務効率化を実現するのは決して楽ではありませんが、以下のことを実現するだけでも業務効率化につながります。
現在の環境で業務効率化を進め、そこからさらなる効率化を目指す段階に進んだことを確認してから、次のステップを検討していきましょう。
スマートファクトリー化を進める
スマートファクトリーとは、工場内の様々な機器・設備・スタッフの作業データを収集し、分析・活用して新たな付加価値を生み出せるようにする工場のことです。
日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、中国・アメリカなど主要10ヶ国の中で、日本のスマートファクトリー市場規模は2位というデータが公表されています。
生産設備とAI・IoTを常時ネットワークに接続することで、工場内のデータが収集されます。
蓄積されたデータをもとに、設備を最適化することで、作業効率の向上が見込めます。
エネルギーの利用状況を見える化することで、コスト削減につながるだけでなく、作業自動化によって人的ミスを減らすことが期待できます。
設備導入前の段階で、従業員の作業効率化に対する意識が高まっていれば、休暇や病欠といった問題にも対処しやすくなるでしょう。
ある程度業務の自動化が進めば、少ない人数で工場を稼働させられます。
自社の工場にフィットした生産性向上を実現するためには、FA(Factory Automation)の概念が重要です。
中小企業の場合、大規模かつ全自動のシステム導入を検討しなくとも、省人化を実現できる可能性は十分あります。
技能承継を効率化する
生産拠点を国内に移す場合、工場稼働において大きな問題となるのが技能承継です。
海外で働く従業員を解雇してしまうと、これまで現地で培ってきた技術が失われてしまうおそれがあります。
かといって、海外の工場にいる技術者・ベテラン従業員は、なかなか日本に呼び寄せるのも難しいでしょう。
そこで、作業手順をAIに学習させて日本の工場で稼働できるようにしたり、高度なスキルを動画で撮影してデータとして残したりして、技能承継を効率化していくことをおすすめします。
逆転の発想で、AIの動きを人間が学び、要点をまとめてマニュアル化する方法もあります。
いずれの方法でも、海外人材の技能をそのまま日本に持ち帰れるような仕組みを作ることが、国内回帰における自社の武器となるでしょう。
まとめ
国際情勢次第で変化が生じる可能性はあるものの、製造業の国内回帰は止められない流れになるものと推察されます。
しかし、すべての工場が、必要な対策をすべて講じられるわけではありません。
特に、労働力確保とシステム導入は、企業の体力によってとれる手段が限られてきます。
そこで、国内回帰の動きに対応できるかどうか不安な経営者の方・企業担当者の方は、
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