製造業を含む多くの職場では、国内における人材確保の困難さから、技能実習生など外国人を雇用することに前向きな姿勢を示す企業が増えてきています。
ただ、技能実習生に給与をいくら支払えばよいのか、その相場観について具体的な金額がよく分からないケースも少なくありません。
また、特定技能人材を雇用する場合は、技能実習生以上の給与を支払うことが予想されるため、任せたい実務の内容と合わせて比較検討が必要です。
この記事では、技能実習生の給与・相場について、特定技能との違いに触れつつ解説します。
技能実習生の給与について
厚生労働省の「令和3年賃金構造基本統計調査の概況」によると、技能実習生の平均賃金は164,100円となっていて、相場観としては、概ね高卒者の初任給と同じくらいの金額と考えてよいでしょう。
この金額を高いと感じるか、安いと感じるかは企業の判断となりますが、今後も同水準で推移するかどうかは未知数と言えるでしょう。
技能実習生の平均賃金は上昇傾向にある
令和元年~3年までの賃金構造基本統計調査において、技能実習生の平均賃金は、以下の通り上昇傾向にあります。
技能実習生の平均賃金が、今後も上昇傾向を続ける可能性は十分ありますから、企業としてはこの傾向をどうとらえるかが重要になってくるでしょう。
最低賃金も上昇し続けている
技能実習生を雇用する際は、最低賃金法などの法令に抵触しないよう、最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。
その最低賃金に関しても、全国的に上昇が続いている状況です。
最低賃金の全国平均は、2002年度は時給663円でしたが、年々上昇して2021年度には930円になりました。
2022年度はさらに31円上がって961円となり、2002年度と比較しておよそ300円以上、最低賃金が上昇している計算です。
この「300円」という金額差について、仮に1日8時間労働・22日勤務を想定して計算すると、
300円×8時間×22日=52,800円
と計算でき、20年弱で1人あたりの賃金はかなり高額になっていることが分かります。
また、最低賃金には以下の2種類があり、いずれか高い方の最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないルールとなっています。
最低賃金に関するルールそのものは、他の各種法令に比べて決して複雑ではありませんが、技能実習生の給与を計算するにあたっては、間違いのないよう注意したいところです。
万一、外国人労働者に対して低賃金を設定してしまうと、そのような企業は受入機関の許可が取り消される可能性があり、将来5年間は技能実習生の受入れが禁止されるおそれがあります。
最低賃金で技能実習生は集まるのか?
最低賃金以上の給与を提示することは当然としても、そもそも技能実習生がその働き方に魅力を感じているのかどうか、経営者や企業担当者にとって気になるところですよね。
実際、技能実習生の半数を占める最大の派遣国ベトナムに目を向けてみると、新たな実習希望者は減少している状況です。
2022年7月以降、実習1年目の在留資格で入国するベトナム人が、新型コロナウイルス流行前の2019年の同時期に比べて6割に減少しています。
この現実は、技能実習生の雇用を検討している企業にとって、非常に厳しいものと言えるでしょう。
日本国内でも、しばしば技能実習生の過酷な労働環境はニュース等で紹介されていますから、致し方ない一面はあるのかもしれません。
また、世界情勢の観点からは、円安傾向・ベトナムの経済発展などの事情から、ベトナム人の日本に対する魅力が薄らいでいることも無視できません。
このような状況で、技能実習生を集めようと試みるのであれば、やはり相応の給与を提示する必要があるものと考えられます。
その他、東南アジア諸国との所得格差が徐々になくなってきている状況や、韓国の外国人雇用許可制が国内外から高い評価を受けていることなども、技能実習生候補者にとって魅力的な環境の増加につながっています。
日本企業が、これまでのように技能実習生候補者を招致することは、今後も難化していくものと予想されます。
割増賃金や賞与の必要性
技能実習生に対する給与の支払いに関しては、割増賃金や賞与の必要性についても気に留めておきたいところです。
まず、割増賃金に関してですが、技能実習生は日本の労働者と同様に雇用契約を結んでいるため、労働基準法が適用されます。
つまり、労働基準法で定められている割増賃金が発生する労働環境であれば、割増賃金を以下のルールに従って支払わなければなりません。
次に賞与についてですが、技能実習生に賞与を支払うかどうかは、実際のところ特に義務とはされていません。
よって、賞与を支払うかどうかは、あくまでも受入企業の判断となるわけですが、実質的に賞与または何らかのインセンティブは用意すべきものと考えた方が賢明です。
努力・頑張りに対する正当な評価は、技能実習生のモチベーションアップにつながることが期待できます。
ベトナム人も含む外国人が、日本に魅力を感じにくい状況では、やはり報酬またはサポート体制を手厚くするなどの対応が必要になってくるでしょう。
その他、給与支払いで注意したい点について
法務省入国管理局の「技能実習生の入国・在留管理に関する指針」では、技能実習生に支払う賃金について、以下のように定めています。
また、年次有給休暇のルールに関しても、労働基準法で定められているルールが適用されます。
6ヶ月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した技能実習生には、以下の通り年次有給休暇が与えられます。
その他、技能実習生の受入れについて詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
⇒技能実習生とは|外国人技能実習制度のあらましや要件・受入れ方法等を解説
特定技能人材に支払う給与についてはどうか
技能実習生と並んで、外国人材を雇用する上で注目されている在留資格が「特定技能」です。
特定技能人材は、技能実習生に比べると、給与の面でどのような違いがあるのでしょうか。
以下、詳細を解説します。
特定技能人材の平均賃金について
厚生労働省の「令和3年賃金構造基本統計調査の概況」によると、特定技能の平均賃金は194,900円となっています。
一概には言えませんが、相場観としては「高卒の初任給よりは高く、高専卒の初任給よりは低め」といった金額になるでしょう。
特定技能は将来が期待される在留資格
特定技能の在留資格は、2019年4月に導入された新しい在留資格です。
そのため、賃金構造基本統計調査の概況においても、令和2年度・令和3年度のデータしか確認できません。
ただ、令和2年度における特定技能の平均賃金は174,600円と、技能実習生に比べて12,900円も多くなっています。
令和3年度は、特定技能と技能実習生との間に30,800円の差がついているため、今後もその差が広がる可能性は十分あります。
なぜ、特定技能の在留資格は、技能実習生に比べて平均賃金が高いのでしょうか。
理由は複数存在しますが、もっとも大きい部分は「労働力としての期待度が高い」部分だと推察されます。
技能実習生は、基本的に母国に日本の技術を持ち帰る目的で来日し、所定の期間が過ぎれば帰国することになります。
日本では、実質的に労働力確保の手段の一つとなっていますが、制度上は「開発途上国の経済発展」に協力することが目的であり、長期にわたって雇用するのが難しい制度と言えます。
これに対して特定技能は、特定の技能・知識を持つ外国人材を「即戦力として雇うため」の在留資格として創設された背景があります。
2023年2月現在、特定技能1号の在留可能期間は通算5年と定められていますが、特定技能2号は在留期間の無期限更新が可能となっていますし、将来的には特定技能2号の業種拡大が期待されています。
賃金支払いのルールについて
特定技能人材に関しても、日本の労働基準法上のルールが適用されますから、最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。
また、特定技能制度において、特定技能人材の給与は日本人と同等以上の給与水準であることが求められるため、同業務に従事する自社の日本人従業員と同等、あるいはそれ以上の給料を設定する必要があります。
もちろん、割増賃金や有給休暇についても、労働基準法にもとづいて与えなければなりません。
特定技能人材が一時帰国する場合は、有給または無給で休暇がとれるよう配慮することも大切です。
「日本人と同等以上の職務レベル」の給与をどう判断するか
特定技能の給与を決める場合、業種全体の基準となる相場があるわけではなく、あくまでも自社における給与水準が問題となります。
よって、基本的には就業規則の給与規程をベースに、金額を検討することになるでしょう。
給与規程がある場合
自社に給与規程があり、日本人労働者の給与が規定に沿って定められているなら、特定技能人材の給与に関しても給与規程に沿って決めて問題ありません。
給与規程の中から、特定技能人材の条件と合致する規定を確認し、その通りに給与を決定する形です。
悩むのは年齢についてですが、自社で年齢と給与に関する規定を設けていない場合は、特に考慮する必要はありません。
あくまでも、人材の条件と規定とを照らし合わせて、給与を決定することを意識しましょう。
給与規程がない場合
給与規程が自社にない場合は、日本人労働者を比較対象として、役職・職務内容・責任の程度を特定技能人材と比較することになります。
モデルケースが明快なら、そのスタッフと同等以上の給与であれば問題ないものと考えてよいでしょう。
仮に、比較対象となる日本人労働者がいない場合は、もっとも近い職務に従事する日本人労働者につき、その役職・職務内容・責任の程度について把握しておきます。
その上で、申請予定の特定技能人材との差について、合理的な説明ができるようにしましょう。
技能実習から移行する場合の給与設定はどうする?
特定技能の在留資格は、技能実習とまったく無関係というわけではありません。
技能実習2号となった人材は、以下の条件を満たしていれば、特定技能1号に移行できるからです。
技能実習2号で習得する技能レベルは、特定技能1号を取得するために求められる「特定技能評価試験」で合格するのに必要な技能レベルに匹敵します。
そのため、実質的に移行者の給与は、実務経験3年の日本人労働者の給与と比較することになります。
その他の注意点について
特定技能人材の給与からは、以下のものが控除されます。
給与控除という概念は、特定技能人材に限らず、外国人材によってはなじみが薄いものです。
そのため、法的に問題のない給与明細を手渡しても、そこからトラブルに発展する可能性は十分考えられます。
トラブルを未然に防ぐためにも、事前に説明を行った上で、給与明細に母国語の解説を入れるなどして理解を促すことが大切です。
ちなみに、給与控除に関しては、技能実習生のケースでも同様のため注意しましょう。
まとめ
以上、技能実習生の給与や相場観について、特定技能のケースと比較して解説しました。
それぞれの在留資格には似たような部分はあるものの、即戦力となれる人材ということもあって、総じて給与は特定技能の方が高めです。
ただ、自社で末永く働いてもらおうと考えているのであれば、給料の水準が安いからといって技能実習生に頼るのはリスキーと言えるでしょう。
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