コラム・取材

ファクトリーラボ株式会社の代表

山本 陽平

公開日

June 2, 2023

更新日

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技能実習制度が廃止!外国人受入は今後どうなる!?特定技能に一本化!? 

目次

「外国人技能実習生制度の廃止」連日ニュースではこのようなタイトルでさまざまな問題を抱える技能実習制度について報道されており、技能実習生を雇用している企業や技能実習生関係者の関心を集めています。

そのような中、先月5月11日、技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議による、中間報告書が法務大臣に提出されました。

今回はこの中間報告書から技能実習制度が今後どのように変わっていくのか、現在までに決定した今後の方向性などについて解説していきたいと思います。

 1.中間報告書の概要

中間報告書たたき台(概要)
  引用元:中間報告書(出入国管理庁) 

まず初めに、冒頭で述べたように、ニュース等では「技能実習生制度の廃止」などの見出しで報道されており注目を集めていますが、技能実習生制度が現在実施している東南アジアなどからの外国人材を日本の企業に受入れる制度自体が全て廃止になるわけではありません。

現在検討されているのは、技能実習制度を現状の実態に合わせて問題点などを改善し、技能実習制度に代わる「新たな制度」として外国人材の受入れを行うというものです

今回の中間報告書では、主に6つの論点について検討事項であるとされています。

それでは1つずつ解説していきます。

1-1.制度の目的

みなさんは技能実習制度の基本理念をご存知でしょうか。

技能実習制度は労働力として、外国人材の受け入れを行うという制度と思われている方も多くいるかと思いますが、実は技能実習は開発途上国への技術移転・人材の育成を目的とした「国際貢献」というのが本来の理念になります

技能実習の基本理念
技能実習制度は、技能実習制度は、我が国で培われた技能、技術又は知識の開発途上地域等への移転を図り。当該開発途上地域等経済発展を担う「人づくり」に寄与することを目的として創設された制度です。
技能実習法には、技能実習制度が、このような国際協力という制度の趣旨・目的に反して、国内の人手不足を補う安価な労働力の確保等として使われることのないよう、基本理念として、技能実習は、
①技能等の適正な修得、習熟又は熟達のために整備され、かつ、技能実習生が技能実習に専念出来るようにその保護を図る体制が確立された環境で行われなければならないこと。
②労働力の需給の調整の手段として行われてはならないこと。

引用元:外国人技能実習機構

技能実習制度に代わる新たな制度では、引き続き「人材育成」としての側面は残しつつ、「労働力の確保」も目的に追加する方針です。技能実習は実習生を「労働力」とすることを否定していたため、就労に様々な制約がありました。

例えば、企業の実習生受入人数の制限、夜勤労働の制限、残業時間の制限などです。

他方で、2019年より「人材確保」を目的に新たに導入された在留資格「特定技能1号」「特定技能2号」ではこのような制約はありません。

技能実習制度に代わる「新たな制度」ではこのような制約や制限が特定技能同様に撤廃されることも考えられます。

1-2.特定技能制度との職種の統一

特定技能の在留資格取得者の大半は同じ職種で、元々技能実習の在留資格を取得していた実習満了者が大半ですが、現在特定技能で認められている職種と技能実習で認められている職種が同じではないため一部の職種で技能実習終了後、特定技能に在留資格を切り替えることができないという問題点があります。

縫製業、家具製作、印刷、製本、紙器・段ボール箱製造、陶磁器工業製品製造、リネンサプライ、コンクリート製品製造、ゴム製造といった職種では技能実習制度の対象職種ではありますが、特定技能の対象職種としては認められておりません。これらの職種で技能実習をしていた外国人材は特定技能に切り替えて引き続き日本で就労を希望する場合、他の職種の特定技能試験を受験し、職種を変えて特定技能資格を取得せざるをえないのが現状です。(参考元:出入国在留管理庁/特定技能ガイドブック

こうした技能実習と特定技能の職種の齟齬は、製造業が特に顕著です。製造業の特定技能では経済産業省が産業分類によって受入基準を設けており、その産業分類に当てはまらない場合、特定技能として雇用することが出来ません。上記に記載した業種の他、製缶業、建築資材製造業、B to C向けの製品のみを製造している製造業では、経産省の定める標準産業分類に当てはまらない可能性が高いため、外国人を技能実習として受け入れることが出来ても、特定技能では受入が出来ない業種となっております。(関連記事:【特定技能】製造業(製造3分野)の協議会とは|概要・入会手続き等を解説

一方、飲食料品製造業のように技能実習では受け入れ期間に制限のあった業種に置いて、特定技能から長期での受け入れが認められるという業種も存在します。

飲食料品製造業分野における特定技能外国人受入れの制度について

たとえば技能実習では1年間のみの受け入れしか認められていなかった業種(めん類製造業、冷凍調理食品製造、菓子製造、清涼飲料製造 等)に対しても、特定技能の受入が認められるようになりました。

このような業種によって受け入れられる職種が一本化されていない原因として、それぞれの制度を管轄する官庁が異なるという点があげられます。技能実習制度では、外国人技能実習機構と厚生労働省が全業種において一括して管轄しているのに対し、特定技能は、各業種の省庁が管轄しており、これが要因となって各省庁が独自の基準を設定するなど、技能実習と特定技能の受入の業種や職種の不一致を生じてさせています

技能実習に代わる「新たな制度」では、「特定技能の職種に合わせる」といった方針が記されており、製造業のように特定技能の受入要件が厳しい業界がこれに従った場合、「新たな制度」においても受入可能な職種が狭まる可能性があります

1-3.受入見込数の設定

特定技能では技能実習とは違い1企業当たりの特定技能外国人の受入人数に制限はありません(建設業を除く)が、各業界においてその業界全体での特定技能外国人の人数に制限が設けられております。2019年から特定技能が始まり特定技能は年々増加傾向にあるため、製造業や飲食料品製造業など一部の業種では当初設定していた受入人数の上限に達したため、この上限の引き上げがおこなわれました。

こうした各業種における全体の受入人数の設定プロセスは不透明であるため、この透明化を図るという方針も今回の中間報告に記載されています。

1-4.転籍

「新たな制度」において、企業における人材育成の観点から一定期間の企業への在籍が必要であるとして、転籍に関してもある程度の制限を残す一方で、外国人労働者の保護の観点から従来の技能実習制度よりも緩和する方針とされています。

技能実習生はその転籍の困難さから失踪に繋がるケースが多くありました。(参考記事:外国人が失踪するならどこ?技能実習生など人材をつなぎとめる方法)転籍の要件を緩和して、外国人労働者を保護し、失踪を減らす狙いがあると思われます。

1-5.管理監督・支援体制

従来の技能実習制度における技能実習の適切な運用の監査を行う「監理団体」、技能実習生受け入れの認可や監理団体・受け入れ企業の監督処分を行う「外国人技能実習機構」、そして特定技能制度の運用の支援を行う「登録支援機関」などは存続させ、管理・支援能力の向上を図る方針です。「新たな制度」に変更となったとしても、監理団体、外国人技能実習機構、海外現地で人材教育や申請を行う送り出し機関の大きな枠組みは変わらないようです。

監理団体やと登録支援機関についての詳細はこちらの記事にご参考ください。

【特定技能人材の雇用】登録支援機関の役割や選び方のポイント5つを解説!

(参考URL: 技能実習生の送り出し機関一覧特定技能の送り出し機関

技能実習生制度では海外現地の送り出し機関と提携することが必須でしたが、特定技能においてもほとんどの国では、海外から呼び寄せる場合に、送り出し機関を利用する必要がある一方、インドネシアなど送り出し機関を利用せずに呼び寄せることが可能な国もあります。

中間報告書では、「悪質な送出し機関の排除の強化」と記載されておりますが、実際に技能実習生を騙す送り出し機関も存在しております。技能実習生から決められた手数料以外の法外な手数料を徴収する、必須とされる日本語教育を十分に行なっていない、求人内容を偽って人材を募集するなど悪質な送り出し機関も過去に報告されています。

外国人労働者の保護の観点からこうした悪質な送り出し機関の取り締まりは強化される方針です。

1-6.日本語能力向上に向けた取り組み

現在、技能実習制度において在留資格取得にあたり日本語能力の要件は特段求められておりませんが、今回の「新たな制度」においては一定の要件を設ける方針です。

特定技能においては日本語能力の要件はJLPTの「N4」かJFT-Basicの「A2」(技能実習2号修了者は免除)となっております。(参考記事:在留資格・特定技能1号取得に必要な技能試験・日本語試験について解説)、

一方、技能実習制度では多くの場合、技能実習生としての日本企業への受入が決まった後に現地の日本語学校で4~8ヶ月間程度の日本語教育が行われた後に来日して、実習が開始されます。来日したばかりの技能実習生の日本語能力は、N5~N4相当が一般的で簡単な挨拶や日常会話ができる人材がいる一方、日本語を聞く・話すということがまったくできないといったケースもあります。

「新たな制度」において日本語能力が要件となった場合、JLPT「N5」やJFT-Basic「A1」などの資格取得が要件となることも考えられます

1-7.技能実習制度の今後の方針

「国際貢献」を目的とした技能実習制度は先に述べたように、現状と目的が乖離していることから廃止になる予定ですが、技能実習制度のような海外人材で日本企業で就労することが未経験の人材を受入れ、育成する制度は残存する方針です。

しかし一方で「新たな制度」は「人材確保」が目的となるため、現行の特定技能の制度運用により近くなると考えられます。

この「新たな制度」に関する最終報告書は2023年の秋ごろに提出される予定で、その後最終決定が下されることになります。

まとめ

今回の中間報告書で報告された内容から技能実習制度に代わる「新たな制度」はその内容の大半は現行の「技能実習制度」と大きくは変わらないように思われます。

そのため、「新たな制度」で未経験の人材を教育していくことを前提に受け入れるのか、「特定技能」で日本語能力やスキルを持った人材を採用するのか企業ごとに自社に合った制度を活用していくという従来と似た流れになると思いますが、今までと大きく異なる点として、「新たな制度」においては「技能実習制度」で基本的に認められなかった転籍が緩和されるということで、人材の流動性が高まることが予想されるため、受け入れを行う企業は「人材の確保」と「人材の定着」のための施策を企業ごとに実施していくこと課題となります。

私たちFactory labではそうした「人材の確保」と「人材の定着」に課題をお持ちの企業様に特定技能外国人や外国人エンジニアのご紹介、人材の定着支援等をおこなっております。人材の採用にお悩みの企業様は、是非一度、Factory labにご相談ください。

ファクトリーラボ株式会社の代表

代表取締役社長

山本 陽平

1990年東京生まれ。2013年上智大学総合人間科学部卒業後、東証1部上場の資産運用会社に入社しコーポレート部門に配属。2017年、外国人採用支援及び技能実習生の推進をしているスタートアップに参画。事業部長として特定技能、技能実習、技術・人文知識・国際業務の人材紹介や派遣事業の展開及び支援を取り仕切る。人的な課題、採用や定着に大きなペインを抱えた製造業に着目し、一貫したソリューションを提供することを目的として2022年にファクトリーラボを設立し代表に就任。