少子高齢化が加速する日本では、今後ますます人材の確保が大きな社会問題になっていきます。政府は日本人の人手不足に対応するため、特に人材の確保が困難である、12分野への外国人労働者の受入制度を定めました。それが、「特定技能」です。
「特定技能」は、各分野における実技試験や日本語能力の要件に満たしている外国人人材が就労することが可能です。
本記事では、人手不足に悩まれる建設業の企業様向けに特定技能の制度や受入要件、技能実習生との違いを説明して参ります。
【建設業の人手不足の原因と対策】
ある民間調査会社の調べによると、2025年には、建設業の労働人口が約90万人不足すると予測がされております。更に2023年4月末に公表された有効求人倍率では建設業の有効求人倍率は5.16倍となっており、1人の求職者に対し、約6社が求人している状態です。全職業での有効求人倍率は、1.22倍であるため、建設業の人材確保は、困難な状態です。
建設業になかなか人材が集まりにくい背景には以下のような理由が挙げられます。
- 長時間の肉体労働であること
- 天候不良による現場休業による収入が不安定になること
- 現場での「職人気質」な指導方法
上記のような就労環境や指導方法から日本人の若者の採用が困難な状況となっております。建設業界に限らず人材の採用難はあり、業界によっては機械による省人化の導入など対応策がとられていますが、普及にはまだ時間を要する点や建設業など業種によっては機械の導入で対応できないなどの問題点があり、そうした企業の人手不足の対策に「特定技能外国人」の活用が注目されています。
【特定技能とは】
「特定技能」とは、日本人の労働力の確保が著しく困難な産業・分野において、人手不足の解消として外国人を受入れるために2019年4月に創設された在留資格です。これまで日本では「技能実習生」が、「技術実習による国際貢献」の名目の下、人手不足の解消の手段として活用されておりました。
しかし、技能実習制度は業務範囲の制限や最長5年の就労制限があり、人手不足の対策には不十分あると同時に、「国際貢献」の名目と「企業の労働力不足の解消」の実態が乖離していることから「特定技能」が創設されました。
「特定技能」では技能実習を終えた人材が在留資格を変更することで引き続き日本で就労することが可能で、建設業界でも多くの技能実習修了者が「特定技能」に移行し、活躍しております。
2022年12月末時点で建設業界では12,768人の特定技能外国人が就労しており、在留者数は年々増加しております。
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建設業での特定技能人材の雇用方法については、下記の順序で説明致します。
【特定技能外国人に従事させられる業務範囲について】
特定技能の作業範囲は、当初は技能実習と同様に「職種毎」に制限をされておりましたが、2022年8月30日に改正により、職種による制限がなくなり、業務範囲が拡大しました。
「3区分内での工事業での業務の従事」となり、技能実習時代の職種にこだわらず、様々な業務に従事させることが可能です。以下が区分と工事業の関連表となります。
区分と工事業の関連は建設業許可の種類に対応しておりますので、ご参考ください。
詳細:業務区分の統合に係る関係資料【特定技能制度(建設分野)】
【人材が「特定技能」を取得するための要件とは】
どのような人材が建設の特定技能の要件を満たすのかを説明致します。
1.建設業での3年以上の技能実習修了者
下記の職種の技能実習修了者が特定技能の要件を満たします。
特定技能では、職種の制限がなくなりますので、例えば「とび」の技能実習経修了者を「型枠」の業務に従事させることも可能です。
ただし特定技能外国人と企業間での雇用契約書上には業務範囲を明確にして、その範囲内で業務を行わせる必要があります。また、彼らの報酬に関して、同等の技能を有する日本人と同等以上の報酬を設定する必要がありますので、その点もご注意ください。
2.技能実習修了者以外の場合
技能実習の満了者以外の外国人の場合、建設分野特定技能評価試験と日本語能力試験に合格すれば、「特定技能」として就労が可能です。
1.建設分野特定技能評価試験の合格
建設分野特定技能評価試験とは、特定技能の要件を満たすために、業界の一定の知識や技術を測定する試験になります。一般社団法人建設技能人材機構(JAC)が、国土交通省が定めた「建設分野特定技能評価試験に実施要領」に従い、試験の実施や学習用テキストの公開をしております。試験範囲は「土木」「建築」「ライフライン・設備」の3区分で分かれております。
2.日本語能力試験の合格
日本語能力試験では以下のいずれかの日本語能力試験に合格する必要があります。
特定技能の試験についてさらに知りたい方はこちらの記事も併せてご参照ください。
▶在留資格・特定技能1号取得に必要な技能試験・日本語試験について解説
【特定技能人材の採用ルート】
特定技能では「技能実習修了者」と「試験合格者」の2つの人材を雇用することが可能で、採用ルートは以下の5通りになります。
以下、技能実習生と特定技能外国人の面接から入社まで必要な期間、それぞれの人材の大体の日本語力、業務に関する技術力の比較表になります。
これまで技能実習生のみ採用していた企業様は、是非、特定技能での雇用をご検討ください。
【特定技能人材を雇用するための要件とは】
次に企業が特定技能を雇用するための要件について説明致します。
国土交通省が定める独自の要件と法務省が定める全業種共通の要件を満たす必要があります。
1.国土交通省が定める建設業独自の受入要件
建設業独自の受入要件のポイントは以下の6点です。
①建設業の許可証
建設業の許可証の取得が必須となります。
②キャリアアップシステムの登録
企業と人材のキャリアアップシステムの登録が必須です。(人材は雇用後に登録でも可)
③常勤職員数以下の受入れ制限
技能実習生、特定技能外国人を除く、常勤職員の人数以下に制限されます。
④月給制
異業種によっては特定技能外国人と時給や日給で雇用可能ですが、建設業においては月給制にすることが必須となっております。
⑤同一の技能を有する日本人と同等額以上の賃金の支払い
同一労働同一賃金の観点から特定技能外国人の給与は同じ技能を有する日本人と同等以上にする必要があります。
⑥一般社団法人建設技能人材機構(JAC)への加入
建設人材機構の正会員団体の会員または賛助会員となることが必須です。賛助会員の場合、年会費は24万円となっております。また特定技能人材受入後、人材1名ごとに受入負担金」の費用をJACに支払う必要があります。
2.法務省が定める全業種共通の受入れ要件
特定技能の全業種共通の受入れ要件は法務省が定めており、こちらの要件も満たす必要があります。主な受入要件は、特定技能人材に対する支援体制の確立と実施、法令順守、出入国管理庁への定期的な報告となっております。
こうした要件の該当する事項に関しては、登録支援機関に一部もしくは全部を委託することが可能となっております。
詳細につきましてはこちらの記事をご参照ください。
【雇用後のFITSへの対応】
建設業では、特定技能雇用後に「FITS(国際建設技能振興機構)」という機関が企業に直接、講習の案内や巡回訪問等を行いますので、FITSへの対応が必要となります。
FITSの主な活動目的は以下の通りです。
【建設業で特定技能2号になるためには】
建設業では他の分野に先駆けて「特定技能2号」の試験内容が公表されておりますので、特定技能1号と比較を踏まえてご紹介致します。
建設業の特定技能2号では、班長としての実務経験と技能検定1級相当の試験の合格の2つが求められます。
以下が、建設業の特定技能1号と2号の比較表です。
【まとめ】
今回、建設業における「特定技能」に関しまして、技能実習制度との比較からお話ししてまいりました。特定技能外国人は一定のスキルと日本語力を身につけおり、多くは日本での就労経験のある人材のため、即戦力として活用が期待できる一方で他企業に転職をすることが一部制限はありますが、可能であり人材を採用後には人材が自社に定着をしていくための支援を継続的に行なっていく必要があります。
建設業界の企業様で「外国人人材の採用をご検討している」「採用後の支援や定着にお悩みや不安がある」など、一度Factory Labにご相談ください。