外国人支援

ファクトリーラボ株式会社の代表

山本 陽平

公開日

July 3, 2023

更新日

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外国人支援コーディネーターとは|国家資格化の可能性や入管庁の意図も解説

目次

日本に在留する外国人の数は増加傾向にあり、2022年6月末には2,962,000人と、1991年末の1,219,000人に比べて倍以上増加しています。それに伴い、外国人労働者・外国人雇用事業者の数も増えており、中小企業等が人手不足を解消するための手段として、外国人材の重要性は高まっています。

しかし、国や地方公共団体の外国人に対する支援体制は十分とは言えず、外国人材の多くは「教育・子育てなどで困ったときの相談先がよく分からない」と訴えている状況です。

この記事では、そのような背景から生まれた「外国人支援コーディネーター(仮称)」の認証制度について、概要や入管庁の意図、国家資格化の可能性など幅広い観点から解説します。

外国人支援コーディネーターとは

入管庁(出入国在留管理庁)は、日本で暮らす外国人の定住志向の高まりを受けて、外国人が定住しやすい環境づくりを急いでいます。

外国人支援コーディネーターの認証制度も、そのような事情から創設に向けた準備が進んでいます。

在日外国人の生活相談専門家

外国人支援コーディネーターの役割について、入管庁は、外国人の生活を総合的に支援する「生活相談の専門家」と位置付けています。社会保険や子どもの教育等に関する手続きや、それに伴う悩みについて、行政側との調整をまとめて担える人材を育成・配置するねらいがあります。

長期滞在を希望する外国人にとって壁になるのは、大きく「日本語教育」と「生活面での悩み」とされます。日本人の多くが英語でのコミュニケーションを苦手とするように、外国人もまた日本語を十分に話せないというケースも多く見られます。

このうち、日本語教育に関しては、国としても中級程度の習熟度を目標に体制を整える方針で、2023年5月には日本語講師の国家資格化に関する法律が成立しています。 (参照元:“日本語教師を国家資格にする” 法律が成立 在留外国人増加で

しかし、子育て・医療といった生活面での支援は、一朝一夕で対応できるものではなく、専門的な知識・経験を持つ人材も不足している状況です。

そこで、国は研修の修了者を「外国人支援コーディネーター」として認証する仕組みをつくり、一定の時間をかけて人材を育成する方針を定めました。

外国人支援コーディネーターの養成イメージ

外国人支援コーディネーターは、講義→実践→研修というプロセスを経て、最終的に認証されます。

入管庁の検討会の資料によると、養成研修の全体像は次のような流れとなっています。

プロセス詳細
養成課程①
※(2ヶ月間)
○基本的知識、技術に関する講義
※(オンラインで64時間のオンデマンド方式)
○講義修了後は確認テストを実施
※(合格者は、次のステップで取り組むべき課題を与えられる)
実践
※(3ヶ月間)
受講者の就業先で、養成課程①で出された課題に取り組む
養成課程②
※(2日間)
○事例の検討を行う
※(グループ討議も含まれる)
○修了認定テストも実施
修了認定
○認証更新研修は3年ごと
○指導者用研修や国家試験化が検討されている

なお、研修の総人数は、令和8年(2026年)までで800人が予定されています。

外国人支援コーディネーターを置く入管庁の意図

日本における外国人のサポート体制は、決して十分なものとは言えず、生活がままならないと感じている外国人も少なくありません。

以下、入管庁が新たに外国人支援コーディネーターを設置した意図について、主なものをご紹介します。

日本社会における外国人材の包摂

国内の在留外国人数だけでなく、外国人労働者の数も増加傾向にあります。

少子高齢化が深刻な日本にとって、外国人材は日本の未来を支える重要な労働力となるでしょう。

外国人材が、日本で安全・安心に暮らせるようにするためには、外国人を「日本社会の一員としてつつみ込む(包摂する)」仕組みづくりが重要です。

外国人は、それぞれ母国で育まれた価値観・慣習を持っているため、国は様々な背景を持つ外国人が社会に参画できる体制を構築する必要があります。

しかし、外国人を「日本人と全く同じ」ように扱うことは、現実的な方法ではありません。

日本人・外国人が、ともに個人の尊厳や人権を尊重するためには、差別・偏見につながる誤った理解をただした上で、社会参加する「全ての人の習慣・信条が違うこと」を互いに認め合える社会の構築が求められます。

これまで母国で暮らす中で培った習慣や考え方を、日本人が尊重しながら暮らせるようにするためには、双方の事情に精通した専門家が必要です。

外国人支援コーディネーターは、日本社会と外国人の架け橋として、その専門性が期待されています。

在留外国人の困りごとの解決

入管庁が2022年2月~3月に実施した「在留外国人に対する基礎調査(リンク資料5ページ目)」によると、在留外国人は以下のような生活上の悩みを抱えていることが分かっています。

○年金制度や介護保険制度に関する悩み(制度の詳細がよく分からない)
○公的機関への相談に関する悩み(市区町村・都道府県・国など、どこに相談していいか分からない)
○子育てに関する悩み(教育・子育てに関する悩みの相談先が分からない)

上記のような相談以外にも、病院での診察・治療、妊娠・出産、災害時など、外国人の身に困りごとが起こった際の「相談窓口が分からない(どこに相談すればよいか分からない)」という回答が一定数存在しています。

また、公的機関に相談した際、適切な部署にたどり着くまでいろいろな部署に案内されたり、担当者の専門知識が少なかったりすることに不満を抱いた外国人も少なくないようです。

この点に関しては、日本人が公的機関に相談する際も似たようなケースに遭遇することがありますから、外国人ならなおさらでしょう。

オンライン・SNSでの相談に対応して欲しい、話を丁寧に聞いて欲しいといった意見もあがっており、国や地方公共団体が在留外国人のニーズに応えられていない状況が浮かび上がってきます。

外国人を適切な支援に導ける仕組みとして、外国人支援コーディネーター制度が上手く機能すれば、日本での長期就労を検討する外国人材が増えるかもしれません。

地方公共団体による対応の限界

実際に外国人を受入れる地方公共団体も、現状に無策で対応しているわけではありません。

一例として、2022年12月末時点で12,000人以上の外国人が暮らしている群馬県太田市では、市役所1階に「太田市外国人市民相談窓口ワンストップセンター」を開設し、多言語での相談体制の整備・行政情報の発信等を行っています。

しかしながら、外国人のニーズを満たす水準までサポート体制が整っていない自治体も少なくありません。

入管庁が2021年7月に実施した「地方公共団体における共生施策の取組状況に関する調査(リンク資料7ページ目)」によると、外国人向けの相談窓口・外国人を支援する人材に関する課題が浮き彫りとなっています。

まず、外国人向けの相談窓口に関しては、課題を「人員不足」と回答した自治体が最多で、次いで「財源不足」・「職員の専門性の低さ」と続きます。

具体的には、相談員の不足・確保・育成を課題とする自治体が多く見られます。

外国人を支援する人材に関しても、課題を「人員不足」と回答した自治体が最多で、次いで「ノウハウ不足」・「財源不足」と続きます。

やはり、支援人材の確保や育成に悩む自治体が多いようです。

調査の結果、地方公共団体による自助努力だけでは十分な人材確保や育成が難しいことから、外国人支援の専門家を国が育成・認証する流れに至ったものと推察されます。

外国人支援コーディネーターに求められる役割

外国人支援において、適切な情報提供・公的機関との連携を実現するためには、支援する側にも一定水準の能力が求められます。

以下、入管庁の検討会で示された、外国人支援コーディネーターに求められる役割について解説します。

基本的な人材像

入管庁の検討会において、外国人支援コーディネーターの基本的な人材像は、次の条件を満たす人材と定義されています。

条件 詳細
前提条件
○日本の法令や国内外の制度
○外国人が受けられる様々な支援サービス
上記2点に関する専門的知識・相談支援技術があること
相談対応支援
○様々な生活上の困りごとを抱えた外国人相談者と信頼関係が構築できる
○相談に応じた上で、問題状況を見極めて適切な支援プランを練ることができる
○状況に応じたアドバイスや連携が取れる
○外国人相談者の了承を得ながら、困りごとを解決へと導ける
※(他に相談対応者が配置されている場合は、相談対応者が抱える案件に対してアドバイスや指導ができる)
予防的支援
○生活オリエンテーション等を通じて、日本の制度等の概要と、出身国の制度等との違いを外国人に教示できる
○困りごとが発生した場合に、相談先等の周知・提供ができる

※参照元:出入国在留管理庁|総合的な支援をコーディネートする人材の役割等について(検討結果報告書【概要】)

外国人支援コーディネーターに期待されている役割は、外国人の個別支援だけではありません。

個々の支援によって得られた課題から、専門的知見によって受入れ環境そのものを改善する役割も期待されています。

想定される支援内容

現場で外国人支援コーディネーターが行う支援内容として想定されるのは、大きく「相談対応支援」と「予防的支援」の2種類です。

以下、それぞれの支援内容について解説します。

・相談対応支援

相談者から相談を受けた際、外国人支援コーディネーターのミッションは、その場で問題を解決することではありません。

外国人支援コーディネーター自身が、自らの知見によって解決へと導くのではなく、様々な支援サービスの提供者と連携し、最適なサービスに最短でつなぐことがミッションです。

具体的な相談対応の流れは、次のようなイメージです。

①  住民や社員・留学生等から相談がある
②  相談対応部署において、外国人支援コーディネーターは複雑な相談内容を見極め、優先順位をつけて分野横断的な支援プランを作成し、適切な連携先の検討・選定を行う
③  関係機関(連携先)と連携・調整し、案件を引き継ぐ
④  相談者に対して、利用可能な支援プラン・連携先を提示する
⑤  引き継いだ案件の結果を収集して、将来のためのノウハウとして蓄積

 なお、関係機関の具体例としては、行政機関・専門機関・支援団体等が考えられます。

・予防的支援

外国人支援コーディネーターには、相談が来てから対応することだけでなく、そもそも「外国人が相談しなくてもよい」状況を構築するための支援も求められます。

具体的には、配置先・依頼を受けた外部機関等におけるオリエンテーションや、外国人向けイベント等の現場で、自ら専門性を活かした情報提供を行うことがミッションとなります。

また、オリエンテーション等で説明者等が決まっている場合、外国人支援コーディネーターが説明者等にアドバイスをするアプローチも考えられます。外国人に対して、日本と母国の慣習の違いや、悩みが生まれたときの相談窓口を説明しておくことで、問題解決を円滑に進められるでしょう

必要とされる4つの能力

外国人支援コーディネーターが、求められる役割を果たすためには、以下の4つの能力が必要とされます。

能力
詳細
外国人の「在留状況」を正確に把握する能力
○外国人は、在留資格によって利用できる支援サービスが異なる
○外国人の出入国・在留に関する知識として「入管関係法令」等の知識を習得し、外国人の在留状況を正確に把握できる能力が求められる
異なる文化や価値観を理解する能力
○外国人は、文化・習慣・価値観・母語・生まれ育った国の社会制度が日本と異なっている
○外国の文化・社会的習慣・価値観など「異文化理解」の能力を備えている必要がある
外国人の複雑・複合的な相談内容に対して適切な解決まで導く能力
○外国人が抱える問題は、必ずしも単純なものではなく、むしろ複雑・複合的な問題も少なくない
○問題を紐解いて把握し、状況を見極めた上で、横断的に支援・アドバイス・関係機関(連携先)との調整ができる能力が求められる
○外国人との信頼関係を築くことも重要
外国人を適切な支援へ円滑につなげる能力
○外国人にとって必要な支援へとつなげるため、関係機関との関係構築・連携に関する技術が必要
○国家機関等の設置目的や根拠・役割に対する理解も重要
○外国人の生活・就労に関する日本の法令・制度の理解と、外国の類似制度の理解も求められる

※参照元:出入国在留管理庁|総合的な支援をコーディネートする人材の役割等について(検討結果報告書)

自身が持つ知識・技術等をその場で提供するのではなく、複雑な悩みを紐解き、相談者にとって適切な相談窓口を紹介できる能力が、外国人支援コーディネーターには問われます。

外国人支援コーディネーターの国家資格化について

期待が高まる外国人支援コーディネーターの認証制度ですが、将来的には以下の要素を踏まえ、国家資格化が検討される見込みです。

○養成課程修了者の活動状況
○他の国家資格制度とその運用状況 

しかし、2023年時点では、外国人の相談対応支援を行うコーディネーターの統一的な運用がなされていないことから、短期的に国家資格を創設するのは厳しい状況です。

よって、外国人支援コーディネーターの国家資格化については、まだ時間がかかるものと推察されます。[u9] 

まとめ

外国人支援コーディネーターの認証制度は、様々な困りごとを抱える在留外国人をサポートするためのものです。

複雑に絡まった困りごとを紐解き、問題解決に向けて関係機関を紹介できる人材として、今後の活躍が期待されます。

しかし、外国人支援コーディネーターの職域は、あくまでも生活に関する相談事を想定したものです。

特定技能人材を自社で雇用している場合など、個別具体的な悩みに関しては、登録支援機関等のサポートが必要になるでしょう。

Factory labでは、登録支援機関として、義務的支援の他にも様々なサポートを行っています。

特定技能人材の採用にあたり、登録支援機関をお探しの企業担当者様は、人材紹介も含めお気軽にご相談ください。

ファクトリーラボ株式会社の代表

代表取締役社長

山本 陽平

1990年東京生まれ。2013年上智大学総合人間科学部卒業後、東証1部上場の資産運用会社に入社しコーポレート部門に配属。2017年、外国人採用支援及び技能実習生の推進をしているスタートアップに参画。事業部長として特定技能、技能実習、技術・人文知識・国際業務の人材紹介や派遣事業の展開及び支援を取り仕切る。人的な課題、採用や定着に大きなペインを抱えた製造業に着目し、一貫したソリューションを提供することを目的として2022年にファクトリーラボを設立し代表に就任。