私たちが普段利用しているビル・建物内の衛生環境を清潔に保つためには、ビルクリーニングのプロフェッショナルの存在が不可欠ですよね。
しかし、国内の労働者不足が深刻化しているため、国はビルクリーニング分野における特定技能人材の受入れを認めています。
ビルクリーニングは、人員が少なければ行わなくてもよいという話ではなく、利用者が健康的に施設を利用する上で必ず配置しなければならない存在です。
この記事では、そんなビルクリーニング業の特定技能人材を受入れる際、企業が満たさなければならない要件や注意点などを解説します。
ビルクリーニング分野で特定技能人材が必要とされる背景
そもそも、特定技能という在留資格が生まれたのは、人手不足が深刻化している分野の人員を確保するためです。
ビルクリーニング分野もその一分野であり、清掃員の確保に多くの企業が腐心しています。
ビルクリーニング人材の需要は高い
建築物衛生法、いわゆるビル管法の適用対象となる「特定建築物」は、日本でも年々増加傾向にあります。
特定建築物とは、興行場・百貨店・店舗・事務所・学校などに利用される建築物のことで、延べ面積が3,000平米以上、小学校・中学校は8,000平米以上のものをいいます。
この特定建築物に該当する建物は、法に定められた基準に沿って、空気環境の調整・給排水の管理・清掃・ねずみや昆虫等の防除が必要です。
適切な形でビル内の衛生的な環境を保つためには、ビルクリーニング人材の存在が重要なのです。
ビルクリーニング業界に人材が集まらない理由
ニーズは高いにもかかわらず、日本のビルクリーニング業界には、残念ながらなかなか人材が集まりません。
厚生労働省によると、ビル・建物清掃員の有効求人倍率は、以下の通り推移しています。
※出典元:https://www.mhlw.go.jp/content/11157000/000505128.pdf
また、平成27年に行われた国勢調査によると、ビル・建物清掃員の職種については、従業員の37.2%が65歳以上という結果が出ています。
※(参照:ビルクリーニング分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針)
なぜ、ニーズはあるのにビルクリーニング業界に人が集まらないのか、不思議に思う方も多いのではないでしょうか。
もっとも大きな理由の一つに、業界全体の悪循環に歯止めがかからないことがあげられます。
ビルクリーニング業界での清掃業務には、特殊かつ難解なスキル・資格の取得は不要です。
そのため、業界への参入障壁が比較的低く、業者間での競争が激しくなっています。
競争が激化した結果、業務単価はどうしても低く抑えられてしまい、労働者の人件費にも悪い方向で反映されてしまいます。
この状況を十分に改善できないまま時間が過ぎていき、ビルクリーニング業界に人材が定着しなかったのです。
生産性向上などの取り組みは行っているが……
業界全体としても、将来の不安を払拭するため、諸々の取り組みを行っています。
生産性向上に関しては、資機材メーカーとの協力により効率的な清掃機械の開発に着手したり、清掃ロボットの導入講習会などによるロボット化の普及促進を進めたりする動きが見られます。
人材確保の観点からは、高齢者・女性の雇用を推進しています。
また、ビルクリーニング技能士の資格を1~3級に分け、若年者が技能レベルを確認してやりがいを持てるような環境整備も行っています。
厚生労働省では、ビルメンテナンス業者が人材を中長期的に育成・確保するための適正な利潤を確保できるようにするため、平成27年に「ビルメンテナンス業務に係る発注関係事務の運用に関するガイドライン」を策定しています。
最新の労務単価などを踏まえ、国・地方公共団体などに対して、適切な発注ができるよう働きかけている形です。
こういった様々な取り組みを進めているにもかかわらず、依然として人手不足は年々拡大しています。
そのため、特定技能人材の存在は、ビルクリーニング業界の衰退を防ぐ重要な一手として期待されています。
ビルクリーニング業で特定技能人材を受入れる前に
自社でビルクリーニング分野の特定技能人材を受入れるには、企業側が満たすべき受入要件が存在します。
特定技能人材が従事できる業務の種類にも制限があるため、以下の内容に目を通しておきましょう。
企業の受入要件について
ビルクリーニング業の分野につき、企業が特定技能人材を受入れるためには、次の条件を満たしていなければなりません。
建築物清掃業等の登録は、営業所での取得となり、法人単位での取得ではない点に注意が必要です。
また、登録支援機関の利用を検討している企業も多いと思いますが、ビルクリーニング分野特定技能協議会については、登録支援機関の代行手続きでは入会できず、登録支援機関の加入も認められていない点も押さえておきましょう。
ビルクリーニング業の特定技能人材が従事できる業務
ビルクリーニング業の特定技能人材は、多くの人が利用する「建築物の内部を清掃する業務」に従事することが想定されています。
そのため、個人等の住宅の清掃は認められません。
実際の業務内容としては、汚れている場所・部位や汚れの種類を見極め、適切な方法や洗剤・用具などを選択しつつ、建築物の汚染物質を排除して清潔さを維持する仕事が中心となります。
衛生的な環境の保護・美観の維持のほか、安全な環境の確保が業務の主な目的と言えるでしょう。
具体的な清掃箇所としては、床やトイレはもちろん、内壁や天井など様々な場所が想定されます。
また、日本人が通常従事することとなる作業にも従事可能なため、資機材倉庫の整備や屋上の洗浄、建築物の敷地に植えられた樹木・草花の手入れなども、従事可能な業務に含まれます。
ベッドメイクは可能なのか
ビルクリーニングの分野で注目すべきポイントとして、客室整備作業、いわゆるベッドメイクがOKなのかどうかが問題になります。
宿泊施設のベッドメイクと聞くと、同じ特定技能の「宿泊」の分野が該当すると考える事業者の方も多いのではないでしょうか。
実は、ベッドメイクの分野と他の宿泊業務は明確に区別されており、ベッドメイク業務を主にする場合、特定技能の分野はビルクリーニングに分類されます。
自社でベッドメイク業務を主に手掛けているのであれば、宿泊の特定技能ビザではなく、ビルクリーニングの特定技能ビザを持つ人材を雇用すべき点に注意しましょう。
外国人側が満たさなければならない要件
ビルクリーニング業の特定技能ビザ(特定技能1号)を取得するためには、外国人側でもいくつか要件を満たさなければなりません。
以下、具体的な要件について解説します。
ビルクリーニング分野特定技能1号評価試験に合格する
ビルクリーニング業に従事するにあたり、技能面で求められる要件としては、ビルクリーニング分野特定技能1号評価試験に合格することがあげられます。
試験は主に日本で行われますが、インドネシア・ミャンマー・フィリピン・タイ・カンボジアなどでも試験が行われています。
試験の種類は、写真・イラストを見て解答を判断する「判断試験」と、実際の作業を見て採点する「作業試験」の2種類に分かれます。
具体的な問題の種類に関しては以下の通りです。
作業試験では、一つひとつの正しい手順だけでなく、あいさつなども試験で求められるため、外国人材にとって慣れない作業は多いはずです。
ただし、2023年1月の合格率は68.3%と比較的高めであることから、しっかり勉強ができていれば問題ないものと推察されます。
日本語能力の検定試験に合格する
ビルクリーニング業に限った話ではないが、特定技能ビザを取得する場合、一定の日本語力が求められます。
具体的には、以下の試験で一定のスコアを出さなければなりません。
日本語能力試験におけるN4レベルとは、日常会話の理解・身近な話題の文章の理解が可能なレベルを指します。
また、国際交流基金日本語基礎テストにおける合格とは、250満点中の200点を超えていることをいいます。
いずれか一方の試験に合格していれば、日本語能力の検定試験に合格したものとみなされます。
技能実習からの移行は可能?
自社で技能実習生に働いてもらっている場合、その人材が特定技能人材として働ける可能性があります。
ビルクリーニング職種・ビルクリーニング作業の第2号技能実習を良好に修了した人材は、技能試験と日本語能力試験が免除され、特定技能ビザに移行できます。
ビルクリーニング業の特定技能人材を雇用する際の注意点
自社でこれからビルクリーニング業の特定技能人材を採用しようと考えている場合、雇用の流れが日本人を採用するケースとは異なります。
以下、具体的な注意点について解説します。
受入れのプロセスを確認する
自社で人材の支援を行う選択肢もありますが、これまで特定技能人材の採用実績がなかったり、選任者が見つからなかったりする場合、登録支援機関の利用が現実的な選択肢になるでしょう。
その上で、雇用までの流れを想定すると、概ね以下のような流れでプロセスが進んでいきます。
先述した通り、特定技能外国人を受入れたら、その日から4ヶ月以内にビルクリーニング分野特定技能協議会へ入会しなければなりません。
海外人材の出迎え・生活支援については、登録支援機関からのサポートを想定している企業が多いはずですが、協議会への加入は自社で行う必要がある点を忘れないようにしましょう。
人材が働きやすい環境を提供する
ビルクリーニング業は、そもそも人材を確保しにくく、離職率も高い業種です。
特定技能人材は、総じて就労に際してのモチベーションは高い傾向にあるものの、業界全体の事情を踏まえた上で人材のケアに注力する必要があります。
最低限、同じ業務に従事している日本人と同水準で雇用しなければならず、プライベートにおける生活支援も求められます。
特定技能ビザは転職が可能なので、職場でのコミュニケーションが不十分だと、人材が職場に不信感を抱いて転職することも考えられます。
▶参考記事:特定技能外国人は転職できる?企業に必要な手続きと注意点
また、他社も自社と同じように、特定技能人材の確保に動いている可能性があります。
ライバルに有利な状況を作らないよう、特定技能人材が働きやすい・過ごしやすい環境を提供したいところです。
まとめ
全国的に人材不足が続く中、これまでも人材不足の傾向にあったビルクリーニング業界では、特定技能人材のニーズが高まることが予想されます。
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