厚生労働省が公表した「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」によると、都道府県が推計した介護職員の必要数は、2023年度には約233万人、2025年度には約243万人、2040年度には約280万人となっています。
年を経るごとに必要数は増加しており、2025年度までは毎年5万人規模で、介護職人材が不足する計算です。
こういった状況下において、人材不足の問題を解消する手段として、介護業の特定技能人材が注目されています。
この記事では、介護業の特定技能人材について、他の在留資格と比較しながら、受入要件や従事可能な業務・雇用時の流れ・注意点などを解説します。
介護分野で特定技能人材が必要とされる背景
全国的に労働人口は減少傾向にありますが、介護分野の場合は特殊な事情もあります。
以下、日本の介護分野で特定技能人材が必要とされる背景について解説します。
介護分野は離職率が高め
介護分野は、なり手がいないというだけでなく、働いている人材が職場を離れやすいという特徴もあります。
介護施設の賃金は低水準だという話を聞いたことがある方もいるかもしれませんが、意外にも収入を理由に職場を離れた人は少ないようです。
公益財団法人 介護労働安定センターが公表している『令和3年度「介護労働実態調査」結果の概要について』によると、職員が前職を辞めた理由の割合でもっとも多かったのは、職場の人間関係に問題があった(18.8%)というものでした。
次点は結婚・出産・妊娠・育児のため(16.9%)で、収入が少ないという理由は3位(14.9%)となっています。
また、男性は将来の見込みが立たない(26.5%)ことを理由に離職している割合がもっとも多く、将来のビジョンを描くのが難しい業界というのは、データを見る限り事実のようです。
しかし、介護という社会的に重要なミッションに対して、現場で働かれている多くの方が誇りを持っているのも事実です。
介護ロボットの導入には費用がかかる
なかなか人手が集まらないのであれば、介護ロボットなどの導入により、業務効率化を目指す選択肢もあるでしょう。
しかし、現在開発・導入されている介護ロボットの多くは、人間の仕事を代行できる人型ロボットではなく、人力での介護負担を軽減するためのロボットが多数を占めています。
よって、単純に介護ロボット等の機器を導入するだけでは、根本的な問題解決が難しい職場も多いでしょう。
導入費用も馬鹿になりませんし、メンテナンスも想定しなければならないことから、やはり労働力の確保が重要です。
若い労働力の確保が必要
若年者を施設で採用することにより、中長期的な視点からの教育が可能となります。
体力的な不安を抱えたスタッフに比べて、仕事を頼みやすいというメリットもあるでしょう。
しかし、少子高齢化が進む日本において、若い労働力を確保するのは至難の業です。
売り手市場が続く新卒・転職市場では、若年者は自分が働きたい職場を目指して就活するため、スタートの段階から介護を目指す人材はどうしても少なくなります。
先述した『令和3年度「介護労働実態調査」結果の概要について』においても、10~20代の労働者はわずか6%となっており、逆にもっとも多い年代が45歳以上50歳未満(13.8%)という結果が出ています。
60歳以上の労働者の割合はなんと16%にも及び、実質的に老々介護に近い状況が生じている職場もあるものと推察されます。
このような状況で、若年者を獲得しやすい外国人材の雇用に踏み切る介護施設が増えることは、ある意味自然な流れと言えるでしょう。
介護OKな他の在留資格は?
介護分野は、人手不足を補うため、特定技能以外にも様々な在留資格が設けられています。
そこで、介護の特定人材について詳しく掘り下げる前に、介護が認められる他の在留資格についてもご紹介します。
介護の在留資格
特定技能制度がスタートしたのは2019年4月のことですが、それ以前から「介護」の在留資格が日本には存在していました。
介護の在留資格は、2017年9月からスタートしており、在留条件は「介護福祉士養成学校を卒業して、介護福祉士の国家試験に合格すること」です。
介護の在留資格には、在留期間の上限は設けられていません。
つまり、更新を行う限り、永続的に日本で働ける在留資格の一つです。
特定技能人材は、身体介護とそれに付随する支援業務を行うことが認められていますが、訪問系サービスに就くことはできません。
しかし、介護の在留資格を取得すると、業務の制限がなくなるため、訪問系サービスに従事させることも認められます。
ただし、誰でも取得できる在留資格とは言えません。
そもそもが「国家試験合格者のみ取得できる試験」であり、高い日本語能力も求められるため、施設側が人材を採用するのも苦労するでしょう。
「これは」と思った人材に対して、採用企業が費用を出して、介護福祉士養成学校に通わせる選択肢もあります。
その場合、費用も数百万円単位で見積もる必要があることから、すべての施設で採用できる方法とは言えません。
EPAに基づく特定活動
EPAとは、英語「Economic PartnershipAgreement」の略称で、経済連携協定とも呼ばれます。
送り出し国が限定されているのが特徴で、インドネシア・フィリピン・ベトナムの3国が対象となります。
国家間の経済的な連携を強化する目的があり、基本的には介護福祉士の資格取得を目的とした制度です。
そのため、一定期間内に資格取得ができなければ帰国となりますが、取得できれば制限なく更新が可能になり、日本でずっと働き続けることができます。
ただし、特定技能と同様に、訪問系サービスには制限がかかります。
資格取得前に勤務できるサービスの種類は、以下のようになっています。
なお、介護福祉士の資格を取得した後は、一定条件を満たす事業所の訪問系サービスにも従事できます。
技能実習(介護)
介護分野では、技能実習生も業務に従事することができます。
最長で5年の滞在が認められていますが、訪問系サービスは認められていません。
人材を採用しやすいのがメリットである反面、現場で働いてもらうまでに一定の時間を要します。
日本語レベルが低い人材も少なくないため、施設・企業でどこまでケアできるかが問題になるでしょう。
介護業で特定技能人材を受入れる前に
これから介護業の特定技能人材の受入れに向けて準備するには、受入要件や人材の可能性について理解を深めることが大切です。
以下、特定技能人材を受入れる前に知っておきたい情報をまとめました。
企業の受入要件について
介護業の分野につき、企業が特定技能人材を受入れるためには、次の条件を満たしている必要があります。
なお、②の「日本人等の常勤介護職員」には、日本人に加えて、以下の外国人材が含まれます。
介護業の特定技能人材が従事できる業務
介護業の特定技能人材は、以下の業務に従事することができます。
現場で気になる点として、特定技能人材は夜勤にいつから配属できるのか、心配な方も多いのではないでしょうか。
この点に関しては、就労開始後すぐに配属して問題なく、人員配置基準への参入も可能です。
ただし、日本人の実務経験者のように、即戦力として考えることはできません。
特定技能人材と日本人の職員がチームを組んだり、介護技術や日本語習得の機会を与えたりして、施設にいち早く順応できるよう準備する必要があるでしょう。
参考記事:外国人労働者の日本語教育は大変?企業は現実を知って対策を練ろう
介護の在留資格に移行は可能?
特定技能1号外国人が、日本で働ける期間の上限は「5年」となっています。
優秀な特定技能人材に末永く働いてもらうためには、介護の在留資格への移行という選択肢が考えられます。
介護の在留資格を取得するためには、介護福祉士試験を受験して合格しなければならず、3年の実務経験を積まないと受験資格が得られません。
試験後の登録手続きも想定すると、介護の在留資格へ移行するためには、最低でも4年を想定したいところです。
外国人側が満たさなければならない要件
続いては、介護分野の特定技能人材となるために、外国人側が満たさなければならない要件についてお伝えします。
介護分野は、他の特定技能分野と違い、合格すべき日本語試験が2種類存在します。
技能試験・日本語試験に合格する
外国人材が、介護分野の特定技能人材となるためには、次の試験に合格しなければなりません。
介護技能評価試験では、介護業務の基盤となる能力・考え方等に基づき、利用者の心身の状況に応じて、自分で一定レベル以上の介護ができるかどうかを判断します。
実技試験も含まれており、難しい漢字が使われている問題もありますから、事前の対策は必須でしょう。
日本語能力試験・国際交流基金日本語基礎テストに関しては、他の特定技能人材と大きな違いはありませんが、介護分野には「介護日本語評価試験」の合格が求められます。
介護業でよく使用される単語の意味を問う問題が出題され、臀部(でんぶ)や嘔吐(おうと)など、日本人でもすぐに読めない漢字も少なくないことから、勉強時間も増えることが予想されます。
介護分野の技能実習2号を修了している
外国人材が、介護分野の技能実習2号を修了している場合、技能試験・日本語試験の受験なく特定技能1号への移行が認められます。
ただし、介護分野以外で技能実習2号を満たしている場合、免除されるのは日本語試験だけという点に注意しましょう。
その他の要件
その他、介護分野の特定技能人材になる要件としては、次のようなものがあげられます。
先述したEPAによる介護福祉士の資格取得を目指す場合、日本で4年間適切に就労・研修に従事した人材は、無試験で特定技能へ移行できます。
特定技能への移行については、直近の介護福祉士の試験結果につき、合格基準点の5割をマークして、かつすべての試験科目で得点を取っていることが条件となります。
制度上は、介護福祉士養成施設を修了した人材も、無試験で特定技能への移行が認められます。
ただ、修了者は実質的に「介護の在留資格」を取得することが目的なので、今後資格取得者数が増えるかどうかは未知数です。
介護業の特定技能人材を雇用する際の注意点
特定技能人材を雇用する際は、受入れの流れを把握しつつ、就労者が働きやすい環境を準備する必要があります。
介護業の場合、一部の国の人材に関しては、受入れにあたり独自のルールがあるため注意しましょう。
受入れについて一連の流れを知る
過去に特定技能人材の採用実績がなく、採用にあたり専属の担当者を用意できない場合、登録支援機関のサービスを利用することになります。
登録支援機関を利用するケースを想定して、受入れ・雇用までの一連の流れをまとめると、概ね以下のようになります。
日本人材の採用と異なる点として、海外人材の出迎え・生活支援があげられます。
こちらに関しては、登録支援機関からのサポートを受けつつ、自社でできることを粛々と進めていきましょう。
参考記事:【特定技能人材の雇用】登録支援機関の役割や選び方のポイント5つを解説!
働きやすい環境の準備
入国から就労まで、諸々のサポートが必要になる特定技能人材ですが、特に注意したいのが「衣食住の確保」です。
介護分野に限ったことではありませんが、外国人材が日本で就労する際にまず苦労するのが、日本での生活に必要なものを揃えることです。
例えば、外国人が銀行の口座開設を行うためには、印鑑や携帯電話、各種本人確認の書類が必要です。
不慣れな状況で、これらの書類を用意するのは、外国人でなくても大変かもしれません。
参考記事:外国人が口座開設を行う際の条件|必要書類や具体的な手順・注意点も解説
末永く自社で働いてもらうためには、外国人材が困ることを先回りしてのケアが求められます。
人材が使えるお金を増やすという観点からは、寮などを準備してランニングコストを安くする方法なども、検討の余地があるでしょう。
フィリピン人材には注意が必要
介護分野では、フィリピンからの人材が安定供給されている状況です。
しかし、フィリピンには海外で働く人の権利を守るための、海外雇用庁(POEA)という省庁があります。
フィリピン人が、特定技能外国人として日本で働く際は、POEAによる雇用契約のチェックが求められます。
そして、フィリピンで現地人材を採用する際は、原則としてPOEA認定の現地エージェントを介して人材を雇用しなければなりません。
ステップが複雑になるので、フィリピン人材を採用したい場合は注意が必要です。
まとめ
介護業は、将来的に都市部の人材不足が深刻化するものと考えられているため、早急に人材を確保するための施策を講じる必要があります。
そのためには、介護の在留資格・EPAと比較して在留資格を得るためのハードルが低い、特定技能人材の雇用が現実的と言えるでしょう。
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