1号特定技能外国人を雇用する際は、採用する企業側で住居確保を支援することが求められます。
特定技能の在留資格を持つ外国人に限った話ではありませんが、外国人が日本で暮らせる家を探すことは、おそらく日本人が思っている以上にハードルが高いものです。
逆に言えば、外国人労働者に対して「自社がどこまで住居確保のサポートができるのか」を明確にアピールできると、外国人材を獲得する難易度が下がるものと考えられます。
この記事では、特定技能の在留資格を持つ外国人を取得しようと考えている経営者・人事関係者の方向けに、
- 1号特定技能外国人の住居確保を支援する重要性
- 企業側が住居確保で支援すべきことの種類
- 実際に支援を行う際の注意点
上記の内容について解説します。
1号特定技能外国人の住居確保はなぜ重要なのか
外国人労働者が、在留資格として「特定技能(1号)」を取得するためには、取得分野の技能に関する試験だけでなく、日本語能力に関する試験を受ける必要があります。
技能実習生が実習時と同じ分野の仕事に転職する場合など、試験を受験しなくてもよい例外はあるものの、基本的には一定の日本語力がなければ1号特定技能外国人になることはできません。
にもかかわらず、なぜ企業には、1号特定技能外国人に対しての住居確保のサポートを行う必要が生じるのでしょうか。
実は、すべての外国人にとって「日本で住居を確保すること」のハードルは驚くほど高く、企業支援がなければ住居を契約することはとても難しいのです。
外国人が日本で住宅を賃貸する難易度は高め
日本で外国人が住居を確保することが難しい理由としては、
- 日本独特の賃貸契約に関するルールがあること
- 日本がほぼ単一民族で構成されている島国であること
上記のようなものが考えられます。
賃貸契約は日本語がベースになっていて、契約書や重要事項説明書には難しい単語が並んでいて、しかも小さい文字でびっしりと注意事項が書かれています。
正直、日本人でも正しく内容を理解しているのかどうか怪しい文章を、外国人が完璧に理解するのは至難の業です。
1号特定技能外国人なら、例えばカタカナを使って自分の名前くらいは書けるかもしれませんが、細かい契約の文言や法律用語を読み取るのは難しいでしょう。
例えば、日本人にとっては当たり前のルールである敷金・礼金に関しても、外国人労働者の母国に同様のルールがあるかどうかは、国や地域によって異なります。
そのため、なぜ敷金・礼金を支払うのか理由が分からないことで、労働者の中には「騙されているのではないか」と不安を感じて就職を見送る人もいるかもしれません。
さらに、これまで外国人を受け入れたことがない物件のオーナー(大家)の場合、外国人を住まわせることに難色を示す可能性もあります。
こういった事情から、日本の賃貸契約・住居事情に精通した人物のガイダンスがなければ、外国人が1人で契約を進めるのは非常に難しいのです。
日本で住居を契約する際に生じる「保証人」の壁
日本独特のルールは他にもあり、例えば日本で住居を契約する際には、保証人(連帯保証人)の署名が必要になる場合があります。
そして、保証人の名前を書く場合、外国人の家族や友人は認められず、日本で暮らす日本人の誰かの名前を記載することが求められるケースは多く見られます。
多くの大家は、日本人の保証人がいることを条件に、外国人との賃貸契約を結びたいという思惑があります。このように大家が考えるのは、以下のようなリスクを想定してのことです。
- 家賃を定期的に支払う習慣を知らず、外国人入居者が家賃を滞納してしまうリスク
- 何らかのトラブルに巻き込まれ、家具や荷物を置いたまま夜逃げや無断帰国してしまうリスク
- 外国人入居者が体調を崩し、家賃が支払えないまま部屋を出られなくなるリスク
もし、日本人の保証人がいれば、入居者に問題が発生した際、何らかの対応をするよう催促することができます。
よって、日本人の配偶者や親族、いなければ連絡の取れる日本人の知り合いを、大家はできるだけ保証人にして欲しいと考えます。
ただ、単身で日本にやって来る海外労働者は、多くの場合、日本人の知り合いがいない状態で来日します。そのため、企業が外国人労働者を雇う場合、労働者の住宅確保を支援する必要性が生じるのです。
雇用者にとって住居確保の支援は義務
契約の難しさや保証人の存在など、外国人が日本で働きながら暮らすハードルは、非常に高いと言わざるを得ません。
この点に関しては、国も外国人の厳しい事情を踏まえ、法務省が「1号特定技能外国人支援に関する運用要領」をまとめています。
運用要項の中では、1号特定技能外国人が住居を確保していない場合、その受け入れ機関となる雇用企業は、外国人労働者に対して住宅を確保できるよう何らかの支援を行うことが義務付けられています。
支援の内容は住居の確保に限らず、生活に必要な諸々の契約支援を行う義務も含まれており、これらの義務的支援を雇用企業は滞りなく行う必要があります。
1号特定技能外国人に対しての住宅確保支援の種類
1号特定技能外国人が住宅を確保する際、雇用企業には以下のケースを想定してサポートを行うことが求められます。
- 外国人労働者が、自力で部屋を借りようとする場合のサポート
- 自力で部屋を借りるための契約を結ぶのが難しい場合のサポート
- 借りられる部屋が見つからない場合のサポート
どのサポートが必要になるのかは、外国人労働者の都合によって異なるため、十分にヒアリングを行った上で対応を検討することが大切です。
以下、1号特定技能外国人に対する、住宅確保支援の3つの種類についてご紹介します。
スムーズに住宅が借りられるようサポート
これから雇い入れようと考えている1号特定技能外国人が、すでに日本国内で暮らした経験がある場合、ある程度日本で自分の部屋を借りるハードルはクリアしていることになります。
そのようなケースでは、1号特定技能外国人が「新しい住居を契約する」際のサポートを行い、スムーズに入居できる体制を整えていくことが雇用企業には求められます。
具体的には、雇い入れる予定の外国人労働者に対して、以下のようなサポートをするイメージです。
- 外国人労働者の条件で借りられる賃貸物件や、物件を紹介してくれる仲介業者の情報を提供する
- 実際に住居を探す際、内見や契約に立ち会って、外国人労働者の意思を大家や仲介業者に伝えるのを助ける
- 外国人労働者に保証人がいない場合、企業が連帯保証人になったり、保証会社を確保して企業が緊急連絡先として契約したりする
日本の賃貸契約において保証人の問題はシビアなため、過去に契約した際は問題なかったとしても、新たな契約では日本人の保証人を探すのが困難なケースも十分考えられます。もし、連帯保証人を立てられない場合、雇用企業が連帯保証人となる必要があります。
諸々の事情から、どうしても企業が連帯保証人になれない場合は、保証会社を利用して契約することも視野に入れることになるでしょう。その場合、保証料は企業負担となる点に注意が必要です。
1号特定技能外国人の代わりに企業が住宅を借りる
1号特定技能外国人が、自力でどうしても住宅を借りられない場合は、企業の側で住宅を借りて提供する方法が選べます。
例えば、採用予定の1号特定技能外国人が海外にいるような場合は、来日後の住居を事前に準備しておく都合上、企業が住宅を借りた方が効率的です。
ただし、雇用する労働者との合意が必要ですから、雇用企業は労働者と住居の希望や条件について、契約前にすり合わせを行うことになります。
また、実際に企業が借りる住居に関しては、1号特定技能外国人の賃金や、近隣の不動産賃料の相場観などを考慮して判断します。
もし、明らかに近隣よりも高い家賃の物件を借りていて、その家賃を1号特定技能外国人に負担させるようなことをしている場合、出入国管理庁の指摘を受ける可能性があります。
企業が労働者の代わりに住居を借りる場合は、賃金・賃料のバランスを考えて物件を検討することが大切です。
弊社の親会社佐竹製作所は約60名の特定技能生を雇っております。佐竹製作所が提供している住居サポートに気になる方はぜひこちらの記事をご参考ください。
【Q&A特集】事例紹介ー特定技能の「住居支援」に関して、私たちはこうやった!
自社で所有する社宅等を提供する
受け入れ企業の側で、社宅等を所有しているなら、そちらを1号特定技能外国人に提供する方法も選べます。ある意味、労働者側の合意さえ得られれば、外国人労働者の住居をサポートする上では理想的な方法と言えます。
一般的に、社宅等を労働者が借りる場合、以下のようなメリットがあります。
- 賃料が発生しない
- 一般的な物件を借りるよりも賃料が安い
- 自社の先輩社員が暮らしているので、仕事上の不安や問題などを相談しやすい
賃料の安さという観点から見ると、外国人としても無料・格安で部屋を借りられるのはありがたい話ですから、好意的に受け取ってもらえる可能性は高いでしょう。
水道や電気の契約も個別に行う必要がないため、日本語の読み書きに苦手意識を持っている外国人労働者にとっては魅力的な選択肢です。
住宅確保支援を行う際の注意点
1号特定技能外国人に対する住宅確保支援は、当人の希望に沿う物件を選んでさえいれば、どのような形でも認められるというわけではありません。
部屋の広さや家賃設定には一定の制限が設けられているため、実際に住宅確保支援を行う場合、企業は以下のような点に注意が必要です。
確保する部屋の広さに注意する
雇用企業が確保する住居に関しては、部屋の広さが「1人あたり7.5㎡以上」という条件を満たす必要があります。
この数字は、日本の一般的な居室面積を考慮して計算された数字となっていて、7.5㎡よりも狭い部屋を貸し出すことは基本的に認められません。
ただ、自社で受け入れている技能実習生が、1号特定技能外国人として引き続き働くことになった場合に限り、技能実習生の住居で定められているルールを引き続き適用することができます。具体的には「寝室1人あたり4.5㎡以上」の条件を満たしていれば、引き続き同じ物件で住むことが認められます。
ちなみに、ルームシェアなど複数人が居住する場合には、居室全体の面積を居住人数で割った場合の面積が7.5㎡以上でなければなりません。
2人でシェアするなら15㎡以上、3人でシェアするなら22.5㎡以上といった形で、一緒に暮らす人数に応じて求められる面積は増えていきます。
住宅提供で企業が利益を得るのはNG
寮や社宅を準備したり、企業側で社宅を借りて提供したりする場合、企業がその行為で1号特定技能外国人から利益を得ることは認められません。
企業によっては、他の労働者との兼ね合いから家賃を受け取る形にしているケースも考えられますが、その際の家賃設定についても一定の制限があるため注意しましょう。
具体的には、以下のような形で、1号特定技能外国人から徴収できる家賃の金額が決められています。
敷金・礼金等の費用負担はケースバイケース
物件を借りる際に発生する敷金・礼金は、1号特定技能外国人が支払うべきなのか、それとも雇用企業側が支払うべきなのか、多くの企業にとって悩みどころだと思います。
この点に関するルールは比較的柔軟で、外国人労働者が賃貸契約を結ぶ場合に関しては、基本的に外国人が支払う形で問題ありませんし、企業側が支援しても差し支えありません。
ただ、雇用企業側で賃貸契約を結び、その上で外国人労働者を住まわせる場合は、企業の側で敷金・礼金等を支払う必要があります。
敷金・礼金等の費用負担に関しては、誰が部屋を契約したのかによって、ケースバイケースである点に注意しましょう。
各自治体に住所の登録を行う
1号特定技能外国人の住宅が決定したら、各自治体に住所の登録をするのを忘れないようにしましょう。
住居が決まってから90日以内に届出を行わないと、在留資格が取り消しとなってしまう可能性があります。※(入管法第22条の4第1項第9号)
在留資格取消処分を受けると、外国人労働者当人にとってマイナスとなるだけでなく、企業は貴重な労働力を失うことになります。
不正行為を行ったものとみなされ、企業の評判が悪くなることも懸念されるため、住所の登録は忘れずに行いましょう。
始めて特定技能外国人を雇用したい企業様はぜひ「特定技能外国人住居支援完全マニュアル」をご参考ください。
まとめ
ここまでお伝えしてきた通り、1号特定技能外国人を自社で受け入れる際は、面倒なルールや手続きが数多く存在します。
もし、自社で適切な対応を行えるかどうか不安な場合は、登録支援機関を活用するのが安心です。
登録支援機関は、1号特定技能外国人が業務・日常生活を円滑に行えるよう、雇用企業に代わってサポートを行う専門機関です。
これまで一度も登録支援機関を利用したことがない場合はもちろん、現在頼っている登録支援機関の対応に不満がある方も、豊富な特定技能人材が集まるFactory labのサービス利用をご検討ください。