日本で暮らす外国人の数は年々増加しており、法務省が発表した令和4年末現在における在留外国人数は、307万5,213人となっています。日本人の人口を1億2,000万人と仮定すると、およそ2.5人に1人が外国人という計算になります。
日本企業でも、言語・文化・習慣が日本人と異なる外国人材を雇用する機会は増えてきていますが、日本は他国と比べて災害が多い国の1つでもあります。この記事では、外国人材が災害時に困ること・外国人ならではの事情に触れつつ、防災対策のポイントやサポート体制構築などについて解説します。
外国人が日本で災害に遭遇したら何に困る?
日本で暮らす外国人材の中には、自然災害がほとんど発生しない国・地域で育ってきた人も多く見られます。
それに加えて、不慣れな言語で自分の身に起こった問題を訴えなければならないため、以下のような点で困りごとが発生しやすい傾向にあります。
日本人にとって「当たり前」なことでもパニックになる
日本は自然豊かで四季が比較的はっきりしており、住む場所によっては冬場に大雪が降ることもあります。また、夏は台風・豪雨によって被害を受ける地域も多く、地震が起こることは全国的に珍しくありません。
世界で起こるマグニチュード6以上の地震のうち、およそ2割が日本で発生しているともいわれ、日本には活火山も多く見られます。風水害や地震がほとんど発生しない国・地域の人は、日本人が恐怖を感じないレベルでの揺れであっても、恐怖を感じてしまうでしょう。
しかし、そのことを日本人の社員に伝えても、例えば「日本のマンションは耐震設計だから大丈夫」など、外国人の不安を払拭できるレベルの回答にはなっていない可能性があります。
外国人が地震等の災害で不安を感じた場合に備えて、相談に乗れる日本人スタッフを確保しておくなどの対策を講じることが大切です。
欲しい情報を自力で収集できない
日本語は難解な言い回しも多く、漢字に慣れていない外国人にとって、日本での情報収集は普段から苦労が多いものと推察されます。日本人も混乱する災害時はなおさらであり、災害発生直後は必要な情報が入りにくく、スマートフォンがつながらないなど、自社スタッフとの連絡をとるのも難しいでしょう。
仮に、情報を手に入れることができたとしても、近辺に母国語に詳しい人がいなかった場合、その情報の内容や真偽を確かめるのにも一苦労するはずです。
災害時にしか注目しない単語も多く、例えば「警報」・「避難所」・「救護所」といった単語を見て、それぞれ何を意味しているのか瞬時に把握するのは、多くの外国人材にとって難易度が高いことです。
自分が勤めている会社から何の連絡もない状況が続くと、不安から心身の調子を崩してしまうことは想像に難くありません。よって、企業としては、万一に備えて外国人向けの災害対策を徹底することが大切です。
出勤するまでに時間がかかる
災害によって、現在自分が住んでいる部屋に住めなくなってしまったら、避難所等で生活することも想定しなければなりません。避難所での生活は、外国人の場合、日本人以上に困ることがたくさんあるものと推察されます。
例えば、宗教上の問題から食べられない食べ物がある場合、せっかく救援物資が豊富でも、それらを満足に食べられない状況が考えられます。また、救援物資をもらう際に「列に並ぶ」というルールを知らない人は、避難所で暮らす他の人とトラブルを引き起こしてしまうかもしれません。
無事部屋に住めるようになっても、部屋の片づけや各種手続きも含む生活の再建は、外国人単独ではなかなか進まないでしょう。そこで、自社に災害サポートを担当する日本人スタッフがいれば、外国人材にとって非常に心強いはずです。
その他、外国人材が生活する上で困ることについて知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
▶参考記事:外国人材が生活する上で困ること|意外なポイントについても解説
外国人材を守る防災対策のポイント
自社の従業員として外国人材が働いている場合、外国人材が災害時に安心して対応できる・避難できる準備を整えておくことが大切です。
以下、自社の外国人材を守る、防災対策のポイントを解説します。
「困りごと」を分類して考える
外国人に対する災害対応に関して、企業は外国人の「困りごと」を分類して考えると分かりやすいでしょう。
企業の災害担当者は、次の2種類の情報を分類して考えるクセをつけたいところです。
人間が行動を起こす際は、あらかじめ提供された情報や、これまでの教育・訓練等で蓄積された情報がスタートラインとなります。このような情報はストック情報に分類され、災害発生前に外国人材をどれだけストック情報に触れさせたかによって、有事の際の行動も変わってきます。
日本人からすると、地域で発生する災害・避難時の注意点・避難場所や避難するメリットは、普段の生活の中で頭に入りやすいはずです。しかし、母国で過ごした時間が長い外国人の場合、地震や台風などのリスクや、避難所という概念がよく分からなかったりする可能性があります。
そのような状態で、地震が起きたこと・避難が必要なことをテレビ・インターネット等で知ったとしても、外国人は対応に困ってしまうでしょう。災害が発生してから確認するフロー情報を理解するためには、ストック情報の厚さが重要になるため、企業としては外国人材に日々ストック情報を提供する努力が必要です。
外国人材に伝えたい「ストック情報」
災害が発生してから行動しようとしても、避難等に十分な情報をストックしていないと、外国人材が単独で行動を起こすのは難しいはずです。自宅・通勤中など、諸々の災害に巻き込まれたシチュエーションを想定して、自社の外国人材が困ることを逆算しながら伝えるべきストック情報を選んでいくとよいでしょう。
まず、災害の発生前後に備えるためには、次のような情報を外国人材に提供しておく必要があります。
これはあくまでも一例であり、他にも母国語で読めるパンフレットなどがあれば、それも渡しておきましょう。
次に、被災から時間が経過した後の対応についても、外国人材に説明しておきます。
その他、万一休業となってしまった場合の補償・求職活動への支援体制についても説明できると望ましいでしょう。
不十分な支援体制の場合、外国人材の失踪を招くリスクもあるため、十分に注意したいところです。
「フロー情報」の理解を助けるために
フロー情報の具体的な例としては、例えば危険情報の「地震が起きました」や、対応情報の「避難してください」といった情報があげられます。災害時は、外国人が普段生活していて触れることがない言葉がたくさん使われるため、それらの言葉を何も知らないまま災害に巻き込まれると、外国人は混乱してしまうはずです。
また、フロー情報の中には、日本語を母国語に直訳しても意味が伝わりにくいものも多く見られます。例えば「余震に気をつけましょう」という言葉を直訳しようとした場合、そもそも母国語に「余震」にあたる個別具体的な単語がないと、どう訳すべきか苦労するかもしれません。
その他、外国人が住んでいる地域において、多くの日本人が外国人の存在を知らずに暮らしている場合、お互いの誤解から差別・排斥が起こる可能性もあります。万一に備えて、企業は外国人材を助けられる窓口となれるよう、周囲に話の分かる日本人等のスタッフを配置しておくことが望ましいでしょう。
防災訓練を積極的に行う
企業内で行う防災訓練は、外国人材に日本の災害の特徴や、自身の身の守り方を伝える上で重要な機会の一つです。社内で実施できない場合は、防災研修を開催して、会社の外にいる時も必要な情報を入手するための方法を学べるようにしておきましょう。
自社で防災訓練を実施できる場合は、外国人材にも積極的に参加してもらい、身を守る術や消火・救助といった初動対応についても知ってもらう必要があります。社内でケガをした人の応急処置の方法や、火が燃え広がる前に消火器を使って火を消す方法など、速やかな対処方法を身体で学んでもらうのが理想です。
地震が発生した場合、公共交通機関がストップしてしまい、職場に宿泊せざるを得ない場合も十分考えられます。そのような場合に備え、社内に備蓄している簡易トイレの使い方を教えたり、非常食をしまっている場所や食べ方をレクチャーしたりして、災害時における社内での過ごし方についても学べるようにしましょう。
避難訓練の実施も重要
自宅近辺・または会社から見て近所の避難所の場所が分かっていても、職場が津波などの浸水予想区域などにある場合、タイミングによっては津波に巻き込まれてしまうおそれがあります。
速やかに安全な場所まで避難するためには、適切なルートを頭に入れた上で、災害時は冷静に行動する必要があります。
また、避難の選択肢は、必ずしも最寄りの避難所に向かうだけとは限りません。外国人材が自動車を持っている場合は、駐車場など避難所の周辺で車中泊をしたり、アウトドアで使っているテントを使ったりする方法が考えられます。
職場周辺の土地勘を養っておくことも重要で、避難場所の選択肢として複数のプランを安全な順にまとめて、一つずつルートを確認していくのも良い方法です。ルートや対応を教える際は、専任の担当者がついて指導することが大切です。
宗教的な配慮も必要
WHOが新型コロナウイルスの緊急事態宣言を終了したものの、感染症リスクは今なお引き続き存在しています。避難所など人が集まる場所では、日本人・外国人を問わず衛生観念に個人差があることから、感染対策が不十分になってしまうおそれがあります。
例えば、マスク着用・手洗いうがいなど、日本人にとって当たり前な習慣が、外国人には根付いていないことも珍しくありません。宗教上の理由から、アルコールでの手指消毒ができないケースも考えられるため、外国人材を雇用する企業としては、異文化・宗教への配慮が求められます。
外国人材が「指示なし」で災害に対応するために必要なこと
自社で働く外国人材を、災害の脅威から守るためには、自社で支援体制を整えるだけでは不十分でしょう。最も重要なことは、外国人材が企業・担当者の指示なく、適切に行動できることです。
以下、外国人材が「指示なし」で、自分の意思で災害に対応するために必要なことをご紹介します。
音声翻訳アプリを使った対応を練習する
災害に関しては、事が起こってから咄嗟に対応するのは難しいので、外国人材にとって馴染み深いフレーズを、社員の間で共有しておくのが理想です。しかし、自社で雇用しているそれぞれの人材の母語に対応しようとすると、その分フレーズの数も膨大になります。
そこで、音声翻訳アプリを使い、それぞれの母語を日本語に、あるいは逆の形で変換することで、災害時のコミュニケーションを円滑にする方法が考えられます。声で吹き込んだ言葉を、複数の言語に翻訳できるため、社員がフレーズを暗記する手間が省けるでしょう。
外国人材の間で「防災リーダー」を決める
外国人コミュニティがある地域では、独自に防災リーダーを育成したり、定期的に炊き出し訓練を行ったりすることもあります。もし、自社で複数人の外国人材を雇用しているなら、外国人材の中で防災リーダーを決めておくとよいでしょう。
防災リーダーは、日本語が不得手な外国人材と、日本人との間の橋渡しをする役割を担い、社内外で発信される日本語の災害情報を、外国人材向けに紐解いて伝えられるようにします。
日本人の防災リーダーも選任し、それぞれで意見交換・情報共有をしておくと、いざという時にスムーズな対応が期待できるはずです。
なお、東京都には「事務所防災リーダー制度」という制度があり、リーダーとして登録した社員に対して、日ごろの防災情報や発災時の災害情報が専用ページに直接届くようになっています。日本語で発信されている情報を、日本人防災リーダーが翻訳して外国人防災リーダーに伝えれば、最新の防災情報を共有できます。
将来的には、外国人の悩み事相談に対応できる専門人材「外国人支援コーディネーター」の協力を得られるかもしれません。
災害に限らず、外国人支援の最新情報はキャッチアップしておきたいところです。
まとめ
日本で暮らす外国人は、災害が発生した際にどう対応すべきか知らないことが多いため、外国人材を雇用している企業は外国人をバックアップできるよう体制を整える必要があります。
また、外国人材が自力でトラブルに対処できるよう、情報収集の方法や日本人社員との連携についても、防災訓練・避難訓練等の機会を通じて学んでもらうことが大切です。
Factory labでは、一定以上の日本語レベルを持つ人材を紹介できるため、外国人材の防災対策を検討する上で貴社の採用活動を有利に進められます。日本語も含め、一から外国人材を教育する時間が限られている企業担当者の方は、Factory labの人材紹介サービスをご検討ください。