企業が外国人材を雇用する場合、おそらく最初に検討するのは、就労系の在留資格を持つ人材ではないでしょうか。しかし、外国人材に多様な仕事を気兼ねなく任せたい場合、身分系の在留資格を持つ人材を採用する選択肢もあります。
本記事でご紹介する「定住者」も、そのような身分系在留資格の一種であり、基本的に雇用にあたって業務の制限がありません。今回は、各企業で外国人材の雇用が進む中、今後ますます注目されるであろう在留資格の一つ・定住者について解説します。
在留資格「定住者」の概要
定住者とは、日本に“何らかの理由で定住している”外国人のことを指します。しかし、一口に定住者といっても日本で暮らす事情は様々であることから、雇用時は人材の事情を把握した上で採用することが求められるでしょう。
定住者の在留資格に該当する人とは
定住者という在留資格を厳密に定義すると、身分系在留資格の一つで「法務大臣が特別な理由を考慮し一定の在留期間を指定して居住を認める者」となります。
過去に認められている具体的な該当例としては、次のようなものがあげられます。
上記の通り、定住者になるための条件は、政策や人権・人道上の配慮などによって変わってきます。
また、過去に例があったからといって誰もが認められるとは限らないため、定住者になれるかどうかの該当例を把握すること自体は、雇用企業にとってそれほど重要でないものと考えてよいでしょう。
なお、定住者の在留期間は、5年、3年、1年、6月、または法務大臣が個々に指定する期間で5年を超えない範囲となります。
「身分系在留資格」とは?
定住者は、身分系在留資格の一つです。
身分系在留資格とは、外国人の身分・地位に応じた在留資格であり、当該外国人が一定期間日本で暮らすことを前提とした在留資格になっています。
これに対して、日本で“就労する”ことを目的として取得する在留資格は「就労系」と呼ばれます。外国人材の持つ知識・技術を活かし働くことが前提のため、活動内容もそれに適したものでなければ基本的には認められません。
就労系の在留資格は、従事する業務に応じて様々なものが用意されていますが、身分系の在留資格は従事する業務につき制限が設けられていないため、定住者以外には次の3つしかありません。
ただし、在留資格別に在留外国人の構成比を見てみると、在留外国人の約半数が身分系の資格を有していることが分かります。
出入国在留管理庁が発表した「令和5年6月末現在における在留外国人数について」によると、令和5年6月末の在留外国人数は3,223,858人です。
これに対して、永住者・特別永住者・定住者・日本人の配偶者等を合わせた人数は1,523,604人[u3] となっていて、実に約47%以上の身分系在留資格を有する人が日本で暮らしていることになります。
身分系在留資格を保有する外国人の割合を鑑みると、企業として外国人材の雇用を本格化したいと考えている場合、定住者を含む身分系在留資格を持つ人にアプローチするチャンスは十分あると言えるでしょう。
定住者の種類について
定住者には大きく2種類あり、国があらかじめ告示を出して正式に認める「告示定住者」と、告示には書かれていないが例外的に認められた「告示外定住者」に分かれます。
まず、告示定住者となるケースとしては、次のようなものがあげられます。
次に告示外定住者ですが、こちらは基本的に上記告示に該当しない人が分類されます。告示外定住者で比較的多いのは、日本人・永住外国人と結婚していて、その後は配偶者と離婚・死別してしまったケースです。
他には、義務教育(小学3年生以降)から高校まで10年以上日本で教育を受けた家族滞在者が、定住者に在留資格を変更することができます。
在留資格「定住者」の人材を雇用するメリット
就労系の在留資格ではなく、定住者の在留資格を取得している外国人材を雇うことには、どのような利点があるのでしょうか。
以下、具体的なメリットをいくつかご紹介します。
職種の縛りがない
外国人労働者を雇用するにあたり、定住者を選ぶ最も大きなメリットは、職種の縛りがないことです。在留資格に縛られることなく、基本的には日本人労働者と同様、柔軟に業務を任せられます。
就労系の在留資格は、各職種に応じて取得しなければならない在留資格が異なり、取得にあたっては本人の学歴や職歴・資格といった部分についても制限が設けられています。また、雇用形態に縛りが設けられているケースも多く、例えば正社員クラスでなければ認められないなど、在留資格によって様々な制限が課せられます。
しかし、定住者はそういった在留資格に由来する制限の影響を受けないため、例年総合職の採用を行っている企業にとっては、採用する人材の幅を広げられるチャンスになります。
少数精鋭の企業など、様々な業務を兼任しなければならない現場であっても、安心して配置できるでしょう。
新たな顧客層・人脈の開拓
一概には言えませんが、定住者の家族や親類・友人関係は、主に日本人だけの環境で培われたものとは異なり、多様性に富む傾向があります。定住者の両親・親類の母国で暮らしたことがあるなどの理由から、母国語にも堪能である場合、そのネットワークがビジネスにつながることも十分考えられます。
定住者の母国をターゲットにしたビジネスを展開する際は、異文化理解やコミュニケーション上の注意点など、事業展開のアドバイザーとして意見を聞くこともできます。自社で働く他の人材にグローバルな視点を与える意味でも、定住者の存在は重要なポイントになるでしょう。
日本語能力の高さ
人材が定住者となった背景によっては、日本人と遜色のない日本語能力が期待できます。母国語への精通度は人によって異なりますが、日本語が流暢に話せる外国人材は、日本国内において貴重な存在です。
特に、義務教育から高校卒業までを日本で過ごした人材は、ほぼ日本人と同じ配置を検討できますし、任せられる業務の幅も広くなります。自社の中核となる人材を育てたいと考えている企業にとっては、他の在留資格を持つ人材を雇用するよりも、人材教育をスムーズに進めやすいでしょう。
在留資格「定住者」の人材を雇用する際の注意点
定住者は、日本人労働者とほぼ同様の業務を任せられる一方で、あくまでも「日本人とは異なる」という点に気を付けて採用しなければなりません。以下、自社で定住者を雇用する際に注意すべき点について解説します。
在留資格の更新が必要
定住者も在留資格の一種であるため、在留期限が来る前には更新が必要です。更新時は、収入・財産状況の変化、犯罪・違法行為の有無、納税状況など、様々な条件を満たしている必要があります。
万一、雇用した外国人労働者が更新不許可となってしまった場合、その後定住者として自社で働けなくなってしまうおそれがあります。定住者に限った話ではありませんが、外国人材を雇用する際はできるだけプライベートにも気を配り、必要に応じてサポートができるようにしたいところです。
なお、定住者が各種手続きを行う際は身元保証書を求められることが多いため、企業担当者等が身元保証人になることも想定しておきましょう。身元保証人は、連帯保証人とは違って金銭的な債務を肩代わりする類のものではないため、担当者にはその旨を説明しておくことが大切です。
出国リスクを想定して動く
定住者は身分系の在留資格のため、離婚や死別といったプライベートな理由から、その身分を失うおそれがあります。日本人であれば特段気にしない問題でも、外国人材および人材を雇用する企業にとっては重要な問題になるため、さりげなくヒアリングができる環境を整えておきましょう。
万一、外国人材が定住者の身分を失ってしまった場合、次のような可能性を検討しなければなりません。
身分を失うことは、最終的には日本を出国しなければならない事態に発展することにつながるため、外国人材の身分保証や在留資格取得に対応できる準備が必要です。
必要に応じて、各種専門機関や経験豊富な法律家とのパイプをつないでおくとよいでしょう。
属人化しないよう注意する
日本人スタッフにも言えることですが、定住者に任せ続けた業務が属人化しないように努めることも、経営においては重要です。先述した通り、身分を失い職場や国を離れるリスクがある以上、売上や機密面で定住者だけに重要な職務を任せることは、非常にリスキーと言わざるを得ません。
培ってきたノウハウの喪失を取り戻すには時間がかかり、場合によっては事業・業務に大きな悪影響を与えることも予想されます。外国人材を雇用するにしても、外国人材を含めた複数人のスタッフに仕事を任せるようにして、技術等の流出を防ぎましょう。
在留資格「定住者」以外の選択肢
定住者を自社で採用するメリットは確かにあるものの、日本人労働者を雇用する場合に比べて、その身分は強固なものとは必ずしも言い切れません。そのような状況において労働力を確保する場合、他の在留資格を持つ外国人労働者を雇用する選択肢が考えられるでしょう。
技術・人文知識・国際業務
ITエンジニア、会計、デザイナー、通訳など、プロフェッショナル人材の雇用または育成を検討している場合、在留資格「技術・人文知識・国際業務(技人国)」を保有する外国人材を雇用する選択肢が考えられます。
定住者に比べて任せられる業務の範囲は狭まるおそれがあるものの、人材が長期的に問題なく働き続けてくれた場合、永住許可が下りる可能性も十分考えられます。
技人国人材を雇用する際の注意点は、外国人材の能力・適性にふさわしい仕事を任せなければならないことです。
大学・専門学校等で学んだことと仕事内容がマッチしなかったり、技人国人材が従事すべき業務でなかったりする場合は、就労ビザを申請しても不許可となってしまうおそれがあります。
技術・人文知識・国際業務の在留資格について、より詳しい情報を知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
【参考記事】
在留資格「技術・人文知識・国際業務」とは|要件や申請の流れ・注意点も解説
技人国人材の就労ビザが不許可になる理由|事例や対処法・企業の注意点も解説
特定技能
自社で任せたい業務の業種が、特定技能の各分野に該当する場合は、特定技能人材の雇用も検討すべき要素となるでしょう。
過去には「特定技能1号」人材の在留期間が上限5年と定められていましたが、令和5年6月9日の閣議決定により、ほぼすべての分野が在留期間の上限がない「特定技能2号」の対象となりました。
在留資格取得にあたっては、日本語試験と分野ごとの技能試験に合格する必要があるため、即戦力人材が多数います。
また、特定技能1号人材を受入れる際は、多くの企業が「登録支援機関」による支援を受けることになります。はじめて外国人雇用の企業でも安心できるでしょう。
特定技能についてより詳しい情報を知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
【参考記事】
まとめ
定住者は身分系在留資格の一つであり、自分の能力・適性とは別の事情によって取得する在留資格です。定住者の中には、日本で高校まで教育を受けている人も少なくないため、日本の職場にも比較的馴染みやすい人材が多いものと推察されます。
企業が採用する大きなメリットとして、職種の縛りがないことがあげられる反面、何らかの事情で身分を失ってしまった場合のサポートも検討する必要があります。
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