令和6年3月29日の閣議決定により、特定技能制度の運用に関する方針が変更されました。
大きな変更点は、次の2点となっています。
- 受入れ見込み数が再設定されたこと
- 特定技能の対象分野などが追加されたこと
対象分野の追加に関しては、これまで認められていた分野に加えて、新たに4分野が追加される運びとなりました。また、既存分野にも新しい業務が追加されるなど、特定技能外国人が活躍できるフィールドがさらに増える見込みです。
この記事では、閣議決定の内容について、具体的な追加・変更内容の詳細を解説します。
特定技能の対象分野追加について知る前に
特定技能の対象分野が増えた点などについて説明する前に、まずは特定技能制度の概要について確認しましょう。特定技能とは、労働力を確保するのが難しい一部の産業・分野において、一定の専門的知識と技能を有する外国人が働くことを可能にする在留資格です。
特定技能は「1号」と「2号」に分かれ、それぞれ次のような違いがあります。
特定技能2号は過去にも分野を拡大
特定技能2号に関しては、令和5年6月9日の閣議決定においても、分野拡大が正式に決定しています。
変更前のルールにおいては、建設分野と造船・舶用工業分野(溶接区分のみ)を対象としていましたが、その後次の分野も特定技能2号の対象となっています。
- ビルクリーニング
- 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業
- 自動車整備
- 航空
- 宿泊
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
また、造船・舶用工業分野における「溶接区分以外の業務区分すべて」に関しても追加対象となりました。
その他、特定技能制度について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
参考記事:特定技能2号が業種拡大へ!事業主が押さえておきたいポイント
分野追加となった新たな特定技能の業種
令和6年3月29日の閣議決定で、新たに追加された特定技能の業種(分野)は、次の4業種です。
- 自動車運送業
- 鉄道
- 林業
- 木材産業
以下、これらの業種において、特定技能人材が働く業務区分や要件などについて解説します。
自動車運送業
自動車運送業の業務区分は、主にトラック・タクシー・バスの運転や、それに付随する業務全般となります。
それぞれの業務に従事する人材に求められる要件は次の通りです。
技能水準の試験機関は、一般財団法人 日本海事協会です。
なお、上記「日本語教育の参照枠」によると、上記の表における日本語能力の熟達度におけるアルファベットと数字は、それぞれ次のレベルを指します。
タクシー・バスの運転を任される特定技能人材に対しては、乗客とのやり取りが求められる分、1段上の日本語能力が求められるものと考えられます。
特定技能所属機関の条件
特定技能人材が勤務する企業、すなわち特定技能所属機関に対して課される条件には、次のようなものがあげられます。
- 自動車運送事業を経営していること
- 優良な事業所であること(運転者職場環境良好度認証制度に基づく認証/安全優良事業所)
- タクシー・バス運送業に関しては、受入予定の特定技能1号外国人に対し「新任運転者研修」を実施すること
- 「自動車運送業分野特定技能協議会」の構成員になり、協議会に対しては必要な協力を行うこと
- 国土交通省などが行う調査・指導に対して必要な協力を行うこと
- 登録支援機関に支援計画実施を委託する場合、協議会の構成員であり、かつ国土交通省・協議会に対して必要な協力を行う登録支援機関に委託すること
タクシー・バスに関しては、特定技能人材に対して研修を行う必要があるため、その点に注意が必要です。
免許取得・研修までの入国・在留はどうする?
日本でトラック・タクシー・バスを運転するため、特定技能人材には「運転免許の取得」・「新任運転者研修の受講」が求められます。
そのため、上記2点以外の条件を満たした外国人については、受入機関と雇用契約を結んだ上で、在留資格「特定活動」による入国・在留が認められます。
在留期間はトラックとタクシー・バスで異なり、それぞれ以下の期間が設けられます。
- トラック:6ヶ月
- タクシー・バス:1年
また、特定活動の在留資格で在留する期間は、在留資格「特定技能1号」をもって在留する通算在留期間には算入されません。
在留中は、各種手続き以外にも、受入機関において車両の清掃などの関連業務に従事することが可能です。
鉄道
鉄道の業務区分には、鉄道の運転手だけでなく、設備や車両等の整備、車両製造などの業務も含まれます。
それぞれの業務に従事する人材に求められる要件は次の通りです。
また、技能水準の試験機関は、各試験につき以下の通りとなっています。
- 鉄道分野特定技能1号評価試験(軌道整備):一般社団法人 日本鉄道施設協会
- 鉄道分野特定技能1号評価試験(電気設備整備):一般社団法人 鉄道電気安全協会
- 鉄道分野特定技能1号評価試験(車両整備):一般社団法人 日本鉄道車両機械技術協会
- 鉄道分野特定技能1号評価試験(車両製造):日本鉄道車輛工業協会
- 技能検定3級(機械加工、仕上げ、電子機器組立て、電気機器組立て、塗装):都道府県
- 鉄道分野特定技能1号評価試験(運輸係員):日本鉄道運転協会
特定技能所属機関の条件
特定技能人材が勤務する企業、すなわち特定技能所属機関に対して課される条件には、次のようなものがあげられます。
- 鉄道事業法による鉄道事業者、軌道法による軌道事業者、その他鉄道事業・軌道事業の車両の整備・車両の製造に係る事業を営んでいること
- 「鉄道分野特定技能協議会」の構成員になり、協議会に対しては必要な協力を行うこと
- 国土交通省などが行う調査・指導に対して必要な協力を行うこと
- 登録支援機関に支援計画実施を委託する場合、協議会の構成員であり、かつ国土交通省・協議会に対して必要な協力を行う登録支援機関に委託すること
林業
林業の業務区分は1種類で、業務に従事する人材に求められる要件は次の通りです。
特定技能所属機関の条件
特定技能人材が勤務する企業、すなわち特定技能所属機関に対して課される条件には、次のようなものがあげられます。
- 農林水産省が設置する「林業特定技能協議会」の構成員になり、協議会において協議が整った措置を講じ、必要な協力を行うこと
- 農林水産省等が行う調査に対して必要な協力を行うこと
- 登録支援機関に支援計画実施を委託する場合、協議会・農林水産省に対して必要な協力を行う登録支援機関に委託すること
木材産業
木材産業の業務区分は1種類で、業務に従事する人材に求められる要件は次の通りです。
特定技能所属機関の条件
特定技能人材が勤務する企業、すなわち特定技能所属機関に対して課される条件には、次のようなものがあげられます。
- 農林水産省が設置する「木材産業特定技能協議会」の構成員になり、協議会において協議が整った措置を講じ、必要な協力を行うこと
- 農林水産省等が行う調査に対して必要な協力を行うこと
- 登録支援機関に支援計画実施を委託する場合、協議会・農林水産省に対して必要な協力を行う登録支援機関に委託すること
特定技能制度の分野追加以外の変更点
令和6年3月29日の閣議決定では、特定技能の分野追加だけでなく、受入れ見込み数や既存分野においても変更点が存在します。
以下、具体的な変更点について解説します。
受入れ見込数の再設定
新しい分野も含め、2024年4月からの受入れ見込み数が新しく設定されており、具体的な人数は以下の通りとなっています。
表を見る限り、すべての分野において、受入れ見込み数が増えていることが分かります。
受入れ見込み数が大幅に増えている分野もあることから、今後も継続して特定技能人材のニーズは高い状況が続くものと推察されます。
既存分野の変更点
既存分野において大きな変更があったのは、次の3分野です。
- 工業製品製造業分野
- 飲食料品製造業分野
- 造船・舶用工業分野
以下、それぞれの変更点について解説します。
工業製品製造業分野
工業製品製造業分野とは、これまで「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業分野」だった分野が名称変更されたものです。
閣議決定に伴い以下の変更が生じ、新規業種・新規業務区分については、特定技能1号で受入れが可能です。
既存業種・既存業務区分に関しては、特定技能1号・2号で受入れが可能です。
また、新規追加業種・業務区分の受入れ開始時期は未定ですが、以下の通り一部要件が決まっているものもあります。
飲食料品製造業分野
飲食料品製造業分野の変更点としては、いわゆる食料品スーパーマーケット・総合スーパーマーケットの食料品部門における「惣菜等の製造」を可能とするよう、上乗せ基準告示を改正する予定があります。
受入れ開始時は未定ですが、ニーズの高い業務の一種であることから、改正されればこれまで以上に特定技能人材の活躍できる場が増えることになるでしょう。
造船・舶用工業分野
造船・舶用工業分野では、これまで6区分だった業務区分を3区分に再編するとともに作業範囲を拡大し、製造工程において必要となる各種作業を新たな業務区分に追加しています。
新たな業務区分・作業は以下の通りです。
今後の流れ
2024年4月以降、パブリックコメントを経て、その以降関係する省令・告示を改正し、施行の準備を整える予定です。
パブリックコメントの募集は下記のURLをご参照ください。
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public
特定技能の分野追加は人材確保のチャンス
今回の閣議決定で、自社が特定技能の分野追加の対象となった場合、新卒・中途採用に苦戦している現状を特定技能人材の採用でカバーできる可能性があります。
特定技能の分野追加は人材確保のチャンスと考え、今後は海外人材の雇用も視野に入れることを検討してみましょう。
以下、特定技能人材を雇用するメリットと、雇用時の注意点について解説します。
特定技能人材を雇用するメリット
特定技能人材は、一定レベルの技能・日本語能力を備えているため、即戦力としての活躍が期待できます。また、総じて若い人材が多い傾向にあるため、若年者確保の観点からもメリットは大きいでしょう。
優秀な人材であれば、将来的に特定技能2号人材として、長期的な活躍も見込めます。特定技能人材の無期限雇用によるメリットについて詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
参考記事:特定技能人材は無期限で雇用できる?現状と将来について考察
特定技能人材を雇用する際の注意点
初めて特定技能人材を雇用する場合、外国人を支援する体制を整えるのが難しいため、自社に合った登録支援機関を選ぶことが大切です。例えば、実績が豊富であっても、遠方の機関だと急な事情に対応できないおそれがあるため、自社が安心して頼れる登録支援機関を探しましょう。
また、特定技能人材の多くは、社内での仕事だけでなくプライベートでのサポートを必要とする場面も多いため、専任の担当者を用意する・社内で勉強会を実施するなどの工夫も求められます。
対応が不十分な場合、せっかく育てた人材が転職してしまうおそれもあるため注意が必要です。
参考記事:登録支援機関の一覧について|製造業におけるチェックポイントも解説
参考記事:外国人の定着率向上について|技能実習生など人材ごとのポイントも解説
まとめ
特定技能制度は、今後も様々な点の変更が想定されるため、今後の動きを注視する必要があるでしょう。しかし、今回の閣議決定で自社が特定技能人材を受入れられるようになった場合は、早期に人材獲得に向けて動きをかけることが大切です。
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