先日、『週刊東洋経済』12月2日号の特集にて「外国人材が来ない!」という表題で、日本の各産業において人材不足が深刻化している日本では外国人材への依存度が高まりをみせていますが、外国人材のうち技能実習生の多くを呼び寄せていた東南アジア各国の発展に伴い日本との賃金格差がなくなってきていること、また2022年からの急激な円安も影響し、日本では以前のようには稼ぐことができなくなっているため、日本が就労先として選ばれなくなっていると紹介されていました。
(記事元:外国人が来ない!選ばれる企業・捨てられる企業)
外国採用の現場から見た実情はどうなのか、今回は私たちSATAKEグループとも関わりの深いタイから見た就労先としての日本について紹介します。
タイ人労働者の基礎知識
日本で働くタイ人
出入国在留管理庁の報道発表資料によると日本の在留外国人の数は2022年末時点でに307万35,213人で、多い国から中国(76万人)、ベトナム(48万人)、韓国(41万人)となっており、10番目に位置するのがタイ(56,701人)です。
日本に在留するタイ人のうち、就労に関する在留資格をもつ方は技能実習が9,425人、技術・人文知識・国際業務が2,538人、特定技能が2,580人となっています。
タイ人の特徴
タイは東南アジアの中心に位置する国で、人口6,609万人で人口の約95%が上座部仏教を信仰しています。
タイ人はおおらかな国民性で、温厚で親切な人が多く極力平和的に問題を解決しようとするケースが多く見られます。
(詳しくは:タイ人エンジニアの特徴|性格・宗教・教育・就職事情など幅広く紹介)
親日国でも知られるタイではアニメや漫画、アイドルなど若者を中心に日本の文化や言語に関心が高く、教育においても泰日工業大学などの大学や高等教育などにおいても日本語教育が行われる学校も複数あります。
(詳しくは:【現地ルポ】タイ人エンジニアの採用・就職事情 〜現地大学のジョブフェアに潜入〜)
SATAKEグループとタイ人の関わり
当社ファクトリーラボの親会社の佐竹製作所(金属加工の製造業)では元々技能実習生としてタイ人の受け入れを行うようになり、現在特定技能や技術・人文知識・国際業務の在留資格で合計60名以上のタイ人従業員を雇用しております。
またSATAKEグループはタイに現地法人(エス・アイ・プレスメント株式会社)を有しており、金属加工部品の輸出入及び、タイ国内での人材紹介業を行っており、特に日本で就労経験のある人材をタイ国内の日系企業向けに紹介することをメインとしています。
弊社ファクトトリーラボにおいてもインドネシアやベトナムの人材と並びタイ人の人材を特定技能や高度人材として、これまでたくさんのお客さまにご紹介をしてまいりました。
このようにグループとしてタイ人との関わりの多いSATAKEグループですので、タイに関する人材事情については日々多くの情報が入ってきており、当社の強みの一つとなっております。
日本は外国人から選ばれなくなっている
技能実習生も募集が困難になっている
外国人技能実習制度は1993年に制度かされたもので、開発途上国の経済発展を担う「人づくり」に寄与する国際貢献のための制度でしたが、実態としては日本企業の現場作業員の人手不足を解消する手段として用いられてきました。しかし、この技能実習生においても以前より、ベトナムを中心に人材の募集が年々難しくなっており、人材を斡旋する現地送り出し機関で以前は募集人数の3倍の人数の候補者を面接に参加させることが一般的でしたが、今では職種や給与によっては募集ができないということも発生しています。
タイにおいても首都バンコクを中心に年々物価や賃金水準は上昇しており、以前は求人票に記載されている見込みの手取り金額が10万円以下でも募集は可能でしたが、最近では職種によっては13万円以上の手取り金額がないと募集ができないということもあるようです。
ブローカーに支払う手数料
日本に働きにいくことを妨げる要因には現地ブローカーに支払う高額手数料も別の要因として挙げられます。
日本に技能実習生で行くためには必ず現地でライセンスを持っている送り出し機関を経由して手続きすることが求められ、その際には書類の手続きや日本語の教育費用として高額な手数料を支払う必要があります。(一部の政府系の送り出し機関を利用する場合は手数料がかからないこともあります)
タイ人の元技能実習生の数十人に聞き取りを行ったところ、日本円で総額70万円~90万円の費用を支払ったとのことで、ベトナムやインドネシアでも大体の相場が同様の金額で、これは送り出し機関によっても異なるようです。
以前はこれだけ多額の手数料を払っても日本に働きに行きたいという人材も多くいましたが、現在は手数料を多少値下げしたり、手数料の分割払いを認めるなど送り出し機関も人材を募集するため、さまざまな工夫を行なっています。
2023年11月24日に行われた「技能実習生制度」廃止に向けた有識者会議ではこうした現地送り出し機関に支払う手数料についても日本企業が一部負担するという提案が行われておりますが、現状送り出し機関が日本側に報告している手数料と実際に人材から徴収している手数料は大抵異なっているため、新たな制度に変わり対策が行われたところで、どれくらいの効果があるかは分かりません。
参考記事:技能実習制度廃止で何が変わる?新しい「育成就労制度」についても解説
タイでも日本よりも他の国の方が選ばれている
タイ労働省からのデータでは2023年1月〜10月にタイ人労働者として出稼ぎ出国した国々のランキングでは、台湾が1位で18,699名、2位が韓国で7,490名で、日本は3位の6,385名となっています。昨年までは中東のイスラエルが台湾や韓国についでに日本よりも出稼ぎ先として人気な国でした。
日本に技能実習生として出国するためには一定期間の日本語教育を受けることが必要となるうえ、出国までは5ヶ月程度の期間がかかり、在留期間は最大で5年であるのに対して、1位の台湾は出国までの期間が2週間程度で、在留期間は最長で12年間となっています。また日本の技能実習制度が企業の転籍を認めていないのに対して、台湾では転籍が認められており、残業時間に関しても日本のように厳しい規制がないため日本よりも稼げる台湾の方が魅力的に映るのはしょうがないことでしょう。
また韓国に関しては就労にいくためには一定の語学力の要件がありますが、賃金水準が日本よりも高いことに加え、タイ現地で政府が運営する送り出し機関しか斡旋ができないため出国に伴う人材の金銭的な負担も少ないため、日本よりも人気となっています。
タイから日本に出稼ぎに行くことのメリット
金銭的メリット
タイから日本に技能実習生で出稼ぎに行くことを希望する人材はタイの地方出身者で高校か専門学校の卒業といった方が最も多くいます。タイの地方部では給与も都心に比べると安く、日本に行く前の月の給与は2万5千円~5万円程度というのが一般的な水準です。
これが日本で技能実習生として、働いた場合には月の手取りで10万円以上の金額を手にすることができ、日本での生活で節約をして、貯金をすれば実習生を3年間終えて帰国する頃にはタイではできなかったような大金を貯金することができます。
子どもが自立後に親を養うことが一般的なタイでは、この3年間で貯金したお金で親に家や車を買ってあげたり、家族で自営業をしている場合には新しい設備を買ったりすることに使うといった話をよく耳にします。このように、技能実習生制度は限られた期間、日本で働くことでタイでは手にすることができなかったような大金を手にすることができるという魅力があり、多くのタイ人が技能実習生として日本を目指していました。
キャリア的メリット
JETRO(日本貿易振興機構)の「タイ日系企業進出動向調査2020年」によると、タイには5,856社の日系企業があり、そのうち2,344社が製造業企業となっています。
弊社SATAKEグループのタイ法人ではそうしたタイにある日系企業向けに人材紹介業をおこなっておりますが、日本語が話せる人材や日本に行って企業で就労を経験した人材の給与相場が一般のタイ人より高い傾向にあります。
タイで大学卒業した方が国内の企業に就職する場合には初任給は約5万円程度からのスタートというのが一般的です。もし日本での就労経験があり、日本語検定N4以上の日本語能力があれば給与相場は6万5千円~10万円となっており、最終学歴が高等学校卒業の人材であったとしても、同じ年齢の大学を卒業した人よりも高い給与の仕事に就くことのできるチャンスがあります。
さらにタイの日系製造業での日本語の通訳の求人において、N2以上の高度な日本語スキルを身につけている場合には基本給で20万円以上の給与の求人があることも珍しくなく、日本でもらえる給与と同等かそれ以上の仕事にタイで就くこともできるのです。
また日本においても2018年から特定技能制度が開始されたことにより、日本語や技術面でのスキルアップをすることは帰国したあとだけではなく、日本でより長く就労したり、より良い条件の仕事を選ぶことができるようになるなど、人材側の選択肢を広げ、キャリアの幅が広がっていくことにも繋がります。
しかし、そうした情報をキャッチアップしている技能実習生たちは多くはなく、日本からタイに帰国後に日本に行く前と同じような仕事に戻ったり、タイ帰国後には日本語を使う環境がなく学んだスキルや経験が無駄になっているケースも多く見られますので、彼らのキャリア教育なども弊社グループで行なっております。
人材確保が難しくなる日本で
2018年より、特定技能制度が開始され日本での就労期間がさらに延長され、同じ職種であれば他の会社への転職が可能となりました。また2024年より技能実習生制度も法改正をされ新たな「育成就労制度」ではこれまで技能実習制度では転籍が認められることとなりそうです。
日本に出稼ぎにくる外国人が減り、日本にいる外国人の転職も認められるようになると国内企業での外国人労働者の取り合いが起こることは必至と考えられますが、外国人に自社を選んでもらう上で中小企業が金銭的なメリットのみで集めるということには限界があります。
そのような時にこの「キャリア的なメリット」というのがキーワードとなってくるのではないでしょうか。
この会社に入ることで「こんなスキルが身に付く」「こんなキャリアアップができる」といったことを魅力として人材募集をするということです。
このように言うと「スキルを身につけて他の会社にキャリアアップ就職をしてしまうのでは」という声が聞こえてきそうですが、そうしたリスクがある一方で、スキルを身につけたいと思っている外国人は集まってくるでしょう。外国人は日本人以上に企業の評版や口コミに関して敏感でSNSや友達との会話で情報交換をしており、良い口コミが広がれば人材側から企業に採用してくれないかと連絡が来るようになります。
日本で就労したことをきっかけに今後のキャリアの選択肢が広がるということが、人材が海外の他の国ではなく日本を選ぶ理由になり得ると思いますし、今後日本が海外と人材確保の争奪戦を行なっていくなかでの強みになるでしょう。
私たちSATAKEグループは多くの日本で働きたい外国人人材と関わっていく中でそうした考え方をタイ人をはじめ、より多くの外国人に持ってもらえるような活動を行っていきたいと思っております。